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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第二章 天界の天使編
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第45話 わしは雪を信じていたんじゃがな

 イアンさんと並んで歩きながら私は魔法陣がある時計台へと向かっていた。


「ユキ」


 突然イアンさんに名前を呼ばれて彼の方を見る。イアンさんは何だか暗そうな顔をしていた。


「どうしたんですか? イアンさん」


 心配になって声をかける。家にいた時のイアンさんとは打って変わった静かなテンションだ。


「昨日のこと、ちゃんと謝れていなかったから。昨日は無茶をさせてしまって本当にすまなかった」


 立ち止まり、イアンさんは頭を下げた。


「いや、いいですよ! だってイアンさんは何も悪くないじゃないですか」


「ううん。僕のせいだ。僕が弱いせいでユキが生死を彷徨わないといけなくなってしまった」


 自責の念に駆られているイアンさんは悔しそうに唇を噛みしめる。


「……前に僕が能力(ちから)を溜めてた話したよね」


 イアンさんに問われて私は頷く。


 イアンさんは私から空中に視線を移すとポツリと言った。


「実は全く意味がないんだ」


「え?」


 意味がないってどういうことだろう。


「今こうやって鬼衛隊の隊長任されてるのも完全にお父様のコネだし、僕自身は全然強くないんだ」


 それを聞いて私は、女天兵長・ルーンさんを圧倒していたイアンさんの戦いっぷりを思い出す。


 あの時と今なら確実に今の方が強い。


 それに強くなるためにイアンさんは強化訓練を頑張ってきたんだから。その努力は報われていたと私は思う。


「根本的なところが弱いから数で来られたら完全に負けちゃう。昨日みたいにね」


 情けなさそうにイアンさんは口角を上げて私を見る。


「あ、あれは仕方ないですよ。だって天兵の数が多過ぎましたし」


 慌てて言った。


 実際、一人対数百人では明らかに一人であるイアンさんの方が不利だ。


「でも本当はあれぐらいの数一人で倒せなきゃいけないんだよ」


 イアンさんは拳を握りしめる。怒りか悲しみか悔しさか、はたまた全てがその拳を震わせていた。


「歴代の鬼衛隊長は強かったんだ。それこそ天使たちなんてあっという間に倒せてたし、それどころか天界の方が吸血鬼界を恐れてた。潰しにかかろうとしても逆に自分たちが潰されるからね。今みたいに奇襲もなかったよ」


 昔を懐かしむように、イアンさんは空を仰いだ。


「だから僕も強くならないといけないんだ」


 それからまた私の方に向き直って情けなく笑った。


「お父様にこっぴどく叱られたよ。何で人間に無茶させておいてお前は怪我したからってリタイアして悠々と室内にいたんだって。確かにお父様の言う通りだよ。キルやレオやミリアにも辛い思いをさせちゃったし、それに危うくユキは死ぬところだった」


「え⁉︎」


 驚いた。確かに全身の血の気が引いていくような感覚は覚えてるし意識もこっちには無かったけど、まさか本当に死にかけだったなんて思わなかったよ。


「人間を危険な目に合わせちゃ絶対に行けないんだ。マコトにも顔向けできないよ」


 はぁ、とため息をついておでこに手を当てるイアンさん。


「で、でも、私こうやって生きてるわけですし、キルちゃんや皆だって命に別状はないし、結果オーライでいいんじゃないですか?」


 私はイアンさんに尋ねる。


 悩んだりグジグジ言っても過去は変わらないし変えられない。


 それを教えてくれたのはイアンさんであり、吸血鬼界だ。私がここで学んだことだ。


「……あっ、ごめんね。朝からこんな重い話。ダメだな僕は。何かユキが相手だと何でもベラベラ喋っちゃうんだよね」


 ハッと気付き、頭をかいてイアンさんは言った。


「急ごうか。さっきの話で多分結構時間ロスしちゃったはず。ユキが学校に遅刻するのは嫌だしね」


「ありがとうございます」


 そして私たちは全速力で走って魔法陣がある時計台にたどり着いた。


「【魔法陣マジカイア・サークル】!」


 イアンさんの呪文が響き渡り、魔法陣から水色の光が現れて私たちの視界を覆った。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 再び視界が開けて、いつもの丘の上に着いた。


「ありがとうございました」


 隣のイアンさんに頭を下げる。


「ううん、大丈夫。時間大丈夫かい?」


「はい! じゃあ、また」


「うん。迎えに行くからね」


 イアンさんとは手を振って私は家へ走って行った。


 おじいちゃんにバレないようにそっとドアを開けて家に侵入。


 幸いリビングに人の気配はない。


 音を立てないようにそっと階段を上っていく。


「雪、どこに行っとったんじゃ?」


 不意に声がして、私は思わず飛び上がりそうになった。


 階段のすぐ近くにあるおじいちゃんの寝室から、おじいちゃんが怒りの形相でこちらを見ていた。


「昨日は待っても待っても帰ってこんかったじゃないか。どこに行っとったんじゃ」


 腕を組み、私を見下ろすおじいちゃん。


 こんな顔は久しぶりに見た気がする。


「ご、ごめんなさい……」


 顔を直視できずに俯いて謝罪する。


「どこに行っとったか聞いとるんじゃ」


 おじいちゃんは冷たく言い放った。


「そ、それは……」


 言えない。吸血鬼界なんて言ったら怒られるに決まってる。


 吸血鬼は人間に害を及ぼす存在だって思われてるし、おじいちゃんもその考えは同じはず。


「言えんのか」


 黙って頷くしかなかった。


「雪」


 名前を呼ばれても頭を上げることが出来ない。


 私はあれだけ面倒を見てくれたおじいちゃんを裏切ってしまった。


 昨日だって、どれくらいの間私が帰るのを寝ずに待ってくれていたかと思うだけで胸が痛む。


 夜中の外出は禁止。そのルールをいとも簡単に破ってしまった。


「顔を上げなさい」


 それでも顔を上げない私に、おじいちゃんはもう一度言う。


「上げなさい」


 私はゆっくりと顔を上げた。


 眉を潜めて私を睨みつけ、口を固く結んでいるおじいちゃんの姿がそこにはあった。


「歯を食いしばれ」


 言う通りに口に力を入れる。何をされるか分かっていた。


 おじいちゃんはアレをする時、いつもこう言うのだ。


 バシン!


 強烈な音と共に私の左頬にだんだん熱が篭っていった。


 ジンジンと痛む頬を押さえて、私はおじいちゃんを見上げる。


「ごめんなさい……」


 頬から手を離して頭を下げた。


「わしは雪を信じていたんじゃがな」


 ため息まじりにおじいちゃんは言う。


「もう一度約束じゃ。夜中の外出は禁止。良いな?」


 おじいちゃんに問われて私は黙って頷いた。


「全く心配させおって……ゴホッゴホッ」


 おじいちゃんが咳き込む。風邪でも引いちゃったのかな。


「だ、大丈夫?」


「わしに構うな。さっさと学校の準備をしなさい」


 ご飯は作ってある、と言い残しておじいちゃんは私の目の前で扉を閉めた。


 私はしばらく扉の前に突っ立っていたけど、すごすごと一階へ降りて学校に行く準備をした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お爺ちゃんのシーンが、どれも胸が痛い。 心配をかけてはイカンよ……
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