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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第二章 天界の天使編
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第39話 私が皆を守る

 とは言ってもやっぱり難しい。引っ掻くだけよりは噛み付いてる方が良いけどこれだと絶対に間に合わない。

 こうしてる間にもミリアさんの身体に毒が回ってるのに……!

 私は必死にスピードを上げてフォレスの太い深緑色の蔓を噛みちぎり続けていた。


「ったく! 何やってんだよ人間! 邪魔すんな!」


 フォレスが怒り、ミリアさんの身体に巻きついている二本のうち一本をするりと抜いた。


「……ユキ様!」


「え?」


 頭上でミリアさんが叫び声を上げる。見上げるとその目はまるで恐怖に打ちひしがれたように見開かれてウルウルと動く瞳がまっすぐ前を見ていた。

 何かあるのかな……。


「うっ!」


 いきなり今まで受けたこともない痛みが全身を襲い、私の体が宙へ舞い上がる。と思ったらその瞬間に地面へ叩きつけられて、その反動で脇の市場の屋台へ飛ばされ、したたかに背中を打つ。

 私が背中を打ったのは八百屋の屋台の野菜置き場で板を何枚も繋ぎ合わせて作られたそれは普段の木の板よりも確実に頑丈だった。


「ユキ様!」


 私を飛ばした蔓とは別のもう一本の蔓で縛られているミリアさんが転がった私に向かって叫ぶ。


「余計な真似するからだぞ人間! いてー目見たくなかったら大人しくしてろ!」


「うっ!」


 怒りながらフォレスはもう一度太い蔓で私の体を打った。一回だけじゃない、何度も何度も。自分の気が済むまで。

 当たり前だ。自分の攻撃を邪魔されたんだから怒って当然だ。そう思って私は痛みを我慢してじっとしていた。歯向かったところで勝ち目はないし、もっと痛みが増すのは嫌だった。


「何やってんのよ! やめなさい!」


 キルちゃんの短剣が黒緑の太い蔓を切り裂いた。切り裂かれた蔓は私の近くに転がり落ちた。


「あっ! おい! 何すんだよ!」


「キル……ちゃん……」


 良かった。キルちゃんのおかげで事なきを得た。身体はジンジン痛むしそのせいで立てない。おまけにミリアさんのことも結局助けられなかったけど。

 ミリアさんは不安な目で私を見つめていた。私、何やってるんだろ。助けるつもりだったのに結局助けられて自分は何も出来なかった。

 冷たい地面が傷に染みるのと情けないのとで涙が溢れてくる。


「レオ! ミリアさんをお願い!」


「分かった!」


 キルちゃんが短剣でミリアさんを縛っている蔓を切り裂き、無防備になったミリアさんを空中でレオくんが抱きとめた。

 無事にミリアさんは救出された。


「あーっ! もう! せっかくうまくいったと思ったのによ!」


 蔓を二本とも切られたフォレスが悔しそうに地団駄を踏む。歯ぎしりし、キルちゃんやレオくんを睨みつけながら


「覚悟しろよ! 草の使い手の力を見せてやる!」


 生えていた蔓を双剣の中に仕舞い込み、腰をかがめて身構えた。


「レオ、ミリアさんを家に連れ帰って手当てして! 毒が回ったら死んじゃう!」


 キルちゃんが叫びながら短剣を構えて戦闘待機。レオくんはキルちゃんに向かって頷き傷ついたミリアさんを両手に抱いて走っていく。


「逃げるな! おいウォル! お前もちょっとは手伝えよ!」


 怒りが止まらないフォレスは弟のウォルにまで怒りをぶつける。


「う、うん!」


 フォレスの形相に肩を縮めながらウォルはレオくんの行手を阻む。


「ここからは行かせないよ」


 震える手を懸命に広げて立つウォル。


「どけ。ミリアさんの命がかかってるんだ……」


 シュッ!


「なっ……!」


 レオくんの頰から血が迸り、線状の傷を作った。

 ウォルが弓矢で威嚇攻撃したんだ。


「ボクは水の使い手。弱いって思って油断してたら痛い目見るよ?」


 先ほどの態度とは打って変わったウォルにレオくんは驚きたじろぐ。


(ま、まさか全部演技!?)


 そうとしか考えられない。さっきまでのウォルはレオくんの攻撃に恐れをなして逃げまとっていただけだったのに急に挑戦的な態度になるなんて。

 白色と水色のマッシュルームの影から真っ青な海のような目が覗くウォルは地面を蹴ってレオくんの目前へ跳び、白い歯を見せて目を見開いた。

 直後、レオくんの体が一瞬にして吹っ飛ぶ。


「レオくん!」


 でも私は、ただそれを見送ることしかできない。空中に投げ出された二人が地面に叩き落とされるのを。

 ウォルは手加減を知らないように一歩ずつ倒れた二人にじりじりと迫っていく。走れば絶対に殺せるのにあえてそれをしない。


「レオ! ミリアさん!」


 気付いたキルちゃんが二人の方へ向かおうとするけど、


「おっと! 行かせねーぞ! 吸血鬼やろー!」


 フォレスの双剣から伸びた蔓に体を巻き上げられてそれも叶わない。


「うっ!」


 キルちゃんが呻き声をあげたと思った時、彼女の腹部からあの紫色の煙が。毒だ。キルちゃんの体にも毒が入ってしまった。


「キルちゃん!」


 少し動けるようになった体を起こし、よたよたと私は三人の方へ足を進める。今更行ったって事は済んでいるし私じゃ何の戦力にもならない。そんなことはわかってる。でも、助けたい。

 するとキルちゃんを縛った蔓が大きく動き、レオくんとミリアさんの場所へうねる。キルちゃんは投げ出されて二人のそばに落下。


 ダメだ。


「さてと、とりあえずこいつらを片付けるか」


 ダメ。絶対にダメ。


「ボクを甘く見た罰だからね」


 嫌だ。絶対に嫌だ。


「「さようなら」」


 二人の声が重なった。


「ダメぇぇぇぇぇぇっっっ!」


 動いた! 体が軽い! これなら……。


「ハ? 何してんだ人間」


 振りかぶろうとした双剣を止めてフォレスが顔をしかめる。同じように引こうとした弓を下ろして


「死んじゃうけどいいの?」


 ウォルが小首を傾げて間に割って入った私を見る。


「皆には、手を出さないでください!」


 後ろで、三人が息を呑む音が微かに聞こえた気がした。

 逃げちゃダメだ。怖くても、踏ん張るしかない。皆が死ぬ方がもっと怖い。今まで皆は散々私を守ってくれた。今、動けるのは私だけ。


 だったら___。


 私が、皆を守る!

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