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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第一章 出会い編
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第4話 ようこそ! 吸血鬼界へ!

「え? いいんですか?」


 突然のイアンさんの提案に、私は思わず聞き返してしまう。


 だ、だって、吸血鬼の世界に人間が来たってなったら、吸血鬼の皆がパニックになっちゃうだろうし……。


 でもイアンさんはニッコリと笑って言った。


「もちろん大丈夫だよ。その都度僕が説明するから」


 大丈夫、なのかな。


 私が戸惑っていると、イアンさんは私の背中を押してドアの外へと連れ出してくれた。


「さぁ、行こう」


 ドアが開き、目の前には沢山の吸血鬼が行き交う街が広がった。

 同じような外見の建物が隙間なく並んでいて全て木造っぽい。

 石畳の道路はゴミ一つなく、綺麗に整備されていた。


「す、すごい……!」


 思わず感動が声に出てしまった私を見て、イアンさんがクスッと笑う。


「ここが僕たちが暮らしてる世界だよ」


「人間にとっては異世界になるんでしょ?」


 キルちゃんが戸締りをしながら真剣な表情で聞いてきたので、私はコクリと頷く。


「ふーん」


 キルちゃんは納得したようにそう言って鍵をポケットにしまった。

 黒いマントがめくれて茶色いズボンが見える。


 今までよく見えなかったけど、キルちゃんは黒いマントの下に白いシャツと茶色いズボンを履いていた。

 シャツはボタン式になっていて、中央で上から下に留めていくもの。

 ズボンはキルちゃんの本来の脚の太さより一回りほど大きく、裾がふんわりと丸くなっているものだった。

 白いシャツが太陽に照らされて眩しいくらいに輝き、キルちゃんのピンク色の髪の毛をより際立たせていた。


「見ないで」


 キルちゃんに言われて私はハッとした。思わず見とれてしまっていたらしい。

 顔を少し赤らめて視線を地面に落としているキルちゃんは、何だか恥ずかしがっている様子だった。


「あ、ご、ごめん!」


 急いで謝ると、コクリと小さく頷いてくれた。


「う〜ん、どこから案内しようかな〜」


 そんな私たちの横で、イアンさんは一人悩んでいた。

 イアンさんの服装もよく見てみると、黒いマントの下に白いブラウスのような薄いシャツを着ていた。

 やっぱりかっこいいな、と見とれてしまう。


「ん?」


 気がつくとイアンさんと目が合っていた。


「‼︎‼︎」


 私は急いで目をそらす。


「アハハ! 君って面白いね」


 イアンさんは白い歯を見せて笑った。


「早く案内してあげよう」


 キルちゃんがそう言うと、イアンさんも頷いた。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 そして私たちはしばらく歩き、市場らしき場所に着いた。


「ここが商店街だよ」


 イアンさんが説明してくれた。

 商店街か。人だかりも急に増えた気がする。みんな市場に来てたんだ。


 私はその商店街を見渡した。

 沢山の屋台らしきものがずらりと並んでいて売っているものも様々だった。


 野菜や果物を売っているお店。

 まるで海賊が食べるような大きなサイズにカットされたお肉を売っている店。

 食べ物だけじゃなくて、女の子用のアクセサリーや子供用のおもちゃのお店。

 小腹が空いた時に食べられる、ちょっとしたお菓子のような物を売っているお店もあった。


「すごい……! 祭りの屋台みたいですね!」


 イアンさんにそう言うと、ニッコリと笑ってくれた。


「そうだね。確か、人間界にもこういう商店街があるんだったっけ?」


「はい。夏祭りとか屋台多いですよ」


「そうなんだね」


 イアンさん、結構人間界のこと知ってるんだ。

 何も知らない外国みたいに思ってたけどちょっと違うのかも。


 ぐぅぅぅぎゅるぎゅるぎゅる……。


 しまった……! 思わずお腹を鳴らしてしまった……!


 だって美味しそうな匂いばっかりなんだもん!


 恥ずかしさで顔が火照ってしまう。


 恥ずかしいよ……こんな人混みの中で……!


 みんなにチラチラ見られてるし! 恥ずかしい!!


「「アハハハ」」


 見上げるとイアンさんも、そしてキルちゃんも笑っていた。


 二人に笑われたら余計に恥ずかしい……! 穴があったら入りたい!


 でもイアンさんは私の頭に優しく手を置いてくれた。


「よし、せっかくだから昼食はここで食べよう。何か食べられるものはあるかい? ……えっと」


 急に私の方を見て、何やら考え込んでいる様子のイアンさん。


 どうしたんだろ……。


「まだ名前を聞いてなかったね。君の名前」


 そうだった! まだ名乗ってなかったんだ! きっと名前がわからなくて困ってたんだ!


「ご、ごめんなさい! え、えっと、私、村瀬(むらせ)(ゆき)って言います!」


 『よろしくお願いします』を最後まで言えないまま、ぺこりとお辞儀をする。


「む、むら……せ……?」


 イアンさん、何だか言いにくそう。


「あ、じゃあユキで良いですよ」


「うん、分かった。ユキ、よろしく」


 イアンさんは笑顔で挨拶してくれた。


「よろしく、ユキ」


 キルちゃんも挨拶してくれる。


「うん!」


「じゃあ改めて、何か食べたいものはあるかい? ユキ」


 イアンさんが尋ねてくれた。


 食べたいもの、か……。


 私はもう一度商店街を見渡す。

 いろんな屋台が並んでいてすぐには決めきれない。


 でもあの大きなお肉食べてみたいな……。


 ああいう骨つきの肉は漫画とかでしか見たことがなかったから、実際に体験できるならぜひやってみたい。


「あのお肉が良いです」


「わかった」


 そう言ってイアンさんは三人分のお肉を買ってくれた。


「これ三人分で」


「はいよ。300パイヤだよ」


 少し丸々したおばさん吸血鬼が威勢の良い声でそう言うと、イアンさんはポケットから小包みを取り出した。


「えっと、300パイヤ……」


 呟きながら小銭を取り出している。


「はい、毎度」


 イアンさんがおばさんに小銭を渡すと、おばさんはビニール袋に入れたお肉を差し出してくれた。


 キルちゃんが背伸びをして受け取る。


「小銭いっぱいあるんですね」


 昼ごはんの調達も終えて少し歩きながら、私はイアンさんに言った。


「そうだよ。パイヤっていう単位は人間界でも同じかな?」


「いえ、人間界では円って単位なんです」


「エン、かぁ。面白いね」


 そ、そうなのかなぁ。


 でもイアンさんはキラキラと目を輝かせている。


 まぁ、いっか。お肉買ってもらえたし!


 商店街を抜けたところに設置されているテラスのような場所に座ると、イアンさんがお肉を渡してくれた。


「ありがとうございます」


 私は両手で受け取る。

 予想以上に重たくて腕がガクンと下がる。

 売り場に売られてあるとそこまでだけど、実際に持ってみると大きさも重さも全然違う。


 程よく焦げ目が付いていてすごく美味しそう。よだれが……。


「「「いただきます」」」


 三人で声を揃えて同時にお肉にかじりついた。


 おいしい!


 噛んだ瞬間に肉汁がぶわぁっと溢れてとってもジューシー。

 おまけに身も柔らかくて食べやすい。


「ねぇ、これ何の肉なんですか?」


 気になっていたことを聞いてみる。


 吸血鬼の世界だし、また違った動物のお肉を食べているのかもしれないし。


「イノシシだよ」


 そう答えてくれたのはキルちゃん。


 って、イノシシ!?


 確かに予想はしてたけど、いざ言われるとやっぱり驚いてしまう。

 想像していたよりずっと良いものだった。


 普段は豚や牛や鶏を食べているため、何となくその他の動物の肉だと苦味があるかもとか臭いかもとか、そういうイメージを持ってしまった私。

 でも食べてみるとすごく美味しかった。


「お待たせ」


 いつのまにか席を外していたイアンさんが戻ってきた。

 手には飲み物のコップを持っている。


「これ、何ですか?」


 私が尋ねると、イアンさんが答えてくれた。


「トマトジュースだよ」


 え、本当に吸血鬼ってトマトジュース飲むんだ。


 とはいえ、私も飲むのは初めてだからこの機会に飲んでみたい。

 ストローをさしてトマトジュースを吸い込む。


 ……うん、なかなかいける!


 トマト特有のあの粒々感もなく苦味も抑えられていて、飲みやすいあっさりした味わいだった。

 もちろん、イアンさんとキルちゃんは美味しそうに飲んでいた。


「「「ごちそうさまでした」」」


「はーおいしかった!」


 私は、椅子の上でぐーんと伸びをした。


「そう? 良かった」


 イアンさんが安心そうに笑い、キルちゃんも満足げな様子。


「天兵軍だぁぁ!!」


 そんな叫び声がしたのは、私たちがひと休憩を終えてテラスを出ようとしていた時だった。


 て、天兵軍⁉︎


 商店街の方を見ると、真っ白な光がこちらに迫ってきていた。

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