第38話 絶対に助けます!
剣と剣、剣と弓矢がぶつかり合い、激しい戦闘が繰り広げられていた。
勿論人間の私には何の力もないから、黙って吸血鬼の皆を見守ることしかできない。
ただ息を呑んで、キルちゃん、レオくん、ミリアさんが負けないことを祈りながら。
「オレたち双子の力見せてやるぜ! なぁウォル!」
戦闘前、蔓で出来た双剣を手に走りながら、フォレスがもう一人の天使ウォルに呼びかけていた。
「う、うん、フォレス。そのつもりなんだけどね、このヒト強過ぎるよ。……うわぁっ来ないで!」
どうやらフォレスの方が双子の兄で、ウォルの方が双子の弟のようだ。
背丈や性格からしてもその違いは一目瞭然。
ウォルよりもフォレスのほうが身長が高いし、その分だけ威勢もいい。
そのフォレスは真っ先に目をつけたのかキルちゃんに向かって走り込んでいった。
弟天使ウォルの方は、レオくんに迫られてすぐさまUターン。
せっかく引いていた水製の弓も引っ込めてしまった。
「やるじゃない!」
短剣を器用に扱いつつ軽やかに舞いながら、キルちゃんがフォレスに向かって言う。
「はっ! 馬鹿にすんじゃねーよ吸血鬼やろー! 食らいやがれ!」
キルちゃんと戦っている相手____天使フォレスが茶色い蔓で包まれた双剣から葉の攻撃を繰り出す。
だけどそれもキルちゃんは華麗に避けて、フォレスの懐に潜り込み、
「もらった!」
と短剣を勢いよく振りかぶる。
「させるかよ!」
キルちゃんの短剣があと少しでフォレスのお腹に当たるというところで、フォレスは地面を蹴って後退し何とか攻撃を交わしきった。
どちらも互角の戦いだった。
一方、レオくんvs天使ウォルでは圧倒的にレオくんの方が上だった。
天使ウォルは、レオくんの片手剣攻撃から泣きべそをかきながらひたすら逃げてばかり。
たまに繰り出す水矢攻撃も、威力が負けてレオくんの火炎に押し倒されてしまう。
「逃げてばかりじゃ勝負にならないぞ!」
同時に正々堂々勝負がしたいレオくんにとっては、とても戦いにくい相手なのもまた事実。
好戦的な双子の兄、フォレスとは正反対で弟のウォルは怖がりで臆病な性格のようだ。
「ご、ごめんなさい! 天兵長の命令とは言えやっぱりボク戦いは怖いです!」
おそらくルーンさんに謝っているウォルは泣きながらレオくんの攻撃を綺麗に避けていく。
泣いてばかりでも反射神経には優れているみたいだ。
ルーンさんの方を見てみると、やれやれと言ったふうにため息をついていた。
そして後衛で待機している吸血鬼・ミリアさんは、キルちゃんやレオくんが少しでも傷付いたら治癒魔法で癒していた。
尤もレオくんの場合は、攻撃してばかりで治癒の必要もないけど、念のためだと思う。
どんな状況であっても油断は禁物だ。
「ったく! 斬っても斬っても回復しやがる! てめーら不死身か!」
悔しそうに叫ぶのはキルちゃんと戦っているフォレス。
ミリアさんの治癒魔法ですぐさま回復するキルちゃんに、当然ながら腹を立てていた。
「ん? ……あいつか!」
でもすぐにミリアさんの存在、そして彼女が使っている治癒魔法に気づいて弟のウォルを呼んだ。
「おい! ウォル! 来い!」
「は、はいぃ!」
レオくんからの攻撃を華麗に避けつつ弟のウォルは兄のフォレスの元へ。
二人で並んで何をするつもり?
……まさか!
「【水矢】」
ウォルが弓矢をフォレスの双剣に放つ。
するとフォレスの双剣の蔓がみるみるうちに成長し、まるで蛇のように長く伸びた。
「行くぜ! 【蔓双剣】!」
フォレスはそのまま双剣を天に掲げ、無数の蔓をミリアさんに向けて発射する。
目にも止まらぬ速さで蔓は伸びていき、遠くにいたミリアさんの身体を瞬時に巻き上げた。
「うっ……!」
沢山の蔓に縛られたミリアさんが苦しみの声を漏らす。
「「ミリアさん!」」
「ミリア!」
私とレオくん、キルちゃんが声を上げる。
「これで、もーこいつの回復魔法はつーよーしないぜ!」
勝ち誇った声で笑うフォレスは、そのまま紫がかった蔓の先端をミリアさんの身体に突き刺した。
「うっ!」
刺された傷口から紫色の煙が上がり、空気に充満してミリアさんを包む。
「まさか、毒か!」
紫色の煙の正体に気付いたレオくんが驚きの声を上げる。
ど、毒⁉︎
そんな……ミリアさんが!
「っ!」
ミリアさんが危ないと思った頃には、もう私の足は動いていた。
必死にわき目もふらずにただミリアさんだけを見つめて走る。
太い蔓にしがみついてミリアさんの身体から引き離そうと試みるけど、私の力じゃ蔓はびくともしない。
「ミリアさん! すぐに助けます!」
それでも必死に爪を立てて蔓を剥がそうとミリアさんに呼びかける。
「だ、大丈夫ですよ、ユキ様。私のことはお構いなく」
毒の痛みに堪えながらミリアさんは笑顔を作る。
こんなに苦しい状況のはずなのに、それでも笑顔で自分のことは後回しに考えているなんて。
「そんなことできません!」
当たり前だ。
そんなこと、ミリアさんを放っておくことなんて出来るわけがない。
何としてでもこの蔓を剥がさなきゃ!
一本でも剥がすことができればだいぶ楽になるはずだ。
「私が絶対に助けます!」
でも爪だけじゃ傷つくだけで破ることはできない。
こうなったら……。
「えいっ!」
ガブリ。
意を決して私は蔓に噛み付いた。
そのまま噛みちぎって地面に噛みちぎったカケラを吐き出し、再び蔓に食らいつく。
変な味がして不味いけど、ミリアさんの命に比べればそんなものどうでも良い。
時間はかかるけど爪で引っ掻いているよりは断然マシだ。
確実に効率もスピードも上がった。
これならいけるかも!
私は無我夢中で蔓を噛んでは吐き出し、噛んでは吐き出しを繰り返した。
「ユキ様……」
頭上から苦しそうなミリアさんの声が聞こえた。
早くしないと!
私は必死の思いで噛み付いて吐き出し、噛み付いて吐き出しを繰り返す。
決して女子がする行為とは言えないし汚いけど、そんな恥も全部捨てる!
今はミリアさんを助けることに集中しなきゃ!




