第33話 私だってたまには前向きなんです
第二章開幕です!
やがて魔法陣の水色の光が視界から消えていき、その代わりに見慣れた人間界の景色が広がった。
以前イアンさんやキルちゃんと吸血鬼界から戻った時に着いた、緑が広がり川が流れる丘の上に私達はいた。
「おおっ、懐かしいね」
イアンさんもその時の事を覚えていたらしく、嬉しそうに顔をほころばせた。
「今度はキルだけじゃなくて、レオやミリアとも訓練したいな」
遠い未来を見るように目を細めた後、イアンさんは私に向き直る。
「じゃあね、ユキ。またユキの学校が終わった時間に迎えに行くよ」
「わかりました。よろしくお願いします!」
私は頭を下げて急いで家に向かって走った。
幸い人間界はまだ七時で、学校の登校には充分間に合う時間だった。
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「ただいま、おじいちゃ____」
言いかけて、私は慌てて口を覆う。
忘れてた。昨日の夜に家に居なかったのに朝方に帰ってきたとなったら、何を言われるか分からない。絶対におじいちゃんに怒られる。
私の方から何も言わなくても多分____。
「雪、居たのか」
やっぱり。おじいちゃん、完全に怪しんでる。
「え、えっと……」
「すまんかったな、昨日は」
「え⁉︎」
唐突なおじいちゃんの謝罪。一体どうしたんだろう。
「疲れが溜まってたのかどうか分からんが、昨日学校から帰ってきた瞬間に寝てしもうてのう。雪に寂しい思いをさせたんではないかと思ってな」
「う、ううん、大丈夫だよ」
良かった。どうやらおじいちゃん、私が放課後から今までずっと家に帰っていなかったことを知らなかったみたい。
「ご飯食べるか? 学校の時間は大丈夫か?」
「うん。ありがとう」
おじいちゃんにお礼を言って私は朝御飯を食べた。
何だかいつもよりも心地よかった。
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「じゃあ行ってきます」
玄関まで見送りに来てくれたおじいちゃんに、私は振り返って挨拶をした。
「あぁ、行ってらっしゃい」
いつもと変わらず、おじいちゃんも笑顔で見送ってくれたのだった。
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家を出た後は恒例の信号の前でため息……ではなく、私は改めて決意を固める。
ふふん、いつもと同じだと思われては困る。私だってたまには前向きな気持ちになるんだから。
まぁ、それはさておき……。
前向きになったは良いけど、行動に起こせなくちゃ意味がない。
実際のところ後藤さん達とは気まずい間柄になってるし、状況はむしろ悪化しているんだけど……。
①堂々としていること!
②何を言われても真に受けてショッキングにならない!
③被害妄想はやめる!
これだけでもだいぶ変わるはず。何よりそれが一番大切だと思う。きっとそうだよね。
いつまでも甘えてばっかりじゃダメだ。ちゃんとしなきゃ。
……と、気合を入れた私。
何とか無事に全ての授業が終わりまして、ただ今放課後です。
何で学校のこと詳しく言わないのかって?
何も起こらなかったからですよ、察してください。
クラスの絶対的エースである後藤さんがちょっかいも出してこなくなってから、私が学校で言葉を発するのは本当に珍しくなった。授業で当てられた時の発表のみ。
さらに先生方からも陰の薄い生徒だと認識されているから、あまり授業中も当てられない。だから余計に声を発する頻度が下がってしまった。
そんな悲しみに涙をこぼしつつ、一人で学校を出る。いつも通りに。
吸血鬼界で見かけた姉弟みたいに、後藤さん達とすんなり仲直りできたら苦労しないんだけど……。
私は小さくため息をつく。すると、
「ユキ!」
ひときわ明るい声が私を呼んだ。
「あっ!」
その声の主は吸血鬼のイアンさん。そういえば約束してたっけ。
「ありがとうございます。待ってくださって」
「いいよ。いつものことだし」
相変わらずイアンさんは機嫌がいい。
私と会っただけで喜んでくれるなんて、まだまだ私も捨てたものじゃないのかもしれない。
イアンさんは呪文を唱えて魔法陣を生み出してくれた。
私は水色の輪の中に足を踏み入れる。
「よしっ、出発だ!」
イアンさんの声と同時に視界が水色の光に包まれ、次に開けた時には吸血鬼界の街並みが広がっていた。
「今日も泊まっていくかい?」
家に向かいながらイアンさんに尋ねられて、私は首を振った。
「今日は早いうちに帰ります。流石におじいちゃんにバレそうになってきてて」
恥ずかしいけど事実だから仕方ない。昨日はおじいちゃんが寝落ちしてくれたから助かっただけだもん。
「あぁ、あの人か。覚えてるよ。何となくユキに似てた」
前に丘で会った____正確にはイアンさんとキルちゃんの目に入った____おじいちゃんのことを覚えてくれていたようでイアンさんは懐かしそうに笑った。
ていうか、おじいちゃん、そんなに私と顔似てるかな?
あんまりそんな風に思ったことないけど……。
「おじいちゃん、私に似てたんですか?」
「うん。優しそうなところがユキそっくりだったよ」
そう言って満面の笑みを浮かべるイアンさん。
顔じゃなかった……。
でもそれを聞いて私もなるほどと納得した。
別に自分のことを優しいと思っているわけではない。確かにおじいちゃんはすごく優しいのだ。ひと目見ただけでそんなことが分かるなんて、やっぱりイアンさんはすごい。
おじいちゃんを褒めてくれた事に喜びを噛みしめつつ、私達は家への道を急ぐ。
その時だった。
「待て! 貴様ら!」
聞き覚えのある、鋭い女性の声がした。
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