第31話 強くなります!
それから私は鬼衛隊の皆にさっきのことだけではなく、後藤さんに普段から嫌味を言われていることをすべて話した。
「状況は分かったよ。ユキに馬鹿にするしか価値が無いのなんて絶対に間違ってるから、気にしなくていいさ」
イアンさんが優しく私の頭をポンポンと撫でてくれた。
久しぶりに誰かの温もりを感じたからか、まるでイアンさんの頭ポンポンがスイッチになったみたいに私の目から涙が零れてくる。
「えっ⁉︎ な、泣かないで、ユキ!」
それを見たイアンさんが慌てふためく。
「あ、ご、ごめんなさい。嬉しくてつい」
イアンさんを慌てさせてしまったことに気付いて、私は急いで涙を拭いた。
でも涙は都合の良いように止まってくれない。
止めよう、止めようと思えば思うほど後から溢れてくる。
「辛かったのですね、ユキ様……」
そう言ってミリアさんがふわりと私を抱きしめてくれた。
ミリアさんの腕の中で私は子供みたいに泣きじゃくった。今まで我慢していた苦しみを吐き出すように、
後藤さんには届くはずもないけれど、私を馬鹿にしたり悪口を言ったりするのはもうやめてほしいという思いを吐露するように……。
ミリアさんは私が泣き止むまでずっと抱きしめてくれていた。
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夜。話を終えた後、一緒に窓の外に浮かぶ月をそれとなく眺めていると、不意にレオくんが呟いた。
「やっぱり人間は嫌いだ」
「え?」
私が聞き返すと、レオくんはハッと気づいたように微笑をたたえながらもう一度言った。
「人間は自分勝手だからな。相手の都合なんてこれっぽっちも考えないで、自分の主張ばかり押し通すだろ? ……人間界と天界が同盟を組んだ時もそうだった。それまでは吸血鬼界とも交流してたのに、同盟を組んだ瞬間に人間界は俺たちへの態度を百八十度変えたんだ」
窓の縁に手を置き、その拳を力一杯握るレオくんの瞳には、その当時を思い出しているのか悔しがる怒りの炎が燃えていた。歯を食いしばり、何とか平常心を保とうと努力しているような姿だった。
「____ごめんね」
「何でユキが謝るんだ?」
今度はレオくんが聞き返す番だった。
でも聞き返されたからと言って、私がすぐに理由を言えるわけではなかった。
私が住んでいる人間界が、レオくんたちに酷い仕打ちをしたことになぜか罪悪感を抱いたのだ。そして感情に任せて謝罪してしまった。
「何か、申し訳なくなっちゃって……」
こんな変な理由しか思いつかないけど、私はとりあえず理由を述べる。
その気持ちは本当だし、上手く言葉に出来ないけど、何としてでも謝りたいと思ったから。
「ユキが悪いわけじゃないだろ」
レオくんはそんな私がおかしかったのか、口角を上げて笑みを浮かべた。
先ほどの暗い表情が消えて良かったと、私は胸を撫で下ろす。
「まぁ、でも、ありがとな」
「え?」
今度こそしっかりと微笑んでレオくんは言う。
「何か、許してもいいかなって思えた。人間界のこと。ほんのちょっとだけだけどな」
レオくんの言葉に、私は力強く頷いて空を仰ぐ。
人間界と同じか、それ以上に綺麗な星々が輝いていた。
「綺麗だね」
星を見ながら思わず本音が出てしまう。レオくんも同じように空を仰いで、
「ああ。そうだな」
と言ってくれた。そして何か覚悟を決めたように視線を空中へやる。
「ずっと守りたいんだ。この空を。どれだけ苦しいことがあっても空を見れば元気が湧いてくる。俺だけじゃない。皆同じはずだからさ」
レオくんはきっと私よりもはるか先の未来を視ている。
そして起こりうる戦いに備えるため、鬼衛隊として吸血鬼界を守るために、密かに決意を固めているはずだ、と私にはそう思えた。
「……私も頑張る」
そう言いながら、私の心の中にも変化が生じたのに気付く。
私はポカポカと温かい胸に手を当てて、
「クラスの皆に何言われても絶対に負けないよ。ちゃんと『私』を貫く強さを持つから」
レオくんは私を見て笑顔で頷いてくれた。
「ユキなら大丈夫だろ。お前結構しぶといし、そう簡単には負けないと思う」
「し、しぶといってどういうこと?」
「フン。そのまんまの意味だよ」
照れてるのか分からないけど、顔を赤らめながらレオくんが私をからかってくる。
でもその言葉の裏でレオくんが『頑張れ』と応援してくれたような気がして、私はすごくすごく嬉しかった。
夜も遅いので、今日は吸血鬼界に泊まることにした。
またおじいちゃんに心配かけちゃうけど……。
明日人間界に戻ってもっとシャキッとしよう。
何言われてもめげない。私は、もっと強くなるんだから。




