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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第一章 出会い編
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第30話 皆と再会できました!

 その日は何とか平常心を保ちつつやり過ごした。でも正直授業には集中できなかったし何も言う気力がなかった。


 『「私には馬鹿にするしか価値がない』とクラスメイトの後藤さんに言われた言葉が、頭の中をグルグルと回って離れない。


 一度はそんな事ないって抗った。

 でも次に言われた時はその通りだなって諦めの気持ちになってた。後藤さんの言うことは確かに間違ってなかった。

 私はクラスでも暗くて誰とも喋ろうとしない。それは分かってる。自分が一番よく分かってるんだ。


 こんな時に吸血鬼界に行けたらどんなにいいか。


 でも天界でルーンさんやフェルミナさんと約束したし、VEOの誠さんにもわざわざ迎えに来てもらったし。

 もし今、私が吸血鬼界に行ったらそんな恩を仇で返すことになってしまう。自分勝手な理由で皆を悲しませたくない。

 それに強くなるって決めたんだ。強くなった私をイアンさん達に見てもらいたい。


 そう心に決める。甘えたらダメだ。我慢しないといけないんだ。


 私は自分にそう言い聞かせながら学校を出た。一人で。


「おーい、ユキ」


 私を呼ぶ声がした。前を向くと……。


「い、イアンさん⁉︎」


 何とそこには黒マントに肩ギリギリの長さの黒髪を持つ、ニコニコ笑顔の吸血鬼がいた。突然のことで私は驚きすぎて、後ろに転けそうになってしまう。


「あはは、そんなにびっくりしないでよ。いつも通り迎えに来たよ」


 私の姿に笑いつつ両手を広げてイアンさんは言った。


「え? いいんですか?」


 尋ねるとイアンさんは何が? と言う風に首を傾げて私に手を差し出した。


「行こう!」


 イアンさんの手を握り返した私は、ふと心配になって瞬時に周囲を確認した。幸い、誰も通りがかっておらず道の途中にいるのは私とイアンさんだけ。これなら大丈夫だ。


「はい!」


 私が頷くと、すぐにイアンさんが魔法陣を地面に出現させた。


「そう言えばこの間は迎えに来てもいなかったけど、学校休んでたのかい?」


 今はもう見慣れた大きな時計塔の近くに着き、並んで歩きながらイアンさんが尋ねた。


「この間、ですか?」


 私が聞き返すとイアンさんは頷いて、


「いくら待ってもいなかったから帰っちゃったんだけど、何かあったのかなって思ってさ」


 心配そうにイアンさんに言われて私はやっと思い出した。

 そう。イアンさんの言う『この間』の日、私はルーンさんに連れられて天界にお邪魔していたのだ。でも『天界に行ってました!』なんて言えないし……。


「ちょっと用事があって」


 本当の理由が言えない時のお決まりのコレ。まさかイアンさんに対して使うようになるとは思ってなかったけど。


 私の言葉を聞いて、イアンさんは安心したように笑顔になった。


「そっか、良かった。ユキに何かあったんじゃないかって心配してたんだよ」


「ごめんなさい。何も言わなくて」


「いいよいいよ。こうやって会えたんだし」


 イアンさんは何だかいつも以上にウキウキしている。


「何かあったんですか?」


「え?」


「あ、いや、いつもよりルンルンなので」


 言ってから自分の語彙力に失望した。もっとマシな言い方あったよね……?


「久しぶりにユキに会えて嬉しかったんだ。ユキも嬉しいでしょ? あ、そうだ。レオのことは心配しないで。もうピンピンしてるから」


 茶目っ気たっぷりにウインクするイアンさんを見てホッと一安心。イアンさんも嬉しすぎて最後の語彙力が低下してる。それよりも一番心配していたレオくんの嬉しい報告が聞けて良かった。


 私を守るためにルーンさんと死闘を繰り広げてくれたレオくん。あんな迷惑は二度とかけたくない。会ったらすぐに謝ろう。


「さてと、着いたよ。どうぞ」


 イアンさんが家のドアを開けてエスコートしてくれた。


「ありがとうございます」


 素直に家に入るとキルちゃん、レオくん、ミリアさんが一斉に私の方を見る。


「ユキ!」


「ユキさん!」


 キルちゃんとミリアさんが駆け寄ってきてくれた。


「久しぶりね。この間来なかったから皆で心配してたのよ」


 桃髪の吸血鬼・キルちゃんが私を見上げて言ってくれた。


「そうですよ、ユキ様。特にレオ様なんて……」


「俺のことは言わなくていいっすよ」


 少々ニヤついた黄髪の吸血鬼・ミリアさんの言葉を遮って橙髪の吸血鬼・レオくんが恥ずかしそうに言う。


「ぷっ」


 皆のやり取りが面白くてつい吹き出してしまった。皆も私につられて笑っていた。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 数分後。私たちは机を囲んで座りながら話をしていた。話というのは私が後藤さんに言われた言葉に関して、というものだ。


「そうなのか。そんなひどい奴もいるんだね」


 イアンさんが顔をしかめる。それにキルちゃんも頷いて呟いた。


「なんでそんな事言えるのかな」


 ミリアさんもレオくんも少し俯いて、暗い顔をしていた。


「……あっ、こんな重い空気にさせちゃってごめんなさい。ちょっと軽い相談のつもりだったんです」


 私が慌てて話を切り上げようとすると、それをレオくんが遮った。


「大丈夫だ。この話はちゃんとしないとお前の今後に関わるぞ」


「そうですよ、ユキ様。ここでスッキリさせておかないと、いつまでも引きずらないといけなくなります」


 ミリアさんも忠告してくれた。


「皆さん……ありがとうございます」


 私は頭を下げて礼を言った。何より皆が真剣に私の話を考えてくれていることが嬉しかった。


 やっぱり私にはここが一番だと確信した。

 ルーンさん達との約束を破ってしまったことに胸を痛めながら。

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