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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第一章 出会い編
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第29話 私には何も無かったんだ

「え?」


 衝撃的な後藤さんの言葉に、私は思わず尋ね返してしまう。


「え? って何よ。あたしの言ってること間違ってる?」


 まるでさっきの言葉は当然だと言わんばかりに眉を吊り上げる後藤さん。


「……はい」


 特別に何か言える勇気も無いけど、私は何とか勇気を振り絞って頷いた。だって本当のことだし、何より私に馬鹿にするしか価値がないというのはあんまりだ。

 いくら私の人付き合いが下手でも、そんなに価値が低いわけが____。


「はぁ?」


 でも私の返事を聞いた後藤さんはさらに怪訝な顔をする。


「何言ってんのよあんた! 合ってるじゃない、あたしが言ってること!」


 後藤さんはついに怒りを露わにして叫んだ。周りの女の子軍団もいよいよ私を鋭い目付きで睨み付けてくる。


「いや、でも流石に、私に馬鹿にするしか価値が無いっていうのは違うんじゃ……」


 私が反論しようとすると、


「亜子様に口答えとか何様?」


「そうよそうよ!」


「ボッチのくせに生意気よ」


「亜子様が言ってること、間違ってなんかないし!」


 周りの女の子軍団が声を上げる。

 腰に手を当てて頬を膨らませ、鋭い瞳をギラギラ輝かせながら私に詰め寄ってきた。


「え、でも……」


「じゃあ教えてあげるわよ。あんたが馬鹿にする以外の価値が無いってこと」


 後藤さんが、女の子軍団よりも一歩前に出て言った。


「朝はいっつも暗〜く登校してきて、誰にも挨拶しないでさっさと自分の席に座って下向いて暗いオーラ出して。授業中も何にも言わないし、昼休みだって隅の方で一人で寂しく弁当。授業が終わったらさっさと帰って部活には行かない。おまけに帰宅部。こんな一日じゃ、あんたに生きてる価値すら見出せないじゃない」


 確かにそうだ。私の学校での姿は本当。後藤さんの言った通り。

 生きる価値も、見出せてないのかもしれない。


「流石にそれじゃ可哀想だと思って、あたしたちがわざわざあんたと関わってあげてるの。分かる? あたしたちがあんたを馬鹿にすれば皆が笑う。そうすればあんただってちょっとは誰かと関わった気になるでしょ。良いことしてると思うんだけど。感謝されても文句言われる筋合いは無いわ」


 フン! と後藤さんはそっぽを向く。周りの女の子軍団は『そうだ! そうだ!』の連発。


 良いこと、なのかな。他人を馬鹿にするのって。

 ダメなことだよね、言われなくても分かってる。

 でも……。

 後藤さんの言葉を聞いてたら、私が優遇されてるみたいな感じだ。そんなことこれっぽっちも無いのに。


 だから後藤さんの言葉は半分本当だけど、もう半分は嘘だ。


 こんな私でも生きてて良かったって思える。生きてたからイアンさんに出会えた。

 鬼衛隊のみんなに会えた。それから誠さんにも。おじいちゃんはいつも優しくしてくれる。だから___。


「私にも、あると思います」


「は?」


 私の言葉を聞いた後藤さんの眉が思いっ切り吊り上がる。いかにも、何を馬鹿なことを言っているのか、と言いたげな表情だ。


 でも負けない。自分の思いをちゃんと伝えるんだ。


「生きる価値、あると思います」


「それはあたしたちがあんたと関わってやってるから____」


「そうじゃなくても、です」


「何言ってんのよ」


 私の言葉を鼻で笑って馬鹿にする後藤さん。

 あれだけ吊り上がっていた眉は元通りだけど、今度は彼女の口角が嫌みありげに吊り上がった。


「あんた自覚ないのね、可哀想に。ボッチの人生に生きる意味なんて無いでしょ」


「あります! ちゃんとあります!」


 私は思わず叫んだ。

 流石に頭に来た。私だって好きでボッチになったわけじゃないんだ。

 ただ人付き合いが苦手で引っ込み思案な性格なだけで。でもそれも自分で克服したいって思ってる。


「私のこと、馬鹿にしないでください!」


 必死の思いで後藤さんたちに訴える。この私の願いが届くことを信じて。


「だから亜子様に口答えは____」


「もういいわ!」


 私の言葉を女の子軍団の一人が遮り、彼女の言葉をまた後藤さんが遮った。


 もしかして後藤さん、私のこと認めてくれた……? 馬鹿にしないでいてくれるかな……?


 そんな淡い期待を胸に抱いた。


 後藤さんは私に物申そうとした女の子に『下がりなさい』と命じると、私を睨んだまま小さな声で言った。


「いつまでもあんたがボッチじゃ可哀想だから、あたしたちが声かけてあげたってのに失礼ね、村瀬さん。もう声はかけないわ。その代わり____」


 私に近づき、後藤さんは耳元でさらに声を潜めた。


「一生ボッチよ。残念ね」


「______!」


 思わず目を見開いた私を哀れむように、笑みを浮かべた後藤さんは窓の近くの隅にある私の席を親指で指して、


「ほら、わかったら席について。朝礼始まっちゃうわよ」


「は、はい……」


 彼女の言葉にあまりにも大きなショックを受けた私は、彼女の言う通りに自分の席に向かうしかなかった。

 足に力が入らない。さっき言われたせいなのは確か。

 でも引きずるようにして何とか足を動かす。


 よろめきつつの歩行のせいで周りの机に手をついてしまい、クラスメイトからは『おい、触るなよ』とか『うっわ、最悪』などと罵倒された。


 理由は言うまでもない。後藤さんはこのクラスのリーダー的存在。その圧倒的美貌から男女問わず学年一の人気を誇っている。


 そんな子とボッチじゃ人気者の完全勝利だ。みんなが後藤さんに味方して私を蔑んだ。


 少しでも、ほんのちょっとでもいいから変わりたい。そう思って訴えたのに、それが新たな絶望を生んだ。

 何を言っても何をやってもこの世界には敵わない。

 この、弱肉強食の小さな組織には私の居場所は無い。


 ううん、違う。分かっていたこと。自覚していたこと。

 私の居場所なんて、そこには最初から無かったんだ。

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