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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第258話 首謀者

 怒りや憎しみを表情に宿すグリンに、イアンは鋭い視線を向ける。


「こんな奴こそ外来種だ。ユキみたいに優しさも勇気も併せ持ってる子を傷付けるなんて、血も涙もない奴のこと、僕は絶対に許さない」


 それから大きく息を吸い、覚悟を決めたように言った。


「……闇に飲まれても良い。僕達の出会いを、僕達の奇跡を侮辱したあの堕天使が倒せるなら」


「イアン! 血迷うな! (ゆき)が目を覚ました時にこのことを知ったらどんなに悲しむか、貴様なら分かるだろ!」


 慌てたような(まこと)の叫びに、イアンは口角を上げて自嘲する。


「もう誰も死なせないって言ったのに、僕はユキを傷付けて死の淵に追いやってる。ユキと合わせる顔がないよ」


「見損なったぞ、イアン! そんなもの、お前が自我を失って暴走する危険性に比べれば、全然大したことじゃないだろ!」


 誠はイアンの黒マントを、胸ぐらを両手で掴み、何度も何度も揺さぶってくる。


 まるで、イアンを正気に戻そうと刺激を与えるかのように。


 だが、そんなことをされなくてもイアンはとっくに正気だった。


 もう、全てを決意して、全てを決めたのである。


「マコトくん、あの時、僕達の訓練中にユキに攻撃がぶつかりそうになった時、ユキを助けてくれてありがとう」


「何だと……!?」


 誠の眉が寄せられた。『こんな時に何を呑気なことを』と言わんばかりの形相だ。


 それでもイアンは、最初に雪と出会ったあの横断歩道で誠が雪を救ってくれたことを、ずっとずっと感謝していた。


「マコトくんのおかげで、ユキは命拾い出来たんだ。だから、ありがとう」


「貴様に礼を言われる筋合いなどない! それに、礼ならとっくに雪から貰ってるぞ!」


 首を激しく横に振る誠を見つめ、イアンは口角を上げる。


「僕にも言わせてよ。ユキを危険な目に遭わせたのは僕なんだから」


「要らん! 何故、今このタイミングなんだ! そんなもの……今じゃなくて良いだろう!!」


 なおも叫ぶ誠の手を自分の黒マントから外し、イアンはグリンの方に向き直る。


「……ユキをお願いね」


「イアン!!」


「皆、よろしく……!」


 深く息を吸い、イアンは五人へと声をかけた。


「承知しました、隊長!」


 レオの返答を合図に、他の四人も目を瞑って両手を掲げ、イアンに能力(ちから)を供給し始める。


「【悪魔(ディアブロ・)(ミュール)】」


 グリンの口が動いて魔法の名前を発したのだが、この時のイアン達は気付くはずもない。


 炎の使い手・レオの赤色の光に具現化された能力(ちから)


 草の使い手・フォレスの緑色の光に具現化された能力(ちから)


 水の使い手・ウォルの青色の光に具現化された能力(ちから)


 使い手と同等の強さの雷属性の技を持つ吸血鬼・サレムの黄色の光に具現化された能力(ちから)


 使い手と同等の聖属性の技を持つ吸血鬼・スピリアの金色の光に具現化された能力(ちから)


 色とりどりの光の帯が、中央のイアンに向かって注がれる。


 それをイアンは闇属性の能力(ちから)を増大させ、確実に取り込んでいく。


「ぐっ! うぅっ!」


 闇の黒みがかった紫色のオーラがイアンを包み込み、五人の能力(ちから)も瞬時に吸収していく。


 想像以上に闇の能力(ちから)が増幅している。


 イアンがそう感じた瞬間、どこからか笑い声が聞こえてきた。


「くくっ……あははははは!」


「何がおかしいんだ、そなたは!」


 闇の能力(ちから)がオーラとなって宙を舞う中、それ越しにグリンがウィスカーに掴みかかるのが見える。


 だが、ウィスカーが見据えているのはグリン本人ではなかった。


 ウィスカーの瞳がイアンを見つめ、彼の黒髭が動いて言葉を紡ぎ出していく。


「ありがとうな、イアン。君の選択にわたしは心の底から感謝するよ」


「えっ……?」


「イアン。前に、自分が殺される状況下で選択を迫られた時に自分と世界のどちらを選ぶのか、とわたしは君に聞いたよな」


 笑みをたたえたままのウィスカーを見て、イアンもあの時のことを思い出す。


 キル達の治療が終わり、ウィスカーが王宮から去る時のこと。


 去り際に、ウィスカーはイアンに突然こんな質問をしてきたのだ。


『もしも自分がいずれ殺される状況にあって、それでも自分と世界のどちらかを選ばなければならないとしたら、どうする?』と。


「君は躊躇なく世界を選ぶと言った。なかなか出来ない決断を、君は一切の迷いもなく選んだんだ。素晴らしいよ。そんな君を、わたしは誇りに思う」


「隊長……」


「でもな、イアン。それはわたしも同じなんだよ。わたしも君と同じように、自分か世界か、どちらを選択するかと迫られたら、迷いなく世界を選ぶよ」


 なおも笑みを絶やさないウィスカーの眉が、意味ありげに上げられる。


「イアン、そのために君を犠牲にする」


「たい……ちょう……!?」


 一瞬、ウィスカーが何を言ったのか分からなかった。


 いや、彼の言葉は確かに聞こえた。だが、理解が追い付かなかったのだ。


 ウィスカーは不意に目をカッと見開き、


「グリンに協力しなかったら、この世界もろとも消すと言われたんだぞ! そんなもの、世界を選ぶに決まっているではないか!」


「何だ、そういうことか、ウィスカー。やっぱりそなたは余を裏切った訳じゃなかったんだね」


 ウィスカーの言葉に、彼に掴みかかっていたグリンが心の底からの笑みを浮かべた。


「当たり前じゃないですか、()()()()。わたしは今までもこれからも、あなたに忠誠を誓いますよ」


 グリンに手を引かれて立ち上がりつつ、ウィスカーは華麗にお辞儀をする。


「ウィスカー隊長……何を……言って……」


 呆気に取られたイアン、なおも地面に倒れるキル、イアンに能力(ちから)を供給しているレオを順番に見やって、ウィスカーは口角を上げた。


「すまないな、今まで君達を騙してきて」


「騙す……?」


「隊長、一回能力(ちから)の供給を中断します!」


 レオが危険を察知したのか、すぐさま力を込める。が、


「なっ……! 能力(ちから)が……戻らない……!」


「何だよこれ! 今までこんなこと一回もなかったじゃねーか!」


能力(ちから)の供給が……止まらないです!」


 レオ同様、フォレスとウォルも困惑している。


 すると、グリンがニヤリと笑って口を開いた。


「【悪魔(ディアブロ・)(ミュール)】の力だよ」


 相手の心や身体を意のままにすることが出来る、という悪魔のような魔法だ、とルーンは言っていた。


「ま、まさか……! ユキの出血が……なかなか止まらない……原因も、闇の能力(ちから)が……想像以上に……膨らんでるのも……!」


 イアンの言葉を引き継ぐように、ウィスカーが声高々に宣言する。


「全てはリーダーの計画通りだ。このお方が、全てを計画された首謀者なのだからな!!」

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