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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第一章 出会い編
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第26話 決意を新たに

 私の返事を聞いたルーンさんが、安心したように口角を上げた。


「良かった。ありがとう、ユキ。助かるよ」


「ありがとうございます」


 フェルミナさんも、もう一度頭を下げる。


「では参るぞ。もうVEOも迎えに来ているはずだ」


 白金の鎧がガチャンと音を立て、ルーンさんは立ち上がって応接室を出た。


「どうぞ」


 ドアを開けて、フェルミナさんが先に通してくれる。


「あ、ありがとうございます」


 まだ状況の整理が追いつかない。

 正確に言えば、この状況を受け入れたくないけれど、とにかく足を進める。

 小走りでルーンさんに追いついて、スピードを緩めて長い廊下を歩く。


 この廊下、もっと言えば宮殿を出れば、強制的にVEOと……誠さんと一緒に人間界へと返されてしまう。

 VEOの人間による監視もつくという話だから、二度と吸血鬼界には行けなくなる。イアンさん達に会えなくなる。


「嫌、です」


 思わず口をついで本当の気持ちが出てしまった。

 気付いた時にはもう遅く、先を行くルーンさんと私の後を歩くフェルミナさんが、驚いた表情で立ち止まって私を見ていた。

 前後からの視線にたじろぎそうになるけれど、必死に訴える。


「やっぱり、嫌です。私、イアンさん達に会えなくなるのは耐えられない」


 この気持ちが、自分のエゴだということは十分に理解している。

 私の身勝手な行いのせいで、人間界と天界の関係に亀裂が入りつつある今の実態も、これ以上接触を止めなければ、吸血鬼界に危険が及ぶかもしれないことも。


「わかってるんです。本当はどの世界にとっても、この選択が正しいんだって。この選択しかないんだって。でも……」


 俯いた途端に目の前が霞んだ。

 そして私の視界を霞ませたものは、水滴となってこぼれ落ちる。


「私にとっては、吸血鬼界が生きる希望なんです。やっと自分の居場所を見つけた所なんです。だから奪わないでください。お願いします!」


 次から次へと溢れる思いを懸命に言葉に変えながら、私はルーンさんを見つめた後、勢いよく頭を下げた。


「ユキ」


 ルーンさんが静かに私の名前を呼んだ。

 涙や鼻水でぐちゃぐちゃになってしまった顔を上げた私に、ルーンさんは言った。


「お前の苦しみは見ていた。お前、組織の中で上手くいっていないのだろう」


「は、はい」


 そ、組織って学校のことだよね……?

 そう思って返事をすると、ルーンさんは私の顔を思いっきり両手で挟んで自分の方へ向けた。


「すぐに逃げるな!」


 目前でルーンさんが怒りの声を上げる。

 ルーンさんの顔がすぐそばにあった。


「そうやって言い訳を繰り返して、嫌なことから逃げてきたのだな。お前の態度を見ていれば分かる。願望ばかりで、お前自身は何も変わろうとはしていないではないか」


 ルーンさんの迫力に気圧されて何も言えなかった。


 確かにルーンさんの言う通り。

 私は『こうしたい』『ああなりたい』と思っているだけで、実際にその身体を動かしたことなど一度もない。


「ルーン、もうよしなさい」


 フェルミナさんが、ルーンさんの肩に手を置いて制してくれた。

 ルーンさんはフェルミナさんを見つめた後、渋々私の顔から手を離した。


「ユキ様」


 ルーンさんの両手から解放された私に向かって、フェルミナさんは諭すように言った。


「これは絶好の機会でございます。一度頼れるものから離れて、ご自身だけで苦難に立ち向かってみてください。その先にきっと何かが見えるはずです」


 自分自身の力だけで苦難に立ち向かう……。


 それが、今の私に求められていることなのだろうか。

 もしそうなら、やらなければいけない。

 一人で頑張って成長したところを、イアンさん達に見てもらいたい。


 私も変わらなきゃいけないんだ。


「……分かりました。私、自分で頑張ってみます」


 私の言葉にフェルミナさんは笑顔で頷き、ルーンさんは満足げに口角を上げた。


「ルーン()、そろそろ時間が過ぎてしまいます。VEOの皆様がお見えですよ」


 フェルミナさんに言われて窓の外を見ると、誠さんを筆頭にVEOの隊員たちが大勢宮殿の前で待っていた。

 ルーンさんも窓に目をやって、


「そうだな。では改めて参ろう」


「……はい!」


 私は決意を込めて力強く頷き、宮殿を出た。


「久しいな、雪」


 黒髪メガネの男性____鈴木誠さんが、前に進み出て挨拶してくれた。


「はい、お久しぶりです。誠さん」


 私も会釈を返す。

 誠さんとは、イアンさん達との初対面の時にお世話になった後、吸血鬼界で会ったきりなので本当に久しぶりだ。

 すっかり吸血鬼界に馴染んでしまった私に対しても、変わりなく接してくれる。


「えっと、これからよろしくお願いします」


 ぎこちなかったかもしれないけれど、一応自分なりのしっかりとしたお辞儀をする。


「ああ、こちらこそ」


 頷いて頬を緩め、誠さんは少しだけ私に笑顔を見せてくれた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ルーンもフェルミナも凄く良い言葉を言いますね……(・_・、) すぐに逃げるな、かあ……誰しもに当てはまる言葉だよね。前を向く決心をした雪も偉い! きっと上手くいく筈(*・ω・) でも、皆に…
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