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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第七章 堕天使編
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第201話 ハッキリさせよう

 (まこと)が天界へと転移して、王宮へ入ろうとした時だった。


「おい、グリン! 言うことを聞け!」


 荒々しい女性の叫び声が聞こえてきた。天兵長、ルーン・エンジェラの声だ。


 誠は足早に声の聞こえた方へ走っていく。辿り着いた先は、先程村瀬(むらせ)(ゆき)と共に案内された応接室だった。


 おそらく、まだグリン・エンジェラも残っているのだろう。


 誠は室内には入らずに、入り口の近くで耳をそばたてて、しかし室内の様子はドアを少し開けて確認しながら二人の会話を聴いていた。


「唖然失笑。呆れを通り越して笑っちゃうよ。余が何をしようとルーンには関係ない」


「今は状況が違う! 人間を危険に曝したのだぞ! 同盟が解消されたらどうするつもりなんだ。また三界で争って秩序を壊すつもり______」


「矛盾撞着。食い違ってるよ、ルーン。同盟なんて結んでる方が秩序を壊してるじゃないか」


 ルーンの言葉を途中で遮って、グリンが言う。


「どういう意味だ」


「天界に亜人界に人間界」


 三本指を立てつつ、グリンは続ける。


「この三つの世界が適度な距離を保つことで、世界は成り立ってる。同盟を結んだり、あの人間みたいに勝手に異世界に入り込んだり。そんな癒着があったら、それこそ秩序の壊れる原因だ」


「き、貴様……! 黙って聞いていれば好き放題……ぐうっ!」


 不意に、ルーンがお腹を押さえて苦しみ始めた。おそらく、吸血鬼ハイトにやられた傷がまだ痛んでいるのだろう、と誠は推測する。


 そしてすぐに彼女の元へ駆け寄ろうとしたが、足を踏み出す寸前で思い止まった。


「る、ルーン! 安静にして!」


 ルーンの側で待機していた第一部下のフェルミナ・エンジェラが、ベッドの上の彼女を再び寝かせたからだ。


 そんな状況でも特に表情を変えず、グリンは呆れたように続ける。


「第一、説得力に欠ける。この天界を守るべき天兵長が、そんなにボロボロで良いのか?」


「っ!」


 再びベッドに横たわったルーンが、喉を詰まらせている。


「余の方が圧倒的に強かったのに。だからコネは嫌いなんだ」


「お言葉を慎んでください、グリン様」


 フェルミナに警告されてもグリンは止めない。


「だって本当のことじゃないか。昔は僕が、君に剣術や戦闘を教えてやってたんだよ? そのおかげで天兵長の座を射止められたっていうのに、ルーンはその恩も忘れてる」


「わ、忘れてなどいない! だが我は______」


「一刀両断。この際だからハッキリさせよう。ルーン、そなたと余のどちらが上か」


 今度もルーンの言葉を最後まで聞かずに、グリンはそう提案する。


「ぐ、グリン______」


 そして言うが早いか、ルーンの胸ぐらを掴むとベッドから引きずり下ろしたのだ。


「ルーン!」


 ついに見ていられなくなった誠は、応接室へと飛び込んだ。そして、床に倒れたルーンを抱き起こす。


「ま、マコト……?」


「マコト様!」


 ルーンとフェルミナは突然の誠の姿に驚いているようだったが、唯一、誠の乱入をよく思わない人物が居た。


 他の誰でもない、ルーンを攻撃しようとしていたグリン・エンジェラである。


「何なんだよ、お前。急に割り込んでこないでほしいな」


「貴様、何のつもりだ」


 誠の言葉にも、グリンは大した反省の色も見せずに口角を上げて、


「一目瞭然。見れば分かるでしょ。余とルーン、どっちが上かを分からせてやるんだ」


「貴様も知っているはずだ。ルーンはまだ怪我が治っていないんだ。そんな状態で決着をつけても意味がないだろう!」


 思わず声を荒げてしまう誠。しかし、グリンはそんな誠を鬱陶しそうに見て顔をしかめた。


「喧喧諤諤。うるさいな。人間は黙っててよ」


「分かった……!」


 誠の支えているルーンの肩が小刻みに動く。


 怪我の影響で思い通りに動かない身体を、それでもルーンは必死に動かそうとしているのだ。


「ルーン!?」


 何とか起き上がるルーンを見てフェルミナが驚きの声をあげる。


 しかし、ルーンはフェルミナには目も暮れずに、目の前の銀髪の天使を真っ直ぐ見据えた。


「そんなに我を貶めたいのなら、望み通り相手になってやる」


「待て。これ以上動いたら……」


「大丈夫だ、マコト。天兵長に牙を剥いたことを、こいつに後悔させてやる……!」


 誠の制止の言葉も聞かずに、ルーンはグリンに厳しい視線を送るばかり。


「ルーン! 駄目よ! まだ傷も塞がってないのに!」


 思わず声をあげ、何とかルーンを思い止まらせようとするフェルミナを、ルーンは真剣な眼差しで見上げた。


 そして、フェルミナに向かって笑顔を向ける。


 ルーンが見せた笑顔に、フェルミナも安堵したかのように頬を緩ませる。


 だがルーンが発した言葉は、フェルミナの表情を凍りつかせるものだった。


「フェルミナ、悪いが訓練所を開放してくれ。そこで決着をつける」


「で、でも……」


 訓練所には、フォレスやウォルといった天兵軍の面々が居るだろう。そして今も、汗水流して鍛練に励んでいるに違いない。


 ______それを中断させてまで、グリンとの決着をつけたいのか。


 誠が唇を噛み締めていると、ルーンはもう一度念押しするように、


「頼む! フェルミナ……!」


 ルーンの揺るぎない真っ直ぐな瞳。


 それに根負けしたのか、ついに天兵長の第一部下は白旗を上げた。


「わ、分かったわ。でも、危ないって思ったらすぐに止める。それでも良いかしら?」


「……ああ!」


 力強く頷くと、ルーンは真っ白の羽を広げて訓練所へと飛んでいった。


 グリンも灰色の羽を広げ、ルーンを追いかけるように飛び去っていく。


「行くぞ、フェルミナ」


 未だに心配そうなフェルミナを奮い立たせるように、誠は彼女に声をかける。


「はい! マコト様!」


 フェルミナは弾かれたように頷くと、誠の後を追って訓練所へと向かったのだった。

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