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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第一章 出会い編
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第21話 強化訓練〜再び人間界へ〜

再び雪視点に戻ります。

「強化訓練、ですか?」


 朝ごはんを食べ終わったあと、イアンさんに告げられて私は聞き返した。

 レオくんの件があってイアンさんがもっと強くなるために考えたらしい。


「だから今まで以上に人間界に行く機会が増えて、ユキ達に迷惑かけてしまうと思うんだけど……」


 と、イアンさんが申し訳なさそうに言った。


「いえいえ! いいですよ! みんなが強くなってくれるの、すごく嬉しいです」


「良かった。そう言ってもらえると助かるよ。ありがとう」


 お礼を言われて私はプルプルと首を振る。

 吸血鬼界が狭いのは前から聞いてたし、わざわざ訓練しづらい場所で訓練するよりは人間界の空中でやった方がいいと思った。

 まぁ、勿論それで人間界が迷惑を被るのは目に見えてるけど。


「よし、じゃあ僕とキルとユキは人間界に行こうか。ミリアはレオをよろしく」


「承知いたしました」


 イアンさんの言葉にミリアさんは頷いた。

 それから私とイアンさんとキルちゃんで人間界へ。イアンさんの黒マントが空中でバサッとはためき視界が真っ暗になる。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 再び視界が開けた時には人間界に着いていた。しかも都合の良いことに誰もいない川沿いの丘。


「やるじゃない、イアン。ここなら思いっきり訓練できるよ!」


 とキルちゃんがやる気満々に目を輝かせる。

 誰もいない所に着くなんて流石だなぁ、と私も感心する。


 金曜日に吸血鬼界で一晩過ごしたから今日は土曜日。……土曜日?


「あ!」


 急に叫んだ私の方を、丘から川沿いの砂利まで駆け下りていたイアンさんとキルちゃんが振り向く。


「どうしたの?」


 キルちゃんに尋ねられ、顔を青ざめながら呟いた。


「学……校……」


「え?」


 蚊の鳴くような小さい私の声を聞き取れるわけもなく、キルちゃんが聞き返す。


「学校あるの……忘れてました……」


「「え!?」」


 さっきよりははっきり言ったつもりの私の言葉に二人の驚きの声が重なる。


 ううう……やっちゃった……。無断欠席とか絶対怒られるよ……。


「雪? そんな所で何しとるんじゃ?」


 聞き覚えのあるこのしわがれた懐かしい感じの声が横から聞こえた。と同時に私の心が折れた音も。


 振り向くとそこには……おじいちゃんっ‼︎


「今日は学校じゃないのか?」


「が、……学校……だよ」


「じゃあそんな所におらんとさっさと行かにゃならんぞ。今何時だと思うとるんじゃ」


 と、携帯の画面を見せてくれたおじいちゃん。


 時間は十時十分。


 ……完璧に遅刻だ!

 たとえ友達はいなくても毎日登校して、卒業式で皆勤賞もらおうって目標立ててたのにも関わらずそれは呆気なく散った。

 そもそもこの間もほぼ終礼と同じ時間に行っちゃったから、その時点で皆勤賞なんか取れないんだけど。


 どうしよう……。流石にこの間も今日もってなったら先生に怒られちゃう!


 私は青ざめながら頭を抱えた。でもこんな事してる暇があったら一刻も早く学校に行かないと!


 私がチラリと丘の下を見ると、寝そべっておじいちゃんから隠れていたイアンさんとキルちゃんが親指を立てていいね! のポーズをしてくれた。


 二人には私が帰ってくるまで何とか人間に見つからないように訓練してもらわなきゃ……!


 小さく頷き、ごめんなさい! と両手を合わせた後、私はおじいちゃんと家へ帰り学校の準備をした。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「……はい。はい。申し訳ありません。わたしが学校に連絡するのを忘れていまして……。今行けそうな状態になったみたいなので送ります。はい、申し訳ありませんでした」


 私が制服に着替え、制カバンを肩に背負って階段を降りている途中でおじいちゃんの声がした。

 きっと先生に電話してくれているのだろう。

 ありがとう! おじいちゃん!


 私が階段を降り切ったところでおじいちゃんの電話も終わったようだ。

 おじいちゃんが私の方を見て、


「いいか、雪。何とか誤魔化したからとりあえず学校には行ける。でも風邪ということにしておいたから、ちゃんと風邪を引いている演技をするんじゃぞ」


「えっ?」


「それ以外方法がなかったんじゃよ。車で送るから、ちゃんとするんじゃぞ」


「う、うん……!」


 私は唾を飲み込みながら頷いた。

 演技か……。

 車に揺られながらそんなことを考える。

 演技なんてしたことないから上手くできるかがすごく不安だ。でもやり過ごすためにはそれしかない!

 おじいちゃんも言ってたけど。

 せっかくおじいちゃんが誤魔化してくれたんだし、それを無駄にするわけにはいかない!


 頑張ろう! と心の中で覚悟を決めた。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「村瀬さん、風邪大丈夫?」


 下駄箱で靴を履き替えたところで先生に声をかけられた。あろうことか、担任の先生が私を下駄箱まで迎えに来てくれたらしい。予想外の出来事で、思わずフリーズしてしまう。


「村瀬さん?」


「は、はい!」


 肩をポンポンと叩かれて私は弾けるように飛び退いてしまう。

 先生には、声をかけたくらいで驚くのか、とすごく心配された。



「風邪引いたんだって?」


 遅刻届を提出するために職員室に向かっていると、先生がそう尋ねてきた。


「は、はい」


 焦って普通に返事をしてしまい、慌てて後から嘘くさい咳込みをコホンとする。


「夏風邪かしらね」


「そ、そうなんでしょうか」


 確かにそう言われるのも無理はない。今は六月下旬。もう少しで本格的な夏が来る。

 夏風邪にしては時期が早すぎるかもしれないけど、そこのところは先生も気にしてないみたい。


「はい、これ書いて」


「わ、わかりました」


 職員室に着いて先生から遅刻届の紙を渡され、私は筆箱からシャーペンを取り出した。

 日付、遅刻した理由などの必要事項を記入していく。


「書けました」


 先生に渡すと、先生は遅刻した理由にさらっと目を通して


「はい、OK」


 とOKサインをくれた。こうして私は無事に午前の二コマの授業に参加出来た。

 教室に入った時のみんなの反応は言いたくないけれど。



 ピーンポーンパーンポーン。なんだか聴くのが久しぶりに感じるチャイムが鳴り響き、午前の授業が終わった。

 担当の先生にみんなで礼をして椅子に座る。


 はぁ、疲れた……。


 授業が始まるたびにそれぞれの教科担当の先生から『あら、村瀬さん、来てたのね』とか『村瀬いるじゃないか』などと名前を呼ばれ、クラスのみんなからはその度にガン見され、授業の始めは最悪だった。


 これも学校があることを忘れてた私の責任。自業自得だから仕方ないんだけど。


 今から三十分以上の昼休みに入る。

 行きにコンビニでおじいちゃんに買ってもらったおにぎりと唐揚げをビニール袋から取り出して、机の上に置いていよいよランチタイムだ。


 と、その時。コンコンコンと窓が叩かれた。

 振り向くとそこにいたのはイアンさんとキルちゃんだった。

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