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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第六章 堕鬼編
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第192話 栄枯盛衰

「危なかったね」


「おいおい、大丈夫かよ」


「押されてんな。俺達も協力するぜ」


 若人吸血鬼、青年吸血鬼、中年吸血鬼の三人が、ハイト達を振り返った。


 フォレスとウォルが繰り出した渾身の技を、いとも簡単に弾き返してしまったのだ。


「テメェら、もう伸びたかと思ってたぜ」


 ハイトは肩を押さえながら立ち上がって、満面の笑みを浮かべていた。


「なかなかしぶといのね、吸血鬼って」


 私の隣で事の成り行きを見守っていた亜子(あこ)ちゃんが、顎に手を添えて感心したような仕草をしていた。


「確かにすごいよな。でも吸血鬼って自分で自分の血吸ったら出血とかすぐ治っちゃいそうだし、案外無敵なのかも」


 風馬(ふうま)くんも思わず納得してしまうような推測をする。


 ハイトの首絞めから逃れられた直後は風馬くんにお姫様抱っこをされてしまった私だったけど、今はちゃんと自分の足で立っている。


 あんまり弱いところ見せたくないしね。もう散々見せちゃってる気はするけど。


 何はともあれ、吸血鬼三人組の登場に一番驚いていたのは天使達だった。


 でもそれも無理ないよね。自分達が敵を追い詰めていってもう少しで勝てる! っていう時にまた敵が増えちゃうんだもん。


 フェルミナさんもフォレスもウォルも、目をパチパチとしばたかせている。


 そう言えば三人とも、フェルミナさんの技で止めを刺すつもりだったもんね。


 それがあんなに簡単に弾かれちゃったら、そりゃあびっくりしちゃうよ。


「ヨシ! コイツらも揃ったことだし、早速反撃にかかるとするか!」


 ハイトが拳を掌にゴツンとぶつけて、やる気をアピールする。


「あ、そうだ」


 ふと、吸血鬼三人組の中では一番年下の若人吸血鬼が、何かを思い出したように声をあげた。


 戦闘モードに入っていた他の五人は、面食らったように彼の方を見る。


 視線が集中して照れ臭そうな若人吸血鬼だったけど、少し笑ってから何かを取り出した。


「じゃーん! 僕達の武器でーす!」


 それは遠目からでも分かるほどの、長くて細い槍だった。しかもちゃっかり人数分持っている若人吸血鬼。


「おぉー! 良いじゃねぇか! ナイスだぜ!」


 ハイトは若人吸血鬼の肩を思いっ切りバシバシと叩きながら、吸血鬼三人組が助けてくれた時以上に嬉しそう。


 一方、ベタ褒めされた若人吸血鬼も満面の笑みを浮かべながら、


「あっはは! ありがとうございます、ハイトさん。でも痛い。痛いです」


「良いじゃないこれぇ。ついに私達にも武器が出来たのねぇ」


 マーダも鋭い槍に顔を輝かせている。スレイは早速素振りをしてみたり。


「じゃあ新生・吸血鬼の力、見せつけてやろうぜ!」


「「「おおおおおぉぉぉぉー‼︎」」」


 ハイトの鶴の一声をきっかけに、吸血鬼達の楽しげな咆哮が響き渡った。


 そして目の前の敵がやる気満々になってしまった天使達は、顔を青くしていた。


「う、嘘だろ……? さっきまでボロボロだったのによー」


「ど、どうしよう……。何か元気になってるんだけど……。ボク達、勝てるかなぁ」


 ウォルの不安そうな声を聞いて、今まで呆然としていたフォレスが拳を強く握る。


「あったりめーだろ! 勝たなきゃどーすんだよ!」


「そ、そうだよね……」


 ウォルはフォレスの言葉を聞いて頷いていたけど、それでも不安そう。


 そんな双子の天使を元気づけるように、フェルミナさんが吸血鬼達に向かってもう一度銃を構えた。


「とにかく、さっきと同じ戦法で行きましょう。数が増えただけ。何の問題もないわ」


「そ、そーだよな。りょーかいだぜ、フェルミナさん」


「わ、分かりました! 頑張ります!」


 フォレスとウォルも、それぞれ茶色い蔓の双剣と水泡の弓矢を構えて戦闘の態勢に入る。


 そして先導を切って、フェルミナさんが駆け出す。


 彼女が構えている銃口からは、何発もの銃弾が一気に発射されていく。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 その銃弾が迫っていく先______吸血鬼達六人はと言えば。


「来たぞ」


 ハイトが重心を低くして身構える。勿論、槍を向けることも忘れない。


「……要は、この槍であの銃弾を弾くことが出来るというわけだな」


 スレイは初めて触ったらしい槍をツンツンと突いて、納得したような様子を見せている。


「すっごい便利じゃなーい。お手柄よぉ」


 マーダは槍を持って素振り……と言うには激しすぎるくらいにブンブンと振り回していた。


「あ、ありがとうございます」


 槍を皆に渡した若人吸血鬼は、顔を真っ赤にして照れる。


「照れてる場合じゃなかろう。避けろ!」


 中年吸血鬼のかけ声に導かれるように、六人の吸血鬼達は一斉に散らばった。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 自分達の方に向かって走ってきた吸血鬼達を見て、先に駆け出したフェルミナさんを見て、


「よし、ウォル、オレ達も行くぞ!」


「う、うん! フォレス!」


 双子の天使もいよいよ動き出す。


「フェルミナさん! オレ、そっち手伝うぜ!」


 フォレスはキラー・ヴァンパイアの三人と相対していたフェルミナさんの方へと駆けていき、その輪の中に入った。


「ありがとう、フォレス」


「ウォル、そっちの三人は頼んだ!」


「う、うん……!」


 一方のウォルは、前に私を拉致した吸血鬼三人組の方へと走っていく。


「へぇ、君が僕達の相手?」


 若人吸血鬼が、品定めをするようにウォルを上から下まで見回す。


「言っとくが、俺達はもうタダのポンコツ吸血鬼じゃねぇぜ」


「俺達には、ちゃんとした武器があるんだからな!」


 青年吸血鬼、中年吸血鬼が続けてウォルを煽るような口調で言う。


 ウォルは形成が不利になったことに奥歯を噛み締めた後、弓をギュっと握りしめて、


「下手に爪でぶつかってこられるより何倍もマシだよ! 【水矢(ウォーター・アロー)】!」


 駆け出し、矢を発射して技を繰り出していく。


「そんな攻撃、これで……っ!」


 発射された直後は水鉄砲のような水が出てくる程度の威力が、空気に触れて飛んでいく過程でまるで本物の矢のように硬くなっていく。


 それがウォルの放つ弓矢の特徴だった。


 初めて天使達と戦った時も、そのせいでキルちゃんやレオくんが苦戦を強いられていたくらいだ。


 それでも、若人吸血鬼が振るった槍によって、強力な矢もあっさりと弾かれてしまう。


「よし、行けたぞ!」


 自分も無我夢中で槍を振り回しつつ、青年吸血鬼が歓喜の声をあげた。


 ウォルは自分の技が弾かれたことに本気で動揺して、


「そんな……! でも、一回弾かれたくらいで気圧されたりしないよ! ボクは水の使い手だからねっ!」


 カッと目を見開くと、風のような速さで吸血鬼達を翻弄し始める。


 あまりの変貌に、吸血鬼三人組は明らかな驚愕をその表情に宿していた。


「な、何だこいつ! いきなり速く……!」


 慌てて周辺を見回す中年吸血鬼の頬を、透き通った汗が垂れる。


「焦るな! ちゃんと動きを見りゃあ対処出来るぞ!」


 中年吸血鬼のアドバイスに返事をして、青年吸血鬼は深呼吸した後に冷静な態度を表した。


「もう一回! 【水矢(ウォーター・アロー)】!!」


 吸血鬼三人組の周りを走り回りながら、ウォルはもう一度弓を引く。


「やぁっ!」


 必死に若人吸血鬼が振り回した槍は、ウォルの放った矢に見事的中。


「隙を見せるな! そのまま突っ込むぞ!」


 再び技を弾かれたウォルの動揺を瞬時に読み取って、中年吸血鬼が声を張り上げる。


 それを合図に、吸血鬼三人組は槍を振りかざしてウォルへと飛びかかっていった。


「うあっ! 何だよ急に!」


 矢を弓にセットする暇もなく襲われたウォルは、何とかして身を捻り、吸血鬼達を回避しようと試みる。


 それでも相手は三人、ウォルは一人。明らかに人数の差がある。


「くっ……!」


 ウォルの頬や腕から鮮血が飛び散る。吸血鬼達の押し切った戦法は確かに成功していた。


 ウォルが体勢を整えようと大きく後ろに飛躍し、吸血鬼三人組と距離を充分に取った瞬間。


「ぐわあっ!」


 ものすごい勢いで吹っ飛ばされてきたフォレスが、そのままウォルに激突してしまった。


 その拍子に、フォレスを全身で受け止める形になったウォルも地面へと倒れてしまう。


「フォレス! ウォル!」


 フェルミナさんは急いで振り返り、倒れた双子天使に視線を移す。


 でも、


「よそ見してる場合かよ!」


「ううっ!」


 ハイトの槍が直撃し、彼女の太ももから赤黒い液体が流れ出た。


「くたばってなさい!」


 直後にマーダからの蹴りを受けて、フェルミナも遠くへ飛ばされてしまった。


「「フェルミナさん!」」


「フェルミナ!」


 ボロボロの双子天使と、ルーンさんが叫ぶ。


 状況は完全に吸血鬼達の方が優勢だった。


 だから、このまま天使達が敗れる結末が待っている。


 ______と思った瞬間、いきなり地面が大きく揺れた。

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