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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第一章 出会い編
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第20話 吸血鬼達の朝

「大丈夫?」


 朝、目を覚まして身体を起こしたイアンに、朝食を作りながらキルが聞いてきた。

 肩より少し短い桃色の髪を、バンダナで結んでいる。


 ____ずっと火を使ってるから暑いんだね。


 バンダナ姿のキルも良いな、なんてイアンは思ってしまう。


「ああ、大丈夫だよ。ありがとう」


 そう言って微笑むイアンを満足そうに見ながら、キルは言った。


「まだ気にしてるの? レオのこと」


 キルの言葉にイアンは右の方___レオが寝ている方向を見た。


 その手前にはユキ、奥にはミリアがそれぞれ寝ているのもイアンの目に入る。


「……そうだね。僕のせいでこうなっちゃったんだから」


「そんなことないと思うけど?」


 キルは意味ありげに笑っていた。


「ユキとレオの仲を修復させるのに、絶好の機会だったんじゃない? 私はイアンがレオに任せた気持ち、ちゃんと分かるわよ」


「キル……」


「命に別状はないんだし、ルーンと会ったのだって、きっとイアンがレオと一緒に行ってても同じだったと思うわ」


 キルが笑顔でイアンをなだめてくれた。

 その言葉にイアンは少し救われる。


 今でも、あの選択は間違ってたんじゃないか、と思うことがあるのだ。

 あの時一緒に行っていれば、レオがこんなひどい怪我を負う必要もなかったのに、と自責の念に駆られることが。


 しかし、今キルが慰めてくれたことで、自分に全ての非があるわけじゃないのかも、と思えてきた。

 それとともに、ルーンへの怒りがふつふつと湧き上がってくる。

 いや、これはルーンへの怒り()()なのだろうか。

 確かにルーンは許せないし、絶対に許したくない。

 しかし、レオがボロボロになるまで、間に合わなかった自分に対しての怒りもあるのではないだろうか。


 ____きっとそうだ。全ての責任をルーンに押し付けちゃいけない。鬼衛隊長としての責任も噛み締めなきゃいけないんだ。


 隊員に怪我を負わせてしまったこと。何の罪もない人間を巻き込んで恐怖に晒してしまったこと。

 それは全部、イアンの責任が甘かったから起きたことだ。イアンは責任を持っているつもりで、実は甘く見ていたのかもしれない。


 そんなことがあってはならない。

 今後の鬼衛隊の存続の為にも、決してあってはいけないことだ。

 もっと強くならなければいけない。


 ルーンが途中で攻撃をやめてくれたから助かったようなもので、実際あれが戦争だったら間違いなくイアン達は全滅している。

 ルーンがユキに免じて攻撃をやめてくれていなかったらと思うとイアンは寒気に襲われるのだ。

 その点、ユキにもルーンにも感謝しなければいけない。

 二人のおかげで、鬼衛隊は全滅を免れたのだから。


「おーい、イアンー?」


 目の前で手を振られて、イアンは思わず情けない声を上げてしまう。


「大丈夫?」


 キルがキョトンとした顔で聞いてきた。

 いつのまにか考え事をし過ぎて、ボーッとしてしまっていたらしい。


「あ、うん。大丈夫。ちょっと考え事をね。ありがとうキル」


 イアンがお礼を言うとキルは半ば呆れながら、フライパンを持っていない方の手を腰に当てて、


「朝ごはん出来たから、イアンだけでも食べれば?」


「そうだね。……じゃあお言葉に甘えて」


 まだ寝ている三人を見つつ、イアンは立ち上がって食卓に着いた。

 お皿の上には、焼きたてで湯気が出ている目玉焼きと、レタスの付け合わせが置いてあった。


 ____美味しそう……!


 思わずよだれが出そうになるイアンを、キルは怪訝そうに見て、


「イアン汚いんだけど」


「ん? ……あぁ、ごめんごめん」


 垂れてきたよだれを急いで拭い、キルに謝る。


「もう。子供じゃないんだからちゃんとしなさいよ」


 キルのごもっともな言葉に、イアンの心臓がギュッと締め付けられる。

 勝手にダメージを受けた後に、イアンはツルツルの目玉焼きをフォークで刺して口いっぱいに頬張った。

 口の中で黄身が溶け出して噛むたびにジュワッと出てくる。

 味もちょうど良い塩加減で美味しい。


「いただきまーす」


 見ると、キルもイアンの斜め前に座って手を合わせていた。

 イアンが朝食を食べ終えたところで、雪とミリアが起きてきた。

 まだミリアの回復魔法が切れていないのか、レオは眠ったままだったが。


「イアンさん、おはようございます」


「おはようございます、イアン様」


 雪とミリアに挨拶され、イアンはニッコリと笑って返す。


「うん、おはよう、二人とも」


「うわぁっ、美味しそう!」


 雪は、キルの作った朝ご飯を見て、キラキラと目を輝かせていた。


「味も保証するわよ」


 先程のイアンのお墨付きを経て、キルは自信たっぷりに片目を瞑ってみせる。


「うん! キルちゃん、ありがとう! いただきます!」


「いただきます」


 雪とミリアは、両手を合わせて朝ご飯を食べ始めた。


「キル、ミリア」


 イアンが二人を呼ぶと、二人は不思議そうにイアンを見つめた。


「どうしたの? イアン」


 キルに尋ねられ、イアンは答えた。


「朝ご飯が終わったら特訓だ。と言っても、前みたいに僕がボコボコにされるような地獄の特訓じゃないよ? ちゃんと皆でパワーアップするための正式な訓練だ」


「はいはい、要はイアンばっかり狙うなってことでしょ」


 キルが、ご飯を口にしながら言う。


「いいや、意図的に狙うのは駄目だけど、訓練としてなら良いよ」


 首を振ったイアンを見て不思議そうな顔のキルに、ミリアが補足する。


「イアン様も、昨日の天兵長との戦いで本格的に力を取り戻されましたものね」


「うん。だからキル、遠慮しないでかかってきて良いよ!」


 ミリアの補足とイアンの言葉を受けて、キルはやる気満々に拳を握った。


「分かった! その代わり、泣き言言わないでよね!」


「勿論だよ!」


 その後、イアンはボコボコに攻撃を受けたのだった。

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