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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第一章 出会い編
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第2話 現れたイケメンと吸血鬼

 あんなに大きいビームが当たったらどうなるんだろう。

 身体が吹っ飛ぶのかな。それとも即死で何も感じないのかな。


 死ぬ間際なのに高速でいろんなことを考えてしまう。


 ていうか……。


 あれ? 結構なスピードだったはずなのに、ビームがいつまで経っても当たらない。

 それとも私にビームが当たったという感触がないだけ?


 私はおそるおそる目を開けた。


「あれ?」


 目の前に向かってきていたはずのビームは消え去っている。

 その代わりに、目の前には白い壁のようなものがある。


 あ、でも、電球がついてるから天井かな?


 いや、待って! それにしてもビームがないってどういうこと?


 私は困惑した。

 確かにあの吸血鬼が飛ばした大きすぎるビームは、私に向かって飛んできたのに……。


「大丈夫か?」


 真上から声がした。低い男の人の声だった。


 ん? 真上?


 不意にひょいっと頭の方から覗いた顔に、心臓が飛び出そうになる。


「うわぁ!」


 そして思わず叫んでしまう。


 私の顔を覗き込んだ男の人の明らかに怪訝そうな顔……。


「す、すみません。急に大声を出してしまって……」


 小声でボソボソと言う感じになっているけど、とりあえず急いで謝る。


「だ、大丈夫だ。気にするな」


 男の人は、眉毛をピクピクと動かしながらそう言ってくれた。


 でも眉毛ピクピクしてるし、めっちゃ動揺してるじゃん!


 一気に申し訳なさが膨れ上がってきて、土下座をしたくなるくらいだ。


「とりあえずまだ完全には回復していないようだな。しばらくこのまま休んでいろ」


「あ、はい!」


 男の人はドアをガチャリと開けて出て行ってしまった。


 何だったんだろう……。


 黒いスーツに身を包んだその男性は、黒縁メガネをかけていていかにも真面目そう。

 顔立ちも整っていて背も割と高そうだった。


 ここまできてようやく気づいたけど、私はどうやら生きている。

 そしてこの変な(と言ったら失礼だけど)白い壁の部屋で寝かされている。


 身を起こしてみて初めて、自分が少しだけ怪我をしていて傷には包帯が施されていたのにも気づいた。

 ごくごく普通の人間である私が、吸血鬼のあんなに大きなビームをまともに受けて軽い傷で済んでいるなんて、そんなことはあり得ない。


 とすると、考えられるのは二つだけ。


「無意識のうちにあのビームを避けてた、もしくは誰かが助けてくれた!」


 そう、それ以外にあり得ないのだ。

 結構狭い部屋から想像するに、ここは病院ではなさそう。

 私が今寝ているベッドが置かれているだけの、こんな寂しすぎる部屋が病院にあるなら、それはきっと隔離部屋のはず。


「さすがに隔離はないよね」


 というわけで、ここは何らかの部屋と勝手に決める。

 同時に私が無意識にあのビームを避けた可能性も捨てた。

 自分でもはっきり断言できるほどの運動音痴な私が、いくら命に関わる危機的状況になったからと言って、あのビームを一瞬のうちに素早く避けるなんて神業が出来るとは思えないからだ。


 とすると……。


「もしかして助けてくれたの、さっきの男の人?」


 絶対そうだ! と私は確信を持つ。


 もしそうだとすればまだお礼を言っていない。

 助けてくれた上にこうやって怪我の処置までしてくれるなんて優しすぎる!

 何としてもお礼を言わなければ!


 すると突然、


「吸血鬼だあああぁぁ‼︎」


 と叫ぶ男の人の声がした。


「き、吸血鬼!?」


 私も思わず叫んでしまう。

 もしかしたら私を仕留めきれずに、ここまで乗り込んできたのだろうか。


 いや、そんな自意識過剰な……。

 あのビームはイケメン吸血鬼に向かって投げられたものだし、あのヒトが避けたから私の方に来ただけで……。


「大丈夫か!?」


 ドアが乱暴に開かれ、さっきの男の人が血相を変えて私の方に走ってきた。


「は、はい。大丈夫で……」


 そう答えようとすると、急に私の身体はふわりと浮いた。


「え?」


 何が起こったのかわからなかった。

 でも目の前に男の人の顔があって、その人はまっすぐ前を向いて一生懸命走っている。

 その人が足を踏み出すたびに私の身体も小刻みに上下に動いている。


 まさか……これは……。


 お姫様抱っこだ!!!


 私は心の中で渾身の叫び声をあげる。

 こんなにすぐに乙女な体験をできるなんて夢にも思っていなかった。

 しかもその相手はイケメン!

 最高のシチュエーションだ。


 いや、まさに今絶賛お姫様抱っこされ中なんだけど……。


 男の人は必死なのに、私だけ乙女みたいに舞い上がっていておかしいことになっているけど、そんなことは気にしない気にしない!

 やっぱり学校は最悪だけど生きててよかったと心から思う。

 生きてれば良いことあった!

 よく頑張って生きてました! 私!


 ドーーーーーーーーーーン!


「うわぁぁぁぁぁ!」


 耳をつんざくほどの大音量に、私は思わず叫んでしまう。

 見ると、突然目の前の天井が崩れたのだ。

 男の人は急ブレーキをかけるように即座に立ち止まった。

 瓦礫が落ちて煙が上がっている中に、何やら人影が見える。


 私も男の人も、じっとその影を見つめた。


「貴様は!」


 急に男の人が声を荒げた。


 だんだん煙が引いてきて、その中にいる人の姿が鮮明になってくる。

 黒いマントに鋭い歯。


 まさしく吸血鬼! と言わんばかりの顔だった。

 でも天井を割って入ってきたのは、あのイケメン吸血鬼ではなかった。

 少しばかり背は小さいが、爪を立ててこちらを上目遣いで睨んでいる。

 見た感じ女の子のようだ。人間でいうと小学三年生くらい?


「逃げろ!」


 男の人が即座に私を下ろしながら叫んだ。


「は、はい!」


 まだ状況はつかめていないけど、これが良くない状況なのは分かる。

 私は、吸血鬼が立ちはだかっている行き先とは逆の方向に向かって全力で走った。


「はぁ……、逃げないでくれる? 厄介なの!」


 見た目小学生の女の子吸血鬼が、気だるげに息を吐いて私を追いかけてくる。


「させるか!」


 すぐに男の人が拳銃を構えて威嚇する。


 ど、どこから持ってきたの!? その拳銃!


 私は男の人が普通に拳銃を構えたことに驚いた。

 だ、だって外国だったら民間人が鉄砲持ってても不思議じゃないかもしれないけど、ここ日本だよ!?


 しかも廊下すっごい長いし! 家じゃないどこかの施設!?


 色々思うところはあるけど、とりあえず逃げなきゃ!

 男の人のおかげで女の子吸血鬼がたじろいだ隙に、私は全速力で走った。


 少しでも遠くに逃げられればこっちのものだもん!


 後ろからかすかに、男の人と吸血鬼が闘っている声が聞こえてくる。

 後ろ髪を引かれる思いがしたけど、それでも足に力を込める。


 角が見えてきた。

 あそこを曲がれば、女の子吸血鬼から私の姿は見えなくなる。

 私は角を曲がろうとした。


 でも、角の先が見えた途端その視界は塞がれ、目の前に大きな影が立ちはだかった。


「え?」


 大きな影の正体を確認する暇もなく、私はそれに口を塞がれる。

 必死に逃げようともがくけど、力が強すぎてなかなか離れられない。

 数秒もしないうちに目の前にマントがかかった。


 そこで私の意識は途絶えたーー。



 ※※※※※※※※※※※※※※



『雪! 雪!』


 誰かが私を呼んでいる。

 ぼやけた視界の中に、ピンク色のワンピースがゆらめいている。


『お母さん……』


 口からそんな言葉がこぼれた。

 言ってから私はハッとする。


『お母……さん?』


 未だに視界はぼやけたままではっきりとしないが、あのピンクのワンピースに見覚えがあるような、そんな気がした。

 細い身体にすらっと伸びた手足。

 懐かしい感じがする。


 あれが、お母さんなのかな?


 そんなことを考えていると、そのピンク色もだんだん薄れてくる。


 お母さんが消えちゃう!


 咄嗟にそう思った。


 お母さんに消えてほしくない、そばにいてほしい、もうどこにも行かないでほしい。

 そんな思いが次々と溢れてきた。

 その溢れた思いを一言に託して、私は叫ぶ。


『お母さん!!!』



 ※※※※※※※※※※※※※



 私はハッと目を覚ました。

 自分の家でも、さっきの白い部屋でもない天井と電気が視界に映っている。

 まるでログハウスのような木造の天井だった。


「起きた?」


 声がして横を見ると、さっき行く手を阻んできた女の子吸血鬼が、壁にもたれながら私の方を見ていた。


「えっ!?」


 思わず飛びのいてしまう。そしてそのまま地面に落下。

 ドン! と鈍い音がして鈍い痛みがじわじわとくる。


「あいたたた……」


 私はお尻をさすりながら立ち上がった。


「何してるの」


 女の子吸血鬼は冷たい表情で、呆れたようにため息をついていた。


「アハハ、ちょっとびっくりしちゃって……」


 私は照れながら、もう一度ベッドへと上がる。


「その様子なら大丈夫そうね」


 やけに大人びた口調で女の子は話す。

 改めて見てみると、背は子供並みに低いけど歯は結構長い。

 薄いピンク色の髪の毛は肩にはまだ届かないほどだがとてもサラサラで綺麗だ。

 外見は子供っぽいけど、それでも身に纏っている黒いマントがよく似合っている。


「呼んでくる」


 女の子吸血鬼は私を見てそう言い、立ち上がってドアの方に向かった。


 え? 誰を?


 そう聞きたかったけど女の子はすぐにバタンとドアを閉めていなくなってしまった。


 まぁ、良いか。そのうち誰かわかるし。


 ドアが閉まってから、私は部屋を見渡した。

 丸太が部屋の壁や天井全体に敷き詰められていて、本当のログハウスのようだ。

 ドアの近くには小さな机があり、その上の花瓶に一輪の赤いバラが挿してある。


「さっきの吸血鬼ちゃんの家なのかな」


 するとドアが開いて、女の子吸血鬼が帰ってきた。


「あ、お帰りなさい」


 私はベッドの上で上半身を起こしたまま出迎えた。

 女の子吸血鬼はコクリと頷いて家に入ってくる。

 ()()()()()()()()()()()

 その後ろから、なんと、あのイケメン吸血鬼が続けて入ってきたのだ。


「えっ……!?」


「体調は大丈夫かい?」


 突然のことで頭が追いつかず、フリーズしてしまう。

 でもそのイケメン吸血鬼は、ニッコリとまるで白馬の王子様のような温かな微笑みを浮かべながら、私にそう尋ねてくれた。


「は、はい! 大丈夫です!」


 私が少し緊張しながら答えると、そのイケメン吸血鬼はまたニッコリと笑って言った。


「僕はイアン。よろしくね。そしてようこそ、僕達吸血鬼の世界へ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして! 新着の活動報告から参りました、秋真と申します。 ファンタジー要素が現実世界の日常に当たり前に溶け込んでいる、という世界観が個人的に好きで、御作がまさにそうなので楽しく読ませて…
[一言] すみません。そういう意味の気になる点じゃないんです。なんか嬉しくなったんです。訳は書きません。多分気付いてくれると思います。
2020/03/23 02:16 退会済み
管理
[良い点] 読みやすい引き込まれる。 [気になる点] イケメン吸血鬼が助ける女の子。低い声。 [一言] なるほど。
2020/03/23 01:58 退会済み
管理
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