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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第六章 堕鬼編
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第172話 ラブラブだからな、俺達

 二十年前の亜人界、亜人領。


 そのとある一角では、赤髪の少女が技の詠唱を繰り返していた。彼女の詠唱によって建設された砦のようなものだったが、すぐに崩れてしまっている。


「【鉄砦(アイアン・フォート)】!」


 少女の詠唱によって再び建設された砦だが、すぐに崩れてしまう。


 何度も何度も挑戦しているのに、未だ一回も成功出来ておらず、少女は詠唱を止めて肩を落とした。


「どうした?」


 と、赤髪のいかつそうな少年が通りかかり、彼女に声をかける。


「いえ……。技の練習をしてるんですけど、いつも途中で崩れてしまうんです」


「そうか」


 少女の言葉を聞いた少年は、考え込むように顎に手をやってから、


「なぁ、実は俺もあんまり力加減が出来ねぇんだ。お前さんさえ良ければ、一緒に練習しねぇか?」


「えっ、良いんですか?」


 少年の突然の提案に、少女は驚きを隠せない。


 目をぱちくりしている少女に、少年は親指を立てて、


「勿論だぜ。俺、アオ。お前さんは?」


「アミ。アミって言います」


 ドキマギしながらも、少女は自分の名を名乗った。


「そうか。よろしくな、アミ」


「はい、アオさん」


 その日から、二人の亜人は自分達の技を極めるために特訓を始めた。


 アオの目標は技の力加減を身につけること、アミの目標はどんな攻撃を受けても崩れない砦を作ること。


 お互いの目標の実現のために、二人は必要不可欠だった。


 毎日毎日、目標を達成できてからも何年も特訓を重ねた二人は、やがて互いに惹かれ合うようになったのだった____。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 イアンが一旦保健室へ戻った頃。


 亜人達が暮らす地域に転移して、村瀬(むらせ)(ゆき)を誘拐した吸血鬼三人組のうちの二人と戦っている者達が居た。


 鈴木(すずき)( まこと)の弟・藤本(ふじもと)(ごう)後藤(ごとう)亜子(あこ)の両親・後藤(ごとう)亜雄(あお)後藤(ごとう)亜美(あみ)である。


 若人吸血鬼に殴り飛ばされ、剛は地面をゴロゴロと転がっていく。


 それでもすぐに反撃するべく、悲鳴をあげる身体に鞭を打って立ち上がろうとするが、身に力が入らず膝を付いてしまう。


 吸血鬼や亜人と違い、剛は普通の人間だ。そのため、武器もない。攻撃手段は自分の身体だけ。


 そのため、剛の身体からのあちこちから血が滲んでいた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 つたってくる汗を拳で拭い、剛は吸血鬼達を見つめて息を切らす。


 中年吸血鬼と戦っていた亜子の両親が、瞬時に後退して剛に声をかけてきた。


「剛くん、大丈夫?」


 と、長い赤髪をたなびかせる亜子の母・亜美。


 赤い短髪を汗で濡らした亜子の父・亜雄が、剛に向かって手を差し伸べてきた。


「立てるか」


「ありがとうございます……」


 剛は亜雄の手を取り、立ち上がった。


「全く、お前らも飽きねぇな。いい加減止めたらどうだ? こんなみっともねぇ戦い」


 亜雄は吸血鬼達を見つめ、腰に手を当てて呆れたように言う。


 すると、その言葉を聞いた中年吸血鬼が眉を寄せた。


「止めるだと? ハンッ! ふざけんのも大概にすんだな」


「そうだ、そうだ! 僕達が諦めるわけないだろ!」


 若人吸血鬼も、中年吸血鬼に賛同するように拳を突き上げる。


 交渉に失敗した亜雄は、想像通りだとばかりにため息をついた。


「やっぱ無理だよな」


 亜雄の隣に並んだ亜美が、亜雄の肩をポンと叩く。


「仕方ないわよ、あなた。私達の力、見せつけてやりましょう」


「ふん、そうだな!」


 誇らしそうに笑みを浮かべ、亜雄はもう一度腕をメキメキと鳴らした。


「剛くん、あまり無茶しないでね。私と一緒に戦う?」


 先程までは、亜雄と亜美が二人がかりで中年吸血鬼の相手をしており、剛は一人で若人吸血鬼と戦っていた。


 そのため、身体に明らかな限界が垣間見える剛を、亜美が心配したのである。


 しかし剛はそんな亜美の厚意を丁寧に断って、


「いや、俺一人で大丈夫です。俺一人で倒したい」


「……分かったわ」


「良い心がけだ、嫌いじゃねぇぜ。その代わり、無理すんなよ」


 剛の強い決意を聞いた亜美は静かに頷き、亜雄はサムズアップして剛を気遣った。


「はい!」


 剛は返事をすると、若人吸血鬼の方へと走っていった。


「何度かかってきたところで、俺らは諦めん!」


 中年吸血鬼が再び剣を構え、声を張り上げる。


「そう言うと思ってたぜ、おっさん」


「誰がおっさんじゃ!」


 亜雄に年上扱いされた中年吸血鬼は、思わず声をあげた。


 だが、その言葉に亜美が吹き出し、


「あら、『じゃ』ですって」


 年寄り口調になった彼を、夫婦揃って笑い出す二人。


「貴様ら、調子に乗りおって……!」


 散々馬鹿にされ、中年吸血鬼は怒りに任せて拳を握りしめ、亜美の方に駆けていった。


「【鉄砦(アイアン・フォート)】」


 振りかぶった拳が硬い砦に直撃し、中年吸血鬼は痛みに声をあげ、


「ぐっ! 何だこの壁は!」


「壁じゃなくて砦なんだけど……。まぁ、良いわ」


 砦の内側で亜美はそっと抗議したが、最終的にはさらりと流す。


「このっ、このっ!」


 拳の痛みと馬鹿にされた悔しさで、中年吸血鬼の怒りは頂点に達していた。


 一度だけではなく、もはや砦を壊すために拳を振るう彼に、


「弱いわね。うちの人の足元にも及ばないわ」


「何だと!?」


「参ったな、こんな時に褒めるなよ」


 亜美の言葉に中年吸血鬼が立腹し、亜雄が恥ずかしそうに赤い短髪をくしゃくしゃと掻く。


 亜美は、照れ臭そうな亜雄をジト目で見上げ、


「褒めてないわ。事実だもの。それに、この吸血鬼さんが弱すぎるだけよ」


「褒められたと思ったのに……。ま、もっと褒められるように頑張るだけだがな!」


 亜雄は亜美の言葉に落胆したように声音を低くしたが、すぐに気持ちを切り替える。


 巨大な足で地面を蹴って砦を飛び越え、落下の勢いに任せて中年吸血鬼に猛スピードの蹴りを入れた。


「ぐはぁぁぁ!」


 胸辺りを蹴られ、中年吸血鬼はたまらず転がっていく。


「イチャイチャしやがって……!」


 ケホケホと咳き込みつつ蹴られた胸を押さえ、中年吸血鬼は亜人夫婦を睨み付ける。


「あら、ごめんなさいね」


 【鉄砦(アイアン・フォート)】を解除した亜美が頬に手を添えて謝ると、亜雄もそれに便乗して亜美の肩を抱いた。


「ラブラブだからな、俺達」


「調子に乗らないで」


「いでっ!!」


 しかし、怒った亜美に本気でお腹をグーパンチされ、亜雄はお腹を押さえてうずくまる羽目になってしまったのだった。

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