第17話 二人の長
「レオ!」
イアンさんが叫びながら細い道を走っていく。その後に私達も続く。
道は思ったより長く、なかなか先が見えない。
「あ、あの! 何でさっきレオくんがいるってわかったんですか?」
私は声を張り上げてイアンさんに尋ねた。こんな時に迷惑だと思ったけど、でもどうしても知りたかった。
「私達は、お互いの気配を感じ取れる能力を持ってるの」
イアンさんの代わりに、後ろからキルちゃんが答えてくれた。
「そ、そうなんだ」
キルちゃんの真面目な答えに、いとも簡単に納得してしまう私。
やっぱり異世界だし吸血鬼だし、何かしらすごい力はあるんだろうなぁって思ってたけど……。
「うん。あとイアン、今集中してるから話しかけない方が良いわよ」
と、キルちゃんが忠告してくれた。
「あ……! ご、ごめんね!」
「とりあえず今はレオを助けなきゃ」
「う、うん!」
そうだ。目先のことに気が散ってしまって、本来の目的が頭から離れていた。
私のために体を張ってくれているレオくんのこと、絶対に助けなきゃ!
「ハッ……!」
イアンさんが突然、急ブレーキをかけて止まった。
「い、イアンさん?」
「レオの気配がする」
イアンさんの言葉に、私だけじゃなくてキルちゃんやミリアさんも気を引き締める。
「天兵長も居るだろうから、慎重にね」
イアンさんは小声で私達にそう伝え、足音を立てずにまるで風のようなスピードでその先を進んでいった。
キルちゃんが同じようにイアンさんに続く。
え、待って! 私、そんなにスピード出ないよ……!
私がが頑張って力の限り走っていると、そのすぐ横をミリアさんが通って言った。
「行きましょう」
そして手を握られ、気づけば私も風みたいに走っていた。
____違う。これはミリアさんのスピードだ。ミリアさんが私を連れて行ってくれてるんだ。
「ありがとうございます」
「礼には及びませんよ、ユキ様」
ミリアさんは首だけで振り返り、優しく微笑んでくれた。
その笑顔に勇気付けられ、私も前に向き直る。
速すぎて視界がぼやけてる。でもなぜか目は開けられた。ものすごい風が真正面から吹き付けてて、普通だったら目をつぶってしまうのに。
「レオ!」
少し先でイアンさんの叫び声がした。レオくんがいるんだ。あの先に!
私達はすぐさま追いつく。そこには……。
イアンさんに抱かれて横たわるレオくんがいた。
身体のいたるところから出血していて、羽織っている黒マントもボロボロ。意識はあるようだけど、紫色の瞳をうっすらとしか開けられないその姿は、まるで死期が迫ったヒトのようだった。
「レオくん!」
私が叫んでレオくんの傍らへ駆け寄ると、レオくんは私の方に首を傾けて言った。
「ユキ……。良かった……ちゃんと……帰れたんだな……」
弱々しく話すレオくんの姿に、思わず涙が溢れてくる。
「ごめんなさい……」
私は泣きながら絞り出すように言った。
「何……言ってんだ……」
顔を上げた私が見たのは弱々しく、それでも口角を必死に上げようとしてくれているレオくんの初めての笑顔だった。
「レオくん……!」
その姿に胸が詰まり、また涙がボロボロと零れてくる。
「レオ、よく頑張ってくれた。あとは僕達に任せて君はゆっくり休むんだ」
「隊長……」
レオくんに優しく言った後に、イアンさんはミリアさんの方に向き直った。
「思った以上に怪我がひどい。ミリア、一刻も早くレオの手当てをお願い」
「承知いたしました、イアン様」
ミリアさんは礼儀正しくお辞儀をしてレオくんの側に寄ると、首につけている黒マントで自らとレオくんを包んだ。
そうして黒マントと一緒に、ミリアさんとレオくんは姿を消した。
「久しぶりだね、天兵長」
イアンさは立ち上がって、数メートル先に立っている天兵長____ルーン・エンジェラに声をかけた。
「そうだな」
ルーンさんは無表情のまま、顎だけを動かして頷いた。
離れたところにいるのに、彼女の威圧が私の身体を震わせた。
まるですぐ目の前で見つめられているかのような、そんな緊張感を醸し出す彼女は、ただまっすぐイアンさんを見つめていた。
「何でレオを襲ったんだ」
イアンさんが怒りを抑えながら尋ねた。
「襲ってなどいない。ただ……」
ルーンさんは私の方に視線を移した。
彼女に見つめられて私は思わず固まってしまった。
何も魔法や術式をかけられたわけじゃないのに、金縛りにあったみたいに身体が動かない。
「そこの人間を売ろうとしていたのだ。だから人間界に戻そうと思ったんだ」
まだ勘違いしてる! レオくんは私を売ろうとしてた吸血鬼から守ってくれただけなのに……。
「あ、あの!」
私は意を決して叫んだ。ルーンさんが私を見つめる。
その視線に足がすくみそうになったけど、レオくんの誤解を解くために私は叫んだ。
「違います! レオくんは私を守ってくれたんです!」
「だから無理に庇う必要など____」
「庇ってません!!」
私の大声に、ルーンさんもイアンさんもキルちゃんも驚いたようにハッとする。でも私は構わず叫び続けた。
「た、確かに、あなたが見たのは私とレオくんが一緒にいるところだけです! でももっと別なんです! 私を売ろうとした人達は!」
「それは先程も聞いた。だが肝心の誰に売られそうになったかをいつまで経っても言わなかったんだ、あいつは」
「だからって攻撃したの」
キルちゃんが尋ねると、ルーンさんは頷いた。
「人間を危険にさらすお前達吸血鬼は、我々の敵だ。倒すのも当然だろう」
そう言い張るルーンさんに、イアンさんが黒い剣を腰の鞘から取り出しながら、
「君だって僕達の敵だよ」
「ほお。やる気か?」
ルーンさんの口角が少し引き上がる。
「勿論。君は僕の大事な隊員を傷付けたからね」
「良いだろう。だが、お前に我と剣を交えるほどの力は無いではないか」
ルーンさんは、イアンさんを馬鹿にしたように鼻で笑った。
「そうさ。だからお供付きだ」
その言葉と同時に、キルちゃんも笑みを浮かべながら短剣を構える。
「なるほど。承知した。ならば我も本気を出そう」
ルーンさんはそう言って、自分も純白の剣を構えた。




