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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第六章 堕鬼編
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第159話 守ってくれてありがとう

 先生が居ない保健室では、(まこと)さんが亜子(あこ)ちゃんの手当てをしていた。


 私達はベッドから少し離れたところから、手当てが終わるのを固唾を飲んで見守っていた。


 誠さんは亜子ちゃんの丸まった右手に包帯を巻くべく、その手をゆっくり開いていく。


「ううああっ!!」


 耳に入るだけで痛そうな声が響き、私は思わず目を瞑って耳をふさいでしまう。


「悪いが、我慢してくれ。ずっとこのままってわけにはいかん」


「は、はいっ……!」


 誠さんの声と、辛そうな亜子ちゃんの声が聞こえてくる。


 その後も亜子ちゃんの叫び声は響き続けた。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 手当てが開始されてからどれくらいの時間が経っただろうか。


 今まで保健室に響いていた亜子ちゃんの叫びが消えた。


 私が目を開けてベッドの方を見ると、誠さんが背筋を伸ばして立っていた。


「______よし、ひとまずはこれで良いだろう。しばらく痛みも続くと思うが」


「ありがとうございます」


 痛みを堪えているような声で、亜子ちゃんは誠さんにお礼を言っていた。


「あとは(わたくし)の回復魔法で治癒致します、マコト様」


 ミリアさんがベッドの方へと歩み寄り、誠さんに声をかける。


「そうか、頼む」


「お願いします、ミリアさん」


 誠さんと亜子ちゃんにお願いされ、


「はい。勿論です」


 ミリアさんは笑顔で返事をすると、早速回復魔法の詠唱をして、亜子ちゃんの右手を柔らかい光で包み込んだ。


「それで、色々と状況を説明してほしいのだが。まず、何故お前らが秋祭りに参加してるんだ」


 誠さんは私達の方に歩いてくると、イアンさんを睨み付けた。


 イアンさんは、誠さんの厳しい視線に肩をビクッと上下させると、


「そ、そりゃあ、勿論、ユキのことが心配だったからだよ! ユキが学校でグレースに取り込まれたから、今度もユキに何かあるんじゃないかって不安で」


 自信なさげに頬を掻いてから強気な口調で言い、また自信なさげな態度に戻るイアンさん。


 誠さんは小さく息を吐くと、


「それなら俺に言ってもらえれば、雪の警護……とまではいかなくとも様子は見たのに」


「僕が勝手に心配になっただけなのに、マコトくんに頼めるわけないじゃないか」


 イアンさんの言葉に、誠さんは呆れたように腰に手を当てた。


「全く、今まで何もないから良かったものの。これで第三者の目に触れていたら、俺はお前達を排除しなければならなかったのだぞ。お前達とて馬鹿ではないんだから、それくらい分かってるだろ」


「あ、あの! 私がちゃんと見てたので、それは大丈夫です!」


「ユキ……」


 私が言うと、イアンさんは私の名前を小さく呟き、誠さんは一瞬喉を詰まらせてから、『そうか』と腕を組んだ。


「それで、さっきの状況は一体どういうことなの。何であいつらがここに」


 キルちゃんが誠さんにつめ寄り、緊迫した表情を向ける。


 レオくんも続けて、


「それに、前にユキを誘拐しようとしてた奴等も居た」


 誠さんが返事をせずに黙っていると、


「何でそいつらが、なのかは分からないけど、明らかにスピリアを狙ってたわ」


 ベッドの上から亜子ちゃんが言った。


「スピリアを夏合宿の時に始末し損ねたから、リベンジのためじゃないか?」


 風馬(ふうま)くんが、中庭でイアンさん達に言ったことと同じことを口にする。


「私もそう思う。ハイト達は、スピリアちゃんのことをホーリー・ヴァンパイアの中で唯一、自分達が殺し損ねた吸血鬼だって思ってるんです」


 本当はキルちゃんがスピリアちゃんの兄・サレムさんを殺すのを拒んだから、ホーリー・ヴァンパイアの中で生き残っているのはスピリアちゃんとサレムさんの二人だ。


 でも彼らはそれを知らない。だから執拗にスピリアちゃんだけを狙っているのだ。


 私が言葉を紡ぐと、今度はスピリアちゃんが口を開いた。


「だからわたしの名前、ずっと言ってたリ?」


 スピリアちゃんの言葉に、私は頷いた。


 おそらくスピリアちゃんも、あの吸血鬼達が自分の名前をたくさん口にしていたのを聞いたのだろう。


 何故自分が狙われているのかは分からない。でも同時に、自分が狙われているということだけは、彼女もちゃんと分かっていた。


「じゃあ奴等の目的はスピリアの排除。つまり、秋祭りが終わるまでにこの学校に被害を出さないように、スピリアを守れば良いってことだね」


 イアンさんの言葉に、鬼衛隊の面々が同意するように頷く。


「亜子ちゃん、スピリアちゃんのこと、守ってくれてありがとう」


 私がベッドの方に向かって亜子ちゃんにお礼を言うと、亜子ちゃんは悔しげに俯いた。


「守れてないわ。結局吸血鬼達も取り逃がしちゃったし。藤本ふじもとくんと誠さんが来てくれたから、何とか事なきを得たってだけよ」


「そう言えば、何で藤本が」


 保健室の壁に背中を預け、腕を組んでいる藤本くんを、風馬くんが不思議そうに見つめる。


 確かに、何で藤本くんがここに……?


「たまたま通りかかっただけだよ」


 藤本くんは風馬くんにそう答えると、壁から背中を外して亜子ちゃんが寝ているベッドの方にズカズカと歩み寄り、


「ったく、()()も来ないままだったら、どうするつもりだったんだよ。この命知らず」


「おい、藤本! そんな言い方ないだろ!」


 藤本くんが投げかけた厳しい言葉に、風馬くんが反論するけど、それを止めたのは他でもない亜子ちゃんだった。


「良いの、柊木(ひいらぎ)くん。あたしがちゃんとあいつらを仕留められなかったのが、そもそもの原因だから」


 そんな……亜子ちゃんだけが悪いわけじゃないのに!


 めんどくさそうな表情をしている藤本くんに、私は勇気を振り絞った。


「でも……でも、今の言い方は流石にないと思う。ちゃんと、亜子ちゃんに謝ってほしいです、藤本くん」


「はぁ?」


 案の定、藤本くんの厳しい視線が返ってきた。


 やっぱり駄目だった。私の声は、やっぱり届かないんだ……。


 そう思っていると、


「俺からも頼む。藤本」


 風馬くん……。また助けてくれた……。


 風馬くんに助けられたままじゃ駄目だ! もう一押しは、私が自分でやらなくちゃ!


「お願いします」


 私は藤本くんに頭を下げた。


「ちょ、ちょっと雪。良いから」


 慌てたような亜子ちゃんの声を聞きながらも、私は床を見つめ続けた。


「……チッ。わあったよ。……悪い」


「う、うん」


 舌を鳴らしながらも、藤本くんは亜子ちゃんに詫びてくれた。


 戸惑いながらも、頷く亜子ちゃん。


「ていうか、兄貴、ですか?」


 私が尋ねると、藤本くんは訝しげに眉を寄せた。


「あ? 何が悪いんだよ」


「あ、いえ、全然そんな悪いとかじゃなくて」


 慌てて弁解しようとした私だけど、その前に風馬くんの質問が飛ぶ。


「確かに。藤本、誠さんの弟……なのか?」


「ああ、そうだよ」


 あっさりと認める藤本くん。


「「「ええっ!?」」」


 衝撃的な事実に、誠さんと藤本くんを除いた全員が驚きの声をあげた。

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[良い点] 世間、狭し……
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