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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第六章 堕鬼編
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第157話 何も、問題無さそうだし

 昼休み終了時間まで残り五分となった頃。


 私達は、亜子(あこ)ちゃんのお父様とお母様が買ってきてくださった模擬店の食事を食べ終え、満腹感に浸っていた。


「そういえば、後藤(ごとう)とスピリア遅いな」


 口をすぼめて息を吐きながら、風馬(ふうま)くんが言う。


「そうだね。もうすぐ昼休みも終わるし、皆の移動が始まって、帰ってくるに帰ってこれないのかも」


「早くしないと、ここにも次のシフトの奴ら来るんじゃないか?」


 私の言葉に、風馬くんはハッと気付いたように言った。


「あ、本当だ!」


 私も今更ながら気付いてしまう。これ以上イアンさん達がここに留まってたら、次のシフトの皆にイアンさん達の存在がバレることになる。


「イアンさん、申し訳ないんですけど、もうそろそろ皆が戻ってきそうなので……」


「分かった。じゃあユキとフウマの元気なところも見れたことだし……何も、問題無さそうだし」


 最後だけボソリと呟き、安堵したように目を伏せてから、イアンさんは目を細めていつも通りの笑顔を見せてくれた。


「僕達はお暇しようかな」


「そうね」


 キルちゃんが賛同し、レオくんとミリアさんも立ち上がる。


「おっ、もうこんな時間か」


「私達もそろそろ、また回ろうかしらね」


 亜子ちゃんのご両親も、そう言って昼ごはんの片付けをし始める。


 私達も自分のご飯が入っていた紙皿を片付け、お開きとなった。


 亜子ちゃんのご両親は、二人で仲良く秋祭りの周回を再開するべくバザー用の教室を後にした。


「誰かに見つかっちゃうと危ないので、学校の外までお送りします」


 私はイアンさん達にそう言った。


 そうして私、風馬くん、イアンさん、キルちゃん、レオくん、ミリアさんの六人で校門まで歩いていく。


 勿論、道中イアンさん達が居ることがバレないように、色々と工夫しての移動になったけど。


「中庭の方に行けば、誰にもバレないんじゃないか?」


 なるほど! それは名案だ!


 というわけで風馬くんの名案を採用し、中庭付近から学校の外に出るルートに変更した。


「________」


 ふと、風馬くんが中庭の方を見つめながら、訝しげに眉を寄せていた。


「どうしたの? 風馬くん」


「いや、何か、中庭荒れてないか?」


「……そう、かな」


 確かに芝生がヨレヨレになってたり、ベンチが真っ直ぐ置かれてない感じはするけど。


「秋祭りで、色んな人が使った後だからかもしれないよ?」


「……使うか? こんな所」


 い、言われてみれば……使わないかも……。


 中庭はいつもなら芝生もベンチも綺麗にされていて、生徒達の中では密かなランチスポットとなっている場所だ。


 でも校舎に囲まれた所にあるし、そこまでの道も入り組んでるから、辿り着くまでが面倒だったりするのだ。


 だから、秋祭りに来た人が進んで使おうと思うような場所ではない気がする。


 そんなことを考えていると、不意にキルちゃんが鋭い叫び声をあげた。


「イアン!」


「ん? どうしたんだい? キル」


 イアンさんはキルちゃんを見下ろし、何があったのかと尋ねる。


 キルちゃんは校舎の方を見つめながら、警戒心が宿ったような表情をしていた。


「私の見間違いかもしれないけど、一瞬ハイト達の姿が見えた気がした」


「なっ……!」


 キルちゃんの言葉に、イアンさんが目を見開き、レオくん達ももちろん私も耳を疑った。


 ハイトと言うのは、キルちゃんと同じ種族であるキラー・ヴァンパイアの吸血鬼。彼が行動を共にしているのは、男吸血鬼のスレイ、女吸血鬼のマーダ。


 三人とも夏合宿の時に会場近くに現れて、スピリアちゃんを狙っていたのだ。


 でも、最終的には吸血鬼抹消組織・VEOの隊長である鈴木(すずき)(まこと)さん達に確保され、能力(ちから)を奪われた状態で吸血鬼界に強制送還された。


 そんな三人が、どうしてここに……?


「一瞬だったから、もしかしたら本当に違うかもしれないけど」


「いや、キルが見間違うなんて滅多にないでしょ。多分奴ら、人間界に降りてきてるんじゃないかな」


 顔を曇らせるキルちゃんに、イアンさんは首を振る。


「でも、一体何の目的で……」


 キルちゃんは、黄色の瞳をキョロキョロと動かしながら必死に考え込む。


「考えられるとしたら____」


 風馬くんが真剣な表情で、何かを言いたげに私を見つめる。


 彼の言わんとしていることが、私にはハッキリと分かっていた。


 おそらく、私と風馬くんの考えは同じだ。そしてそれは____。


「VEOへの復讐かもしれないです」


「何だって!?」


 私の言葉に、イアンさんがまたまた驚く。


「あの三人、夏合宿の場所にスピリアちゃんを襲いに来たから、誠さん達VEOに武器と能力(ちから)を奪われて、吸血鬼界に送り返されたんです」


 イアンさん達は、ハイト、スレイ、マーダの三人が夏合宿の場で乱闘したのは知っているけど、その後のことは知らない。


 私が説明すると、イアンさんは納得したように、


「そうか、自分達の武器と能力(ちから)をマコトくん達から奪うために……」


「そんな……人間界にまで手を出すつもりなの……?」


 キルちゃんが瞳を潤ませ、絶望的な顔つきになる。


 確かに、今までたくさんの吸血鬼の種族を殺してきたキラー・ヴァンパイアが、人間界に降りてきたとなれば、キルちゃんにとっては絶望的な状況だろう。


「大丈夫だよ、そんなことさせない」


 イアンさんがそう言って、腰に挿した剣を抜こうとする。


 でも、それを止めたのはミリアさんだった。


「しかしイアン様、ここで戦闘になってしまうと、人間の皆様を混乱させてしまいます」


「そうだよね……何とかして人間には迷惑かけないで、VEOへの復讐を止めさせたいんだけど……」


 剣を抜こうとする手を止めるイアンさん。


「待って、そんな悠長なこと言ってられないわ!」


 言うが早いか、キルちゃんが学校の中に向かって駆け出していった。


「キル!?」


「キルちゃん!?」


 イアンさんと私は同時に叫び、キルちゃんを追って学校の中へと走った。

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