第153話 お願い
えーっと、亜子ちゃんのご両親には、私が元氷結鬼だって言っても良いんだっけ。
確か、初めてグレースに襲われた後、亜子ちゃんが『家族みんな亜人』って言ってたよね。
なら、お父様とお母様も亜人ってことだ。
確かによく見てみると、お父様もお母様も人間離れした容貌だ。
お父様はがっしりとした強そうな体格だし、お母様は日本のどの美人タレントよりも美しくて可愛らしい。
風馬くんが『人間離れした人達』って言ってた意味がよく分かる。
亜人ということは吸血鬼界、もとい亜人界に住んでたわけだから、昔の私____ルミと何かしらの面識はあった可能性が高い。
『向こうに居たわよね?』という質問には、答えても大丈夫だ!
「はい、向こうに居ました。亜子ちゃんとはそんなに遊んでなかったと思いますけど」
「そうね。グレースちゃんが居たものね」
良かった、話が通じてる!
亜子ちゃんのご両親も、グレースのこと知ってたんだ。まぁ、それはそうか。一応同じ世界に居たんだし。
「そういえば亜子は? てっきり雪ちゃん達と一緒に居るのかと思ってたんだが」
お父様が赤色の短髪を掻きながら、教室の中を見回し、
「さっきは会ったのにね。雪ちゃん達の所に行ってるんじゃなかったのね」
お母様も不思議そうな表情で、頬に手を当てる。
「えっと、亜子ちゃんは、吸血鬼の女の子と昼ごはんを食べに行きました」
私が言うと、
「もしかして、さっき一緒に居た子じゃないか? 水色の髪の」
お父様の言葉に、お母様は心当たりがあったように声をあげ、
「あの子が他人の世話を焼くなんて。ね? 風馬くん」
にこりと笑って、風馬くんに話を振った。
「え、あ、はい。その節はお世話になりました」
風馬くんが照れくさそうに頭を下げた。
そう言えば、風馬くんが前に亜子ちゃんの家でお世話になったって言ってたっけ。私がルーンさんと天界に行った時に。
きっとそのことに違いない。
「そうだ! そんな昔話をしに来たんじゃないのよ。皆、お昼ご飯まだだったでしょう?」
「はい。まだですけど……」
一体どうしたんだろう、と思っていると、お母様がビニール袋を差し出した。
「これ、亜子のところの模擬店で買ってきたのよ。生徒は購入禁止って聞いてたし、せっかくだから食べてみて」
「え、そんな、申し訳ないですよ! いくらかかりました? お金払います!」
私が制カバンを漁って財布を探していると、
「お金なんて要らないよ」
肩に手を置かれて、亜子ちゃんのお父様の声がした。
振り向くと、目の前では推測通り亜子ちゃんのお父様が笑っていた。
「え、でも、タダで頂くなんて出来ません」
「村瀬だけに払わせられないよ。俺も払います」
「良いって良いって」
「で、でも……」
「お金はいいから、代わりにお願い聞いてくれないか?」
「お願い、ですか?」
聞き返した風馬くんに頷いて肯定を示し、お父様は人差し指を立てた。
「一つだけ。これからも亜子と仲良くしてやってほしい」
え、そんなこと!? とは口が裂けても言えない。
でも本当にそれだけで良いのだろうか。
むしろ、私の方が亜子ちゃんに色々してもらってるのに。
今だって、自分からスピリアちゃんのお世話を勝手出てくれている。
本当に申し訳ないくらい、亜子ちゃんは色々とやってくれている。
貰ってばかりの私達なのに、さらにその上から無料で昼ごはんを頂くなんて、あまりにも傲慢だ。
「____本当に、亜子ちゃんと仲良くするだけで良いんですか?」
それと昼ごはん代無料とでは、価値の重さが違いすぎる。
「勿論だ。亜子は不器用で、なかなか素直になれない。でも、君達なら亜子と上手くやってくれそうだから」
「私からもお願いするわ。雪ちゃん、風馬くん、これからも娘をお願いね」
お父様が顎を引き、お母様も私と風馬くんの肩に手を置いて、茶目っ気たっぷりに片目を瞑った。
「こ、こちらこそ! よろしくお願いします!」
「よ、よろしくお願いします……」
私と風馬くんは少々戸惑いながらも、ご両親に頭を下げた。
「じゃあ、せっかく皆集まってるんだし、ここでお昼ごはんにしましょうか」
お母様の提案に、お父様も乗っかる。
「そうだな。……亜子は、何か邪魔しない方が良さそうだし。雪ちゃん、風馬くん、ここで俺達も一緒に食べて良いかな?」
「「は、はい! 勿論です!」」
こうして、お昼ごはんの前に衝撃的な展開を迎えながらも、亜子ちゃんのご両親が買ってきてくださった模擬店のメニューと、イアンさん達からの差し入れ・トマトジュースを、昼ごはんに食べることになった。
「風馬くん、トマトジュース苦手なら私が飲もうか?」
トマトジュースのコップを持ちつつも、嫌そうに顔を引きつらせている風馬くんに声をかけると、
「あ、悪い。お願いできる?」
申し訳なさそうに頼まれたので、快諾しておいた。
でもまずは自分のトマトジュースを。
そう思ってストローを咥えて吸っていると、お母様が私の右隣に腰かけてくれた。
「最近、亜子はどうかしら? 雪ちゃん達と上手くやれてる?」
「はい! むしろ私は色々と迷惑かけてばっかりで、いつも助かってます」
「あら、そうなの。あの子、家では雪ちゃんのことばっかり話してるわよ。『今日は雪がどうだった』とか『今日はこんなことがあって、それで雪が』とか」
な、何ですと!? それは初耳……! 嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい……!
亜子ちゃん、そんなに毎日私の話してくれてるの?
「だから雪ちゃんがどんな子なのか、私と夫も気になってね。一度お会いしたいと思ってたのよ。まさか秋祭りで出会えるなんて」
「わ、私もです! 以前、少しだけご両親のことはお伺いしてたので」
お母様は少し驚いたように口を開けて、優しく微笑んでくれた。
「あら、そうなの。嬉しいわ」
それからもう一度真剣な表情に戻り、さっきと同じ質問をする。
「雪ちゃん、最近あの子どうかしら」
「え? どうって……」
「この間あの子、ものすごい大怪我して帰ってきたのよ。グレースちゃんと色々あったんでしょう?」
「あ、はい。実はそうなんです」
お母様は不安げに俯くと、悲しげに話し始めた。
「亜子、何かあるといつも自分一人で抱え込む癖があるの。だから少し心配でね。雪ちゃんのことは楽しそうに話すのに、自分のことってなると急に黙るのよ」
「そうなんですか……」
もし、亜子ちゃんが無理するようなことがあったら、私がちゃんとストッパーになってあげなきゃ。
私がそんなことを考えていると、お母様は急に我に返ったように、
「あ、ごめんなさいね。雪ちゃんのこと不安にさせちゃって。……食べましょ食べましょ。せっかくのご飯が冷えちゃうわ」
「いえ、大丈夫です。いただきます」
私は両手を合わせて挨拶すると、模擬店のご飯を食べ始めた。
____そんなこんなで、三十分の昼休みが終わるまで、残り二十分となっていた。




