第150話 秋祭り開幕!
秋祭り当日の朝。
朝ご飯を作ってくれたおじいちゃんが、私と向かい合って席に座りながら言った。
「そういえば今日じゃったな。雪の高校の秋祭り」
「うん! おじいちゃん、来れないんだよね」
私は元気に頷いてから、おじいちゃんが仕事で来られないのだということを思い出す。
だから、少し暗い気持ちになってしまった。
「そうじゃなあ。秋祭りは午前九時から午後五時か……」
パンフレットを見ながら、おじいちゃんがポツリと呟く。
おじいちゃん、大学で教師してるからなぁ。
時間に間に合うかどうか微妙なところなんだよね。
まぁ、私はバザー担当だし、おじいちゃんを喜ばせられるようなことにはならないだろうけど。
「別に無理しなくても大丈夫だよ。おじいちゃんも仕事終わりだと疲れるでしょ?」
「いやぁ、でもせっかくの雪の晴れ舞台じゃからのう……」
「おじいちゃん、私、バザー担当だよ」
パンフレット渡す時に説明したんだけどなぁ。老化かな。
頑張って仕事して給料稼いでくれて、私のこと育ててくれてるし、あまり無理はしてほしくない。
「バザーかぁ……」
おじいちゃんが顎に手をやって考え込む。やっぱりバザー担当だったらわざわざ見に行かなくてもって思うよね。
私のために悩んでくれるなんて、やっぱりおじいちゃんは優しいなぁ。
「捨てがたいのう。バザーじゃったらお得な物が色々手に入るんじゃが……」
あ、バザー自体に悩んでたんだ。私ってば自意識過剰。
いつの間にこんな傲慢な人間になっちゃってたの!?
気を付けなきゃ! 勘違いにも程があるじゃん!
「買えなかったら、もったいないのう……」
パンフレットのバザー欄を見つめながら、眉をひそめるおじいちゃん。
でも生徒はバザーの商品買うの禁止されてるから、仮におじいちゃんが秋祭りの時間に間に合わなかったらお得な商品も買えなくなるよね。
「まぁ、何とかして間に合うようにするわい! 雪の頑張っとる姿も見たいしな」
親指を立てて、茶目っ気たっぷりに片目を瞑るおじいちゃん。
ありがたいけど、何か申し訳ない気持ちの方が強いような……。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『本日は秋祭りにご参加くださり、誠にありがとうございます。どうぞごゆっくりお過ごしください』
放送部によるアナウンスが響く中、ついに秋祭りが始まった。
一般のお客様方がぞろぞろと校内へ入ってきてくださっているのが、教室からでもハッキリと見える。
私と風馬くんは、バザーの午前シフト。
他の数人の子達と一緒に、バザー用の教室の前の廊下に立ち、呼び込みをしていた。
「いらっしゃいませー。こちらのバザーでは、お得な価格で品質の高い商品をお買い上げ頂くことが出来ます」
「是非お立ち寄りくださいー!」
そうして私達が呼び込みをしていると、
「いらっしゃいませー。高校二年生による模擬店では、焼きそばなどのメニューだけではなく、ホットケーキやタピオカジュースと言ったサイドメニューもお召し上がり頂けます!」
亜子ちゃんと取り巻きの女子二人が、模擬店の宣伝をしながら歩いてきた。
……メイド服姿で。
「ど、どうしたの? 亜子ちゃん」
私が尋ねると、亜子ちゃんは『うえっ』と顔を歪ませた。
赤みがかった茶髪を、今日は下の方でツインテールに結び、白色と黒色を基調としたフリル付きのメイド服を身に纏っている亜子ちゃん。
胸には細くて赤いリボンがつけられていて、本当に可愛い服装だ。
「どうしたもこうしたも……。勝手に決められたのよ」
不服そうに唇を尖らせると、亜子ちゃんは模擬店の文字が書かれた手作り看板を下ろし、
「男子の趣味で、女子は全員メイド姿になれって。ホント、馬鹿みたいだわ」
「でもすごく似合ってるよ。可愛いと思う」
私の横に居た風馬くんも、そう言って亜子ちゃんを褒める。
「そんなことないわよ」
亜子ちゃん、本当に嫌なんだな。機嫌悪そう……。
でもちょっと顔が赤くなってるから、可愛い。
すると、廊下の向こうからお客様が歩いてきた。
不機嫌な亜子ちゃんを見られると、何となく嫌な感じになっちゃう。
「ほ、ほら、お客様もいらっしゃってるし、笑顔笑顔! ね?」
私が慌てて言うと、亜子ちゃんはハッと廊下の向こうを見て、
「そ、そうね、分かったわ……。じゃ、あとで」
顔をピンク色にしながらも、無理やりに口角を上げて模擬店の呼び込みを再開。
頑張って! 亜子ちゃん!
私は、去っていく亜子ちゃんの背中を見つめながら心の中でエールを送り、再びバザーの呼び込みを続けた____。
その後、バザーには予想以上の数のお客様が来てくださった。
悩みに悩んで買ってくれたお客様も居れば、見るだけ見て買わずに出ていかれてしまったお客様も居て、人それぞれという感じ。
それでも、出だしとしては好調だったと思う。
『午後十二時をもって、お昼休みの時間とします。生徒の皆さんは、持ち場の交代や昼食を済ませて、昼休み中もお客様の対応が出来るようにしておいてください』
放送部によるアナウンスが鳴り、午前の部が終わった。
「よし、お疲れ、村瀬」
私がふぅと息をついていると、風馬くんが声をかけてくれた。
「お疲れ様」
私も顎を引き、返事をする。
「じゃあ行くか」
「うん!」
こうして私と風馬くんは、バザー用の教室を出て亜子ちゃんが頑張っているであろう模擬店へと向かおうとした。
その時だった。背後から私達を呼ぶ声がした。
「ユキ、フウマ」
ずいぶんとご機嫌そうな明るい声に呼ばれて、私と風馬くんが振り向くと、
「い、イアンさん!? 皆⁉︎」
私は思わず声をあげてしまう。
何とそこには、ニコニコ顔のイアンさんと、微笑を浮かべたキルちゃん、レオくん、ミリアさんの姿があったのだ。




