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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第五章 氷結鬼編
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第140話 能力の低い役立たず

「えっ、ミリアのことを教えてほしい、ですか?」


 目を丸くして驚くテインさんに、私は真剣な表情で頷いた。


 場所は王宮のダイニングキッチン。


 昼ごはんの支度をし始めてくれたテインさんを手伝いながら、私はずっと気になっていたことを切り出したのだ。


「ミリアさんの様子が急に変になってしまって。あまり他の人に心配されるのがお好きじゃなかったりするのかなって思うんですけど」


 スピリアちゃんが勇気を振り絞ってグレースに謝る前のこと。


 私はどうしてもグレースが心配で、風馬(ふうま)くんやスピリアちゃん、そしてテインさんよりも先に医務室に向かった。


 そこではミリアさんがグレースに回復魔法をかけてくれていた。


 立て続けの魔法の詠唱で疲労も溜まっていたはずのミリアさんを、私と後藤(ごとう)さんが心配して声をかけた。


 でもミリアさんは『大丈夫だ』と言った後に、嘆息して自分自身を嘆くような発言をしていたのだ。


 『自分はそんなに信用が無いだろうか』と。


 その言葉を聞いた直後は、ミリアさんが何を言い出したのかよく理解できずにいた。


 だからテインさんに聞いてみることにしたのだ。


 テインさんはミリアさんの先輩だ。


 ミリアさんがまだ王宮勤めだった時に世話になったのがテインさんだったと、ミリアさんの口から直接聞いたことがある。


 彼女に聞けば、何かが分かるかもしれない。


 私達が余計なことを言っちゃったのかもしれないですけど、と付け足すと、テインさんは柔らかな笑みを浮かべた。


「そんなことはないと思いますよ。ただミリアは、ユキ様方にご心配をおかけしてしまったことを申し訳なく思っているのではないでしょうか」


「申し訳ない、ですか?」


「ええ。ミリアは昔から、自分が他人の迷惑になることを恐れていましたから」


 じゃあ私や後藤さんが色々と心配しちゃったことが、返ってミリアさんの重荷になった、ってことなのかな。


 私達に心配させて自分が迷惑をかけてしまった。


 そう勘違いしているのかもしれない。


 それなら大きな勘違いだ。


 私も後藤さんもミリアさんのことを心配したのは本当に彼女の魔力や体力が心配だったからだ。


 だからミリアさんが迷惑をかけてしまったと嘆く必要なんて欠片もない。


 それでも迷惑をかけてしまったと思ってしまったんだったら、それはそう取られてもおかしくないような行動を取った私達のせいだ。


「ど、どうしてミリアさんは自分が誰かの迷惑になるって思い始めたんですか?」


 よほどのことがない限り、自分における全てを迷惑だなんて思わないはずだ。


 私みたいに学年全員から苛められていたならまだしも、ミリアさんはイアンさんやキルちゃん、レオくんにも信頼されている。


 おそらくだけど、ブリス陛下やテインさんからも期待の目を向けられているに違いない。


 そうでなければ、王宮を出てミリアさん個人でイアンさん達と共に行動することなど許されないはずだからだ。


「昔、ミリアは回復魔法が苦手だったのです」


「苦手? ナース・ヴァンパイアなのにですか?」


「本当にお恥ずかしいことなのですが、ミリアは治癒よりも攻撃に長けておりました。ですので、ナース・ヴァンパイアとしての伸び代はなかなかだったのです」


 それで自信を無くしちゃったってことかな。


 ナース・ヴァンパイアは治癒や回復魔法を施す吸血鬼の種族だ。


 その一族に生まれてきたのに、治癒魔法や回復魔法が使えなければ、用無しと見なされてしまう。


 もしかしてそのせいで王宮を追い出された……?


 あんなに優秀で思いやりもあって優しいひとなのに。


 暗い顔をしている私に気付いて、テインさんが頬を緩めた。


「ご安心ください。勿論成長するにつれて治癒魔法や回復魔法の腕は上がっていきましたよ。彼女だって腐ってもナース・ヴァンパイア。その素質はミリアにもちゃんとありましたから」


「良かった。魔法が使えなくて王宮を追い出された、とかじゃなかったんですね」


 私ってばすごく失礼な想像をしちゃった。


「はい、でも王宮勤めのナース・ヴァンパイアの中では能力が一番下で。『ミリアンジュ』____能力の低い役立たずの天使だと嗤われていました」


「そんな……」


 おそらく吸血鬼の敵である天使だといじって、ミリアさんを馬鹿にしたんだろう。


 信じられない。


 いくら他の吸血鬼みたいな実力が無いからって、敵の天使呼びで嘲笑うなんて。


「そのせいで王宮の中では肩身が狭くなったみたいで、すっかり消極的な性格になってしまったんです」


 だから自分は他人にとって迷惑な存在だって思うようになっちゃったんだ。


 そんなことあるわけないのに……。


「じゃあ、ミリアさんが鬼衛隊に入ったのって」


 テインさんは顎を引くと、


「本人は自分の魔法の腕を上げて、イアン様にお仕えしたいと志望していました。しかし、わたくしは別の理由もあったのではないかと思っているのでございます」


「それって……」


 テインさんは私の推測を見抜いたように言葉を紡いだ。


「いつまでも王宮に居ては、皆の笑い者にされてますますその場に居づらくなってしまうかもしれないという不安もあったのではないか、と」


 てっきりミリアさんが鬼衛隊として活動したきっかけは、優秀な魔法の腕前を評価されたことによる引き抜きのようなものだと、私は思っていた。


 でもテインさんの話を聞いていると、そんな薔薇色の人生ではなかったのだということが分かった。


 そんなことがあったなんて全く知らないで、自分の心配だけを押し付ける結果になってしまった。


 ミリアさん自身も今は気持ちを落ち着けたいだろうし、ミリアさんに謝るのはもう少し先の方が良いかもしれない。


「ユキ様が気に病む必要はございませんよ。ミリアが自分で選んで歩んできた道ですから。今回のこともおそらくミリアの自分を卑下する癖が治っていないのが原因だと思いますし」


 そう言って、テインさんがなだめてくれた。


「……ありがとうございます」


 テインさんは目を細めて口角を上げると、両手をパチンと合わせた。


「さて、お昼御飯の準備も整いましたし、皆様もお呼びして昼食に致しましょう」

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