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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第五章 氷結鬼編
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第128話 一緒に皆を助けよう

 グレースと一緒に転移してきた私は、久しぶりの吸血鬼界に思わず歓声をあげた。


「うわぁ、()()()()()()


 小さい頃にも何度か吸血鬼界の王都には遊びに行ったことがあったので、記憶の片隅に朧気な景色が残っている程度。


 でも、私達が小さいときよりも王都の様子は様変わりしていた。当時は無かったであろうお店とかも沢山あって、何より吸血鬼の数が明らかに増えていた。


「すごいね、王都ってこんなに混んでたっけ?」


 私が尋ねると、グレースはプッと吹き出した。


「ルミってば。わたし達が王都に来たのってまだ歩けるか歩けないかそれくらいの時期だよ? あれから何十年も経ってるんだから、吸血鬼の数も増えてて当然じゃん」


「た、確かにそうだね……」


 変なこと言っちゃった、恥ずかしい……。


「まぁ、でも、ルミがそう思うのも仕方ないか」


 澄んだ青空を仰いで、グレースがそう溢した。


「何で?」


「だってルミ、今まで人間だったんだよ? ここの事知らないのは当たり前でしょ?」


「あ、そっか」


 グレースに言われて納得した。そう言えば私、今まで人間だったんだっけ。全然記憶ないけど。


 色々と思い出話をしながら王都を突き進んでいた時だった。


「ルミ、どうしたの?」



「____え?」


 グレースに聞かれて初めて気付いた。


 いつの間にか私の体は見ず知らずのログハウスの方に向いていたのだ。


 勿論自分で入ろうと思ったわけでもなく、ただ()()()()()()()()()()だけなんだけど。


「あれ? 何してたんだろ、私」


 私が呟くと、先を歩いていたグレースが私の方に戻ってきて、


「ここ、絶対ヒトん家だよ」


 と、ログハウスを指差した。


「そうだよね。……おかしいなぁ」


 私は大きなログハウスを見上げながら、首を捻った。


 何で入ろうとしてたんだろう。この家には何にも特別な思い入れとかはないのに。


「ホント変なの、ルミってば」


「そうだよね」


 グレースがそう言って吹き出したので、それにつられて私も笑ってしまった。


 そして一通り笑い終えると、グレースが手を差し出してきた。


「行こ」


「うん」


 私は差し出されたグレースの手を握る。


 そうして二人で村へと歩みを進めたのだった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※


「な、なに、これ……?」


 村に着いた瞬間、私は失望のあまり膝から崩れ落ちた。


 かつて村があった____はずの場所。


 そこには一匹として氷結鬼の姿がなかったのだ。


「ねぇ、グレース。どういうこと!? 何で皆が居なくなってるの!?」


 私の後ろで立っていたグレースは、悲しげに顔を背けた。


「ルミがわたしを庇って人間界に降ろされた後に、二度とこんなことが起こらないようにって国王陛下が皆を封印したの」


「ふう……いん……?」


 グレースの言葉が理解できなかった。


 何で? 何で、直接関係の無かった皆まで巻き込まれなくちゃいけないの?


 悪いのは私達だけなのに……!


 そう思うと悔しくて涙が溢れてきた。


 私の涙が冷えきった地面に落ち、丸いシミを作る。


「皆はどこ? ()()()も封印されたんだよね。どこに封印されてるの?」


 私は地面に膝をついたまま、グレースの手首を掴んだ。


 グレースは悔しげに唇を噛むと、赤い瞳を揺らして涙を流した。


「ごめん……わたしも分からないんだ。ずっと探してたんだけど、全然見当たらなくて」


「そんな……!」


 グレースが分からないなら探しようがないじゃん。


 このまま一生皆と会えないなんて嫌だよ……。


「ねぇ、グレース」


「なに? ルミ」


 目にたくさん涙を浮かべながら、グレースは私を見つめる。


「皆を封印したのって国王陛下なんだよね」


「う、うん」


 グレースが顎を引くのを見て、私は立ち上がった。


「私、王都に行く」


「えっ!? まさか皆の封印を解いてもらうつもり?」


 何故か目を見開いて驚くグレース。


「そうだよ。当たり前じゃん」


「駄目!」


 グレースは叫び、私の両肩を掴んだ。


「何で? そうでもしないと皆、一生元に戻らないかもしれないんだよ?」


「それは分かってる。わたしだって何回も陛下にお願いしたの。でも門前払いだった。いくら行っても意味がなかったんだよ」


 私の両肩を掴んだまま、グレースは俯いて閉じた目から涙を流した。


「じゃ、じゃあ二人で行こう。二人で一緒に陛下を説得するの」


 グレースの顔を下から覗き込み、私はそう提案する。


 すると、グレースは自信無さげに鼻をすすった。


「で、出来るかな……。国王陛下、あれだけ頑なに駄目だって仰ってたのに」


「大丈夫だよ。グレース、一緒に皆を助けよう」


 今度は私がグレースに手を差し出す。


「う、うん!」


 グレースは少し躊躇していたようだったけど、決意の込もった眼差しで頷き、私の手を握ってくれた。


 グレースと一緒に王宮へ向かいながら、私も覚悟を決めた。


 この世界に住んでいる者がその頂点である王宮に奇襲を仕掛けるのだから、間違いなくこの国から追い出されるはずだ。


 それでも、私はやらなきゃいけない。


 皆を、()()()を元に戻してもらうんだ。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※


 ____と、思っていたのに。


「何よ、あんた達!」


 私達の正面に居るヒト達に向かって、グレースが警戒心をむき出しにする。


 私達二人は、王都を抜けてまもなく王宮の敷地内に足を踏み入れる、という状況だった。


 それを妨害してきた相手は____。


「鬼衛隊はこの世界を守る者。王宮に楯突こうとしている奴らは、たとえ誰であっても許さない」


 険しい表情で私達を見つめ王宮を守るように立っていたのは、黒髪の吸血鬼、桃髪の小柄な吸血鬼、橙髪の少し背の高い吸血鬼・レオ。


 そして____。


「アコ……!」


 グレースが、赤茶髪のツインテール少女を睨み付けるようにして目を細める。


 私達の前に立ち塞がっていたもう一人は、『アコ』という亜人だった。

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