第13話 誘拐……?
「へぇ、なかなかいい奴連れてきたじゃねぇか」
さっきの人とは違う声が、私の頭上から響いてきた。
どうやら気絶している間に、どこか別の場所に連れて行かれてしまったらしい。
目の前は真っ暗で何も見えないけど、目のあたりに布のようなものが当たっている感覚はあるから、多分目隠しをされてるんだと思う。
それに背中とお尻の感覚からして、椅子か何かに座らされていて、おそらく手足も縛られてる。
……これ、誘拐じゃん‼︎
幸い鼻と口は自由だから、喋れるし匂いも嗅げる。でも鼻をヒクヒクさせたところで、場所のヒントになるような手がかりは掴めない。
男たちが吸っているであろうタバコの匂いが充満して、鼻がもげそうになってしまっただけだ。
「あ、あの……」
「おい、喋るな! ぶっ殺すぞ!」
急に大声が響いて、思わずビクンと飛び上がりそうになる。ここがどこなのか知りたいのに、そんなことを聞く余裕すらも与えてくれないみたいだった。
とりあえずまだ死にたくないし今は黙っておこう……。死ぬなら元に戻ってからがいいもん。
でも何も言わなかったら、それはそれで危ない気がする。急に刺されたりでもしたら即死だ。それだけは絶対に避けたい。
でもまた喋ったらぶっ殺すって言われるよね。どうしよう……。
そもそも何で私を狙ったの? あんな路地裏にいたから?
私も路地裏に行こうと思って行ったわけじゃないのに。ただ闇雲に走ってたどり着いた先が路地裏だっただけで……。
と、とにかく今は五感を研ぎ澄ませて、ここがどこなのかとか色々ヒントを得なきゃ!
あれ? でも目は見えないから四感か。
う〜ん、何もわかんない。せめて車の音が聞ければとも思ったけど、ここ吸血鬼界だったよ。車あるのかな?
市場に行った時はみんな歩いてたよね。でも探したら馬車くらいあるかも?あ、だったら馬のヒヅメの音を聞けば____!
聞こえない! 無音! 何もない!
どうしよう! 何かしら音は聞こえるって過信してた! ど、どうしよう!
あ、でも何も音がしないってことは、今私がいるのは屋内ってことでいいのかな。
そうだよね、だって椅子に縛られてる時点で外じゃないだろうし。
待って、外で椅子に縛られて座ってたら、どうしようもないくらい恥ずかしいじゃん。黒歴史になるよ。まぁ、家っぽいし大丈夫だとは思うけど。
ほ、他に何か……。
「こいつ、高く売れそうだな」
「ああ。懐が喜ぶぜ」
脳内で焦りまくっている私をよそに吸血鬼たちはそんな会話をしていた。
え⁉︎ 私売られるの⁉︎
嫌だよ! まだよくも知らない所で奴隷みたいに働かなくちゃいけないの⁉︎
「にしても、人間ってのは初めてだな」
「気をつけろ。VEOの一味かもしれないぞ」
「いや、大丈夫だ。見た感じ何も持ってねぇ。ただのヒョロヒョロだ」
し、失礼な! ヒョロヒョロで悪かったね!
ていうか、この人たちもVEOのこと知ってるんだ。まぁ、吸血鬼は全員VEOのこと知ってるよね。自分たちの敵なんだもん。
私がVEOの一味じゃないってわかったってことは、ひとまず殺されるのを回避できたってことだ。
だってVEOの一味だって思われたら一発で殺されちゃうよ……。
と、とにかく、今は逃げられなくても隙を見計らって、逃げるようにするために必要なのは情報収集!
余計なことは考えない! それに怖くなっちゃうし。
さっきの会話からわかったのは、私を誘拐した吸血鬼の数は三人で全員男性。若い声の人が二人とおじさんみたいな人が一人っぽい。そのおじさんがボスだったりするのかな?
目隠しされてるから姿とかはわからないけど、声を聞く限りではそんなところ。
声も結構近くから聞こえるし、割と私の周りにへばりついてる感じか。そんなに簡単に逃げ切れないな。
今、何時なんだろ。絶対イアンさんたち心配してるよね。どうしよう、また迷惑かけちゃった。
「こいつ、儲かるのか?」
また吸血鬼たちの会話が始まった。私は聞き耳を立ててその会話を聞いた。
さっきの声は若い吸血鬼みたいだった。
「さあな。でも人間だしそこらの吸血鬼よりは儲かるだろ」
きっとこれがおじさん吸血鬼。
「ってことは、今までで一番高い収入が得られるってことか?」
あ、別の声だ。多分もう1人の若い吸血鬼かな。
「多分な」
これがおじさん吸血鬼。
「よし! じゃあ早速連れて行こうぜ!」
最初に私が儲かるだの聞いていた方の若い吸血鬼の声。
ん? 連れて行くってどこに? 私のことだよね!
本当に売られちゃうの⁉︎
何されるかわからないし! 怖いよ! 絶対嫌だ!
「ほら、さっさと立て!」
もう一人の若い吸血鬼の声がしたかと思うと、今まで私の手足を縛っていたであろうロープがほどけた。瞬時に両腕が持ち上がり、私の身体はいとも簡単に持ち上げられる。
え⁉︎ 嫌だ嫌だ! 連れて行かないで!
「誰か、た……」
「おい! 喋るなって言っただろ! ぶっ殺されてぇのか!」
「っ!」
助けを求めて叫ぼうとした私の口を、おじさん吸血鬼が強く押さえた。
何とかその手を振り払おうと首を動かしてみたけど、おじさん吸血鬼の手の力が強すぎて首を動かすのもやっと。
おまけに、両腕は若い二人に持ち上げられてるから手は使えない。
せっかくロープがほどけた両足も地面をズリズリ引きずっていてすごく痛い。
幸い靴は脱がされてないから痛いのはすねあたりだけど、それでもすごく痛い。むしろすねの方が足よりも痛いんじゃないかな。
それにしても次の場所まで永遠にこれが続くのかな。足怪我しちゃうよ!
地面も地面で硬いコンクリートみたいだから多分もう傷はついてるはず。
売るにしても扱いひど過ぎない?
だって売り物をズリズリ引っ張っていってるんだよ?
こんな呑気に喋ってるけど本当はすごく怖いし焦ってる。でも殺されそうになるから助けも呼べない。
どうしよう。このまま売られて強制労働されてイアンさんたちとも二度と会えないのかな。
それからおじいちゃんにも。こんなに暗くなったしきっとおじいちゃんも心配してるよね。ごめんね。
私が心の中で謝罪をしていた時だった。
「ユキ!」
後ろから声がして吸血鬼たちも『誰だ!』と叫ぶ。それと同時に引きずられていた私もストップ。
目隠しで見えないけどせめて声のする方に、と思って私は首を後ろにやる。
「貴様、鬼衛隊か!」
おじさん吸血鬼が叫んだ。
「髪がオレンジってことは炎の使い手か!」
今度叫んだのは若いうち吸血鬼のうちの一人。
髪がオレンジ……? もしかしてレオくん⁉︎
「レオくん!」
私は思わず叫んでしまった。
「おい! こら! 喋んなって言っただろうが!」
「ユキ!」
ガツンと鈍い衝撃とともに、後からやってくるものすごい痛み。
頭がジンジンと痛い。
そして身体の左半分が冷たくて、硬い感触のものに当たっている。
ああ、そっか。叫んじゃったから頭殴られて地面に横たわってるんだ、私。
ジンジンと頭が痛んで、少しばかり意識が遠のく感覚がした。




