第104話 雪と風馬は名探偵?
それから私の頭の中は、突然届いた吸血鬼からの手紙のことでいっぱいだった。
来る日も来る日も手紙の謎について考えているのだけど、全然進展無しなのだ。
藁にもすがる思いでイアンさん達にも相談してみることにした。
念の為確認したけど、差出人はイアンさん達鬼衛隊ではないらしい。
そして同時に私の事を探していたという吸血鬼に心当たりが無いかどうか尋ねてみた。
でも返ってきた答えは『分からない』だった。
吸血鬼界で私が関わった吸血鬼の数はたかが知れている。
知り合いや顔見知りなら、すぐに目星はつくはずだった。
やっぱり風馬くんの言う通り、誰かの悪戯なのだろうか。
でもそれにしてはやり方が巧妙すぎる。
私本人に嫌がらせしてくるわけでもなく、手紙という手段を使って吸血鬼を名乗って、まるで私達がずっと前からの知り合いだったような事をほのめかす文章まで書いているのだから。
それに、手紙が届いた日の朝に見た夢と手紙の文章が全く同じだった。
夢の中で耳元で囁かれた『見つけた』という言葉。
あのヒトは私の事をずっと探してくれていたのかもしれないけど、私には皆目見当がつかない。
風馬くんも手紙について考えてくれているようで、学校で会う度に『こういう可能性は……』など新しい案を話してくれる。
それが本当に有り難く、同時に申し訳ない。
あの手紙が本当に私宛てなのかは置いておくとしても、風馬くんに直接的な関係は無い。
それなのに最もらしい答えが出るまでずっと考えてくれているのだ。
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「ごめんね、風馬くん。また変なことに巻き込んじゃって」
手紙が届いて三日目の朝。
学校に着いた私は、隣の席で考えてくれている風馬くんに謝った。
すると、風馬くんは不思議そうな顔で私を見て、
「何で村瀬が謝るんだよ。何なのか分からなかったら気になるじゃないか」
さも当たり前だと言わんばかりに、優しい言葉をかけてくれた。
「で、でも、風馬くんに直接関係あることじゃないのに、また巻き込んじゃってるから……」
「気にするなって。俺が勝手に考えてるだけなんだから。俺の方こそ関係ないのに首突っ込んでごめんな」
風馬くんはそう言って笑った。
まただ。また風馬くんに謝らせてしまった。
風馬くんは何も悪くないし、むしろ私のためを思って色々してくれているのに。
いつもこうだ。私が謝ることで風馬くんにも謝らせてしまう。
「風馬くんは全然悪くないんだから謝らないで。本当にいつもありがとう」
そう言うと風馬くんは安心したように笑った。
この純粋で透き通るような笑顔を見る度にいつも思うんだ。
風馬くんと友達になれて本当に良かった、と。
そのせいで沢山迷惑をかけてしまっているのは事実だけど。
昼休みも食堂で私達の推理は続いた。
「村瀬が言ってた氷みたいな塊、あれは何かのメッセージじゃないかって思うんだ」
水筒のお茶を飲みながら、風馬くんは言った。
「メッセージ?」
「うん。じゃないとあんな変なものが付くわけないだろ? 便箋の模様でもないとなったら、手紙の差出人が意図的に付けたとしか考えられない。多分宛先の人間へのメッセージだ」
風馬くんの意見には私も賛成だった。
ご飯粒でもない、少し冷たかったあの白い塊。
『吸血鬼』を名乗る差出人が意図的に付けたものだとしたら、あれは何を意味しているのか。
「差出人に関係あるものだと思う」
「関係あるもの、か」
私は顎に手を当てて、手紙に付いた白い塊を見つめた。
「ああ。いくらメッセージを残すとしても、この差出人は自分が吸血鬼だということしか明言していない。つまり、吸血鬼の詳しい部分はこの白い塊で察してほしいんじゃないかな」
風馬くんと違って、私は差出人が『吸血鬼』であることに今の今まで引っかからなかった。
でも私の事をずっと探していて、今やっと見つけることが出来たなら差出人も自分の名前を惜しむことなく記すはずだ。
にもかかわらず『吸血鬼』としか名乗っていないということは、間違いなくこの白い塊が差出人の正体の鍵になる。
「氷に関する人物ってことだよね……」
そんな人間ってこの世に居るのかな。居ないよね。
少なくとも人間じゃないことはこれで確定した。
『人間+氷』で導き出される答えは『雪男』くらい。
雪男と接した経験なんて勿論ゼロだし、何より理由がファンタジー過ぎる。
最も、吸血鬼界とか天界というファンタジーな世界にお邪魔している私が言えたことじゃないんだけど。
ファンタジーな理由は除いても、残念ながら私は南極に住んでいる南極家のような人達との付き合いも一切無い。
以上のことから考えて、この手紙の差出人は人間ではない。
「氷に関する人間となんて接点無いし、やっぱり本当に吸血鬼からなのかな」
「少なくとも人間じゃないな」
どうやら風馬くんも同じ結論に至ったようだ。
「あ、もうすぐ昼休み終わるな」
風馬くんが腕時計を見て言った。
食堂の壁にある時計を確認すると、午後の授業の時間が近付いていた。
「そうだね。続きはまた明日だね。ありがとう、風馬くん。一緒に考えてくれて」
「ううん。早く誰なのかスッキリしたいよな」
「うん。そうだね」
まるで探偵になったような気分に、私達は思わず吹き出して笑ってしまった。
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そして放課後。
いつものように風馬くんに挨拶をしてから吸血鬼界に行こうと思っていた矢先の出来事だった。
「ねぇねぇ、雪ちゃん」
突然私の席にクラスメイトの女の子がやって来た。
「は、はい……」
また手紙のことで文句を言われるのかと身構えた。
何故なら、彼女は後藤さんのお付きの者の一人だったからだ。
いつも後藤さんの言葉に便乗して私を罵ってきたこの人。
私に一体何の用があるというのだろうか。
正直、嫌な予感しかしなかった。




