第11話 全部全部、甘えてた
「そ、そうなの……?」
『来ない方がいいかもしれない』と、レオくんにそう言われてしまった。
せっかく来たばかりだったのに。これから楽しく生活していけるかもって思ってたのに。
「……ユキの気持ちもわかるけど、ユキを戦いに巻き込むわけにはいかない。人間をこっちの世界で死なせたとなれば、大問題になるんだ」
確かにそうかもしれない。
今までこの吸血鬼界に人間が来たことはないから、私が初めて吸血鬼界に来た人間ということになる。
それだけでも前代未聞なのに、そこで人間が命を落としたりしたらどうなるか。
人間界と吸血鬼界の繋がりは絶たれ、VEOによって真の吸血鬼抹殺が行われるかもしれない。
そんなの、嫌だ!
でも、ここにいたい……!
帰りたくない。現実逃避だってわかってるけど、でも今は逃げたい。
学校に居たら……あんなところにに居たら、孤独と恐怖と不安で自分の心が潰れそうになって、自虐ばっかりして他人を妬むことしかできなくて、私はどんどん最低な人間になっちゃう。
でも__!
私がうまく人間関係を築けないだけなのに、この世界まで巻き込むのは絶対に嫌……!
「っ!」
私は走って家を出た。
「ユキ!」
レオくんの叫び声がしたけど、振り返らなかった。振り返りたくなかった。
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ただ必死に走った。闇雲に。目的地もないけど、とにかく走った。
受け入れたくなかった。これから先、吸血鬼界に居られなくなってしまうかもしれないという可能性を。
そんなのは甘えだってわかってる。
あれもこれも、全部私の甘えが招いてきたことだ。
入学式当日、高校受験のために塾に通っていたにもかかわらず、誰一人として友達はいなかった。
そしてそのまま高校に通うようになった。
周りの子たちは塾が一緒だったり中学からの知り合いだったりで、既に輪を作っていて楽しそうに喋っていた。
でも私だけ、ろくに話しかける勇気も持てずに、黙って縮こまって座っていた。
今思えば、あそこでほんの少しでも勇気を出してあの輪に入っていれば、少しは変わってたのかもしれない。
でもそれが出来なかったのは、私の心に甘えがあったから。
勇気が出ない事を言い訳にして、皆と私は違うんだって思い込んで自分の心に閉じ込もって、全部他人のせいにして甘えてた。
いつもそうだった。
自分から勇気を出して動いたことなんてなかった。
周りに合わせて周りと同じように行動して、それで良いんだって思ってた。
全部全部全部____。
たったニヶ月の高校生活は、全て甘えながら過ごしてきてた。
なのに吸血鬼界に____亜人界に逃げるだなんて……。
学校じゃ楽しくないから、皆と上手に関われないからって、全部他人のせいにして、自分だけが安全になるようにして。
安心したかったから、ここに来たのかもしれない。
自分から楽しもうとせずに、全部楽しくなんてないと思い込んで。
自分から頑張ろうともせずに、どうせ上手く出来ないんだと思い込んで。
馬鹿みたいだ、私。
ううん、本当の馬鹿だ。何で今まで気付かなかったんだろう。
自分が、どれだけ甘えた人生を送ってたかってことに。
亜人界に来てイアンさんたちと出会ったら、少しは自分が変われるんじゃないかって期待してた。
でもそんなことなかった。私は結局、自分からは何もしなかった。
天界から天兵軍が攻めてきた時も、私は戦えないし、何も出来ないからってキルちゃんに任せて甘えてた。
きっと私のことはイアンさんが守ってくれるって勝手に信じてた。
自分からは何も動かなかったのに、他人に甘えるなんて最低だ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
息が切れて立ち止まった。膝に手をついて荒い息遣いを何とか抑えようとする。
どこまで来たんだろう。
辺りを見渡すと、そこは薄暗い路地裏だった。細い道がまるでゴールまで導いてくれるみたいにまっすぐ続いていた。
もうそんな時間が経ったのかと思って空を仰ぐと、オレンジ色の夕焼けが眩しく空を染めていた。まだ日は暮れてない。
私は深く息を吐いて改めて周りを見た。
石畳みの地面、土でできた茶色い壁____路地裏が、目の前に広がっていた。
目線の先には三段ほどの小さな階段もある。
「ヤバイ、早く帰らなきゃ!」
感情に任せてひたすら走ってきたけど、よく考えてみたらきっとイアンさん達に迷惑かけちゃってる。
どこに行ったかも分からない私を、皆で必死に探してくれてるかもしれない。
家を飛び出した時はまだ青空が広がってて昼みたいだったけど、もう今では夕焼けの空が広がっている。
時計を持ってないから時間は分からないけど、空の色の変化を見る限りでは結構時間は経っているはずだ。
私は後ろを振り返って、来た道を戻ろうと足を進めた。
その瞬間だった。
「うぐっ!」
急に背後から口を塞がれた。思ったより力が強くて、抵抗してもなかなか手が離れてくれない。
それでも何とか外そうと、必死に相手の手を掴む。
茶色い手袋をはめているその手は、明らかに私より大きかった。
多分大人の手の大きさだ。
そんなこと考えてる場合じゃない! このままだと……。
嫌な予感が頭をよぎって、急いで払いのけようと懸命に頭を振る。
足もバタバタさせてるけど、余計に身体を浮かせるだけで何の効力も示さない。
早く、イアンさん達のところに帰らなきゃいけないのに……!
「そんなに騒ぐなよぉ、人間。すぐ楽にしてやるからさぁ」
焦る私の頭上で、低い男の人の声がした。




