0の0 聖魔の勇者の最後
= =の中にあるのは効果音です。
「はぁッ……はぁッ……はぁッ…………」
魔神城、謁見の間。
とても豪華だったと思われるその部屋の内装は、既にボロボロで見る影もない。
そんな部屋にいるのは肩で荒い息をする五人の男女と、床に倒れている男………魔神のみだった。
一番体力等を消耗しているのか、未だ荒い息をしている少女…聖魔の勇者 アルシアが言った。
「……やったな、皆。これで、平和に…=ザシュッ=
…………………え?」
ゴポリ、とアルシアの口から血が溢れる。
アルシアは呆然と、自分の腹を刺した相手……鉄壁の重戦士 ネリウスを見た。
「ネ、ル……どうし、て………」
「どうしてだぁ?そんなの決まってんだろ。
金を貰う為だよ」
冒険者でもあるネリウスは、とある高貴な貴族に魔神討伐後のアルシアの殺害を依頼され、その依頼を受けていたのだ。
そして、腹を刺されたままのアルシアに炎属性の攻撃魔法が飛んでくる。
「ぐぅ…!?」
炎は、アルシアの顔の左半分に大きな火傷を負わせると消滅していった。
その炎を放ったのは宮廷魔法使いのライヒアルトだ。
「ライ、ヒ……」
「その無駄に綺麗な顔で話し掛けないでくれませんか?………ああ失礼、今は僕より醜い顔でしたね」
自己愛の激しいライヒアルトは自分より美形なアルシアを嫌っており、ネリウスの依頼に協力したのだ。
「〈ヒール〉」
「シャ、ル……?」
勇者パーティーで唯一、回復魔法が使える回復術士のシャーロットがアルシアに回復魔法を掛け、腹の刺し傷のみが塞がっていく。
その行為にシャーロットは自分の味方なのかと希望を抱くアルシアだったが、シャーロットの一言でその希望は打ち砕かれた。
「はい、回復できました。ヴァル、いいですよ」
「おー!ありがとう、姉様!!」
「いいえー」
シャーロットと喋っているのは主に斥候をしていた軽戦士で、シャーロットの弟のヴァランタンだ。
そして、ヴァランタンはアルシアに向かって二本の短剣を構えた。
回復魔法で少し回復し、ヨロヨロと立ち上がっていたアルシアもそれに気付き、避けようとしたが魔神との激戦の後に致命傷を負ったので体力が無く、避けられずに全ての攻撃に当たってしまった。
「アハハハハ!良い様だなぁ勇者様!!」
「ええ、本当ですね。とても醜いです」
「ライヒアルトの言う通りだな、そうだろ?姉様」
「そうですね。本当に醜くて、良い様です」
そう、ネリウスに依頼をしていたのは他ならぬシャーロットだったのです。
シャーロットは自分より才能があり、美しいアルシアをとてもとても嫌っていたので、魔神討伐だけをさせる兵器として利用しようと思ったのです。
なので魔神討伐が終わった今、アルシアは用済みなのです。
「「「「それじゃあさよなら、勇者様」」」」
アルシアは最後に全員から一斉に攻撃されます。
ですが、生きていました。実はアルシアは、勇者しか入れない洞窟の奥深くで竜や龍を束ねる王、黒龍王の後を継ぐ資格を貰って、スキル【起死回生】を取得していたのです。【起死回生】は致命傷を受ける時のみ発動する事ができ、その効果は致命傷を負った後瀕死の状態で生き残り魔力のみ全回復するという物です。
そしてアルシアは思いました。このまま【起死回生】で回復した魔力で四人を殺すのは簡単だ。だけど、それじゃあ意味が無い、と。
だからアルシアはこのまま四人に反撃せず、殺される代わりに……
地味に嫌な呪いをかけて死ぬことにしました。
元々アルシアは負けず嫌いな性格で、大人しく殺されてやるつもりなどありませんでした。 ですが一瞬で殺すよりも、地味に嫌な呪いを一生かけられる方が嫌だろうと思った通りのです。
なのでアルシアは自分の全魔力を振り絞って、誰にも解けないように稀少な聖と影の属性を魔法式に編み込んで、無駄に高度な技術を使った呪いを完成させました。
「な!なんですか、これ!?」
宮廷魔法使いのライヒアルトだけは気付いたみたいだが、もう遅い。呪いはかけられた。
後はこの一言を言って、
「ざまぁ、み…ろ」
サヨナラだ。
アルシアは四人に"絶対靴に尖った小石が入る"、"大事な場面で最低二回は噛む"という呪いをかけた。
そしてアルシアは、皆にアルシアと呼ばれていた少女、鮎縞 啓は、ここで、死んだ。
伝説の勇者の最後は、仲間によってもたらされた。