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(彼女に)会うとラスト  作者: 金糸公
3/3

〜はい、アウト〜

菜月から自立し、一人で誰も文句のつけられない強い男になることを決意した真名兎、



そんなマナトを待ち受けていたものは、


「エッホ、エッホ……マナト〜遅〜い」


「くそっ、体力お化けめ……」


”ナツキによる”ナツキのための、地獄のトレーニングだった。


一人で、とかいいながら、結局ナツキの力を借りているのである。


それは、マナトが強い男になるため、まずは体力を作ろうと、朝のランニングを始めた頃のこと、



「へぇ〜、マナト、ランニング始めたんだ〜」


「あぁ……それだけじゃなく、これからは一人で強い男になるためのトレーニングを始めるんだ。だからナツキ、これからは一人に……」


「じゃあ私がトレーニングメニュー考えたげるね!」



「おい⁈話は最後まで聞け?俺は一人で……」


「それじゃっ、さっそく明日考えて来てあげるから!……あとマナトに”俺”は似合わないよ?やっぱり”僕”の方が可愛いし」



「だから話を聞けぃ‼︎……そっ……それも含め、俺は俺の似合う、強い男になるんだ!」



「じゃあ聞くけど、一人でこれからどんなトレーニングをするの?」


「それはー……、とりあえず朝のランニングと……」


「ふんふん……それで?」


「あ、あとは……今から考える……」


「ホラ!やっぱ何も考えてないじゃない、それにマナトが考えることなんてどーせただ走る!とか、ただ筋トレ!とか頭悪いのばっかでしょ?」


「う、うぅ……当たり過ぎて何も言い返せない……って頭悪いは言いすぎじゃあないか⁉︎」


「それじゃっ、決まりね?明日までにナツキちゃん特製、地獄のトレーニングメニューを考えて来たげる!……あっ、ちゃんとマナトの体に負担のないよう安全面に細心の注意を払った、疲れない程度に地獄のトレーニングにしたげるからね!」


なんだよ疲れない程度に地獄って、



……意味わからん。




「おい!話を……」



マナトの思考がナツキを止めるために話をするとなった時にはもうナツキの背中は遥か彼方に消えていた。



こうして、いきなりナツキに頼りながらも、マナトのトレーニングが始まったのである。






「そうだ、メニューだけ、メニューだけだ、ナツキに手伝ってもらうのはそれだけだ、後は一人でやれば、一人で強い男になった、と言えなくもない!」


そう、心に言い聞かせ、翌日、ナツキに考えてもらったトレーニングメニューを持ち帰り、その次の日の朝から、さっそくメニューの通りに、トレーニングを始めようと、ナツキから受け取った、メニューの書かれたノートを確認のために開く、



そこには……



『ナツキちゃんによる、ナツキちゃんのためのマナト育成計画〜‼︎ 〜これでか弱いマナトもムキムキマスターだ‼︎〜』


いきなり不穏な始まり方、


だが、ナツキのことだ、なんだかんだ言って内容は真面目に……


そう信じて、ページをめくる。



のだが……



『朝5時、マナトのためにお弁当を作ってあげる。』


「オイ!」


ノンストップでツッコミを入れるマナト


「いきなりトレーニング関係ないな!ってゆーか、これ俺のトレーニングメニューだよな?なんでナツキがすること書いてあるんだよ⁉︎」



思わずノートを叩きつけそうになるマナトだったが、もしかしたらこれもナツキの悪ふざけで次のページからまともに書いてあるかもしれないと、もう少しだけ我慢することにする。




「……でもあいつ、俺のためにお弁当を作ってくれるのか……」


なんか怒るに怒れない、




「とっ、とりあえず、これは置いといて、次は……」



『朝6時、マナトと待ち合わせ……私は待ち合わせ時間10分前からマナトを待つ……なんだかドキドキする……』


「オイ!」


再度、おかしな文にツッコミを入れるマナト、


でも、ちょっとだけ、ナツキと待ち合わせというシチュエーションを考えて、ドキドキしてしまうマナト、


「なんだこれは⁉︎妄想か⁉︎妄想なのか⁉︎あいつが勝手に頭の中で作った妄想じゃないのかこれは!全く、やる気ないだろあいつ……」


口では怒ってる風だが、心の中では本当であってほしいと思ってしまうマナト、




そして少し顔を赤くしてページをめくる……




『6時丁度、マナトが来た!……朝は苦手なのかな?とっても眠たそう……』



「あぁ〜これは妄想だわ、完全にトレーニング関係ないわ、さてはあいつ、自分の妄想ノートと俺に書いたトレーニングメニューとを間違えたな?」


全くもう……‼︎仕方のないやつだな‼︎


と、呆れながらノートを閉じるマナト、


先はものすごく気になるが、やっぱり見ちゃダメだろう、と鉄の精神で我慢する。



「全くナツキのやつ、普段からあんなこと考えてやがるのか!」


口ではそう言っても、心の中では、飛び回る勢いで喜んでいる。



「仕方ないから明日の朝はランニングだけして、学校でナツキに会ったらこの妄想ノートとおそらくナツキが持ってるトレーニングメニューとを変えてもらって、明後日から改めて始めよう」



そう考え、その日は眠りについたマナトだったが、



「……」


「いや〜朝日が綺麗だね〜」


「……何で、いる?」


朝、まだ朝日が昇り切っていない、オレンジの光が辺りを照らす中、


当たり前のようにランニングのスタート地点にジャージでやってきてストレッチをしているナツキ、



……妄想じゃないのか?色々……




「だ〜って、心配なんだもん!マナトのこと……いくら私が安全面に細心の注意を払って作ったメニューとはいえ、マナトが私の見てない所で、それも外で、一人でいるなんて、心配でじっとしてらんなかったのよ……」



そのトレーニングメニューがナツキの妄想ノートと間違えていた、とか、あれはただの妄想じゃなかったのか?




と全力でツッコミを入れたかったマナトだが、




「過保護か‼︎」



一番我慢できないことを言った。



なんか、陰口の件以来、ナツキはマナトに対してめちゃくちゃ過保護になっていた。




「なんとでも言いなさい!そーよ!過保護よ!大体マナトなんて、私の後ろを必死について来るのが精一杯だったクセに、朝早くに一人で外に行くなんて、言い出したマナトが悪いわ!」



急に失礼なことを連発しだしたナツキ、



「マナトなんて、私の目の届く範囲でぬくぬく育てばいいのよ!何があっても私が守ってあげるから!」


「ありがとう‼︎」



完全に開き直って言いたいこと言ってくるナツキ、


「でも、それじゃダメなんだよ!俺はお前から自立して、一人でも生きて行ける強い男になるためにトレーニングしてるんだから!」


「私から自立って……マナト、私のこと嫌いになったの?だから私から離れるために……」


「そっ、そうじゃない!ナツキに守ってもらうばかりじゃなく、俺がナツキを守れるようになりたいんだよ!」


「マナト……」


「だから……」


「ダメ……」


「えっ?」


「そんなの、許されるわけないじゃない!ってゆーか、私が許すわけないじゃない!」


物凄い眼光でマナトを睨むナツキ、


一瞬、怯んだマナトだったが、



「俺は……誰にも許しなんて、求めてない!」


「……マナト……?」


「俺は決めたんだ!強くなるって!だから、放っといてくれ!」


ありったけの力を入れて叫んだマナト、



これには流石にナツキも黙り込んでしまう。


そして、


「……う……うぅ……」



目に一杯涙を浮かべ、顔をうつむかせるナツキ、


「マナトの……バカァ〜……」



「ナツキ……ごめん……でも、俺……」



「ねぇ、お願い!せめて私が大丈夫って思えるまでは一緒にいさせて?じゃないと、私……」



涙を流しながらしがみつくようにマナトに頼み込むナツキは、



「私、何するかわからないから‼︎」




そう言い残し、その場から立ち去ろうとする。



ナツキのあの目、本気だ‼︎


「ちょっと待って‼︎」



ただでさえめちゃくちゃするナツキが、何をするかわからないとか言い出した日には、



余裕でダメだ‼︎あぁなったナツキを野放しにするのは危険すぎる‼︎



「わかった!ナツキの好きにしていいから‼︎泣くな!というか泣かないでください!」


「……ホント?……ホントにこれから私のいうことは何でも聞いてくれるの?」




……ん?何だ?今のナツキの発言は?聞き間違いか?


「……なぁ、ナツキさん?」


「どうなの⁉︎」


「サー‼︎イェッサー‼︎」



俺は今、何を承諾した⁉︎


ナツキの勢いに負けて思わず敬礼してしまったが、


……今のは何が何でも拒否せねばいけない場面だった気がする。


「ィィィィィィイヤッホーイ‼︎」


先ほどまでの涙は何処へやら……目をキラキラ輝かせて跳ね回るナツキ、



……長い付き合いだから何となく分かる。




あの目をしたナツキは、ロクでもないことを考えている。


そこでマナトは、自分が取り返しのつかないミスをしたことに気づく。


だが、言ってしまったことは仕方がない。


できるだけ傷を浅く済ませる。



……それが今のマナトにできる最善の選択である。


「何でもかぁ〜、じゃあねぇ〜……」



よし!覚悟は決まった!なんでも来い!



と、本気で構えるマナト、




「私ね、実は欲しいものがあるんだ!」


お?どういう風の吹き回しか、ナツキにしては珍しく、まともなことを要求してきた。



行動を強制してくるのではなく、物を欲しがるとは、


(……物なら大体はなんとかできるが、あんまり高いものでなければいいが……)



「おおなんだ?なんでもいいぞ?」


「……ホント⁉︎ちょっと高いものでも?」



(やはり高い物か……だが、金銭でこいつの暴走を止められるのなら、いくらかかっても安いものだ。)


「あぁ‼︎どんと来い!この鹿角真名兎、男のプライドにかけて誓ってやる‼︎」


「じゃあ言うね、私が欲しいものは……」


一拍おいて、




「マナトの人生‼︎」



……オオゥ、プライスレス……、



(こいつ、何無邪気な目をしてとんでもないこと言ってやがるんだ……自分の言ってることの意味わかってるのか?)



「どこが物であって、どこがちょっと高いものだ‼︎」


やはりこいつの頭はロクでもないこと考えてやがった‼︎



……だがどうする?



こいつの暴走を止めるには何かしら大きな犠牲がいる。



さすがに僕の人生を差し出すわけにはいかないが、それなりのものを差し出さなければナツキは納得してくれないだろう。



「え〜だって、私マナト以外に欲しいものなんて無いもん、マナトさえいれば他はどうでもいいし……」


「ナツキ……」



キュン……。



じゃねーよ‼︎思わず流されるとこだったわ‼︎



……こうして、結局中学生活の三年間も、菜月は真名兎に構いまくり、状況は、全く変わらなかった。

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