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マギシ〜氷の帝王〜  作者: totoko
9/12

二章 美咲の笑顔 1

「えっと、ここでよかったかなー?」


 講義が終わり、香穂と美咲はキョロキョロとしながら廊下を歩いていた。幸いにも、魔法技術学部の研究室が並ぶフロアには、あまり学生の姿は無く、若干挙動不審な彼女たちを怪しく思う人はいなかった。


 しかし、理系学部は沢山の部屋がある。

 研究室だけではなく実験室のようなところもたくさんだ。迷ってしまいそうである。


「あ、ここじゃないでしょうか?」


 二人は一つの扉の前で立ち止まった。扉には「末岡研究室」と書かれたプレートがかかっている。

 確か、矢倉屋天は末岡研究室に所属しているという話だったはずだ。ならば彼がいるのはここだろう。


「そんじゃ、さっさと行きますか」


 香穂はコンコンとリズムカルにノックをすると、しばらくして扉が開いた。その前に何か部屋が騒がしかったのだが……何かあったのだろうか……。


「はいはい」


 気怠げな声で扉を開けてきたので、思わず、


「あ、すみません」


 と美咲は謝ってしまった。

 扉を開けてきたのは黒縁メガネをかけた男性だった。その整った顔立ちに香穂は見惚れてしまった。


(わお、イケメンじゃない)


 別に面食いというわけではないのだが、思わず見惚れてしまう程ではあった。ここまでの男性がこの大学にいたとは知らなかった。


「ん? どうした?」


 続いて、もう一人の男性がやって来た。


「あ」


 思わず美咲は声が出た。どうして、出たのか自分でもわからないのだが、なぜだか出てきた。

 それは彼が先ほど見せた笑顔を思い出したのか、それと今の脳天気な顔とのギャップに感じるところがあったのか……。


「?」


 なんだか様子がおかしい。パクパクと口を動かしてはいるのだが、何か言葉を発しているわけではなく。なんだかマヌケだ。

 変な沈黙が場を包んだ。それを破ったのは京の言葉だった。


「えっと……どうかしましたか?」


 はっと、我に返った香穂が慌ててバックから携帯電話を取り出す。先ほど拾ったシルバーのそれだ。


「さっき、外で携帯拾って、えっと……矢倉屋天さんっていますか?」


 珍しい香穂の敬語だ。多分彼らは三回生だから、タメ口でもいいはずなのだが……。恐らく初対面だからということだろう。しかし、それがなんだか異様におかしくて笑ってしまいそうだ。


「あー矢倉屋天ってのは俺なのだが……ってそれ俺の携帯じゃねえか!」

「あ、やっぱり……」


 何がやっぱりなのかわからないのだが、とりあえず、言葉が出た。美咲は思いがけず口を押さえる。


(聞かれてしまったのでしょうか?)


 しかし、天は美咲の心配など気になっておらず、香穂から携帯電話を受け取った。


「どこにあったんスか?」

「えっと……」

「入口近くの角の……えっと、あなたが魔技? を使った所です」


 言葉に窮した香穂の代わりに美咲が言った。珍しく自分から何か言った。香穂もそれに驚いたのか、こちらを見ている。ちょっと恥ずかしい。


「あ、あ……あー」


 なんか、おかしい。

 天は美咲の方を見るわけではなく、かといって香穂を見るわけではなく斜め上を見ている。なんというか、積極的に目を合わせようとしない。台詞もなんだか変だし。


「何をやっているんだ……。えっと、あなた達は……?」


 京から尋ねられて思い出した。そういえば自分たちはまだ名乗っていなかった。


「私は文学部の洲崎香穂です。この子も同じ文学部の天女美咲です」

「天女美咲です。えっと……四年生です!」


 元気に挨拶をして頭を下げた。長い黒髪がふわりと舞った。甘い香りが宙を漂った。


「あ、僕は宇ノ木京、でこいつは……」

「天です! 矢倉屋天です!」


 京の言葉を遮るように口を出す。その様子に嫌な顔をしつつも京は、彼女たちの方を向く。


「え、お二人共四年?」

「そーですねー……えーっとはい」

「じゃあ先輩ってことっスね」

「天、その~っスねというはやめろ、なんか不快だ」

「お、おう……」


 香穂の返事に天が発言し、それに対してツッコミをいれる京。


「とりあえず、携帯、渡したから」


 互いの素性がはっきりしたからなのか、香穂はいつの間にか敬語ではなくなっていた。それに違和感を感じることなく、男二人は頷く。


「わざわざこのバカのためにありがとうございます」


 京の紳士な態度に、香穂は顔を真っ赤にして両手をバタバタと振る。


「そ、そんな気にしないでよ。ただ、携帯無くしたら大変だろうなって思っただけだし……ね、ねえ美咲?」

「ええ~? ここで私に振るのですか? まあ確かに、香穂ちゃんの言った通りなので、全然気にしないでください」


 なんやかんやとちぐはぐな会話である。普段の天ならば流暢な感じで女性の心を掴むような感じなのだが、その天の口数が少ないのだ。

 このままでは話が進まないので、何か話題を変えねばと思い、


「あーえーそーあー」

(やべえ、言葉が浮かばねえ……)


 天は冷や汗をだらだらかく。美咲を前にすると言葉が続かないのだ。喉が異常に渇く。

 そんな状況の研究室前に一人の男性がやって来た。


「天よ、研究室にまで女性を連れてくるのは感心せんぞ」


 美咲と香穂の背後から声が聞こえた。びっくりして振り返ると堂々とした男性がいた。少し白髪が混じった黒髪に深めの顔には、しっかりと手入れがされた顎ヒゲが生えている。


 冗談交じりにそう言った彼は、この研究室の責任者、末岡源治郎である。


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