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マギシ〜氷の帝王〜  作者: totoko
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一章 天の衝撃 5

 深い真紅のロングスカートは派手ではなく、落ち着いた女性の雰囲気を感じられる。そして、腰まである長い黒髪はその一本一本が艶があり、全く乱れていない。

 優しげな顔立ちは、若干の幼さを残しながらも、歳相応の大人っぽさを際立たせている。いわゆる美人というものだ。

 天神を歩いていると何度も、スカウトの声がかかった経験があるのだが、なるほど納得である。


 天が研究室内にて、京と談笑を交わしていた頃、そんな美女である天女美咲は友人である洲崎香穂と楽しげに話をしながら歩いていた。

 会話内容は、どこそこのカフェがオープンしたとか、新しいアクセサリーの話とかそんな感じなのだが、基本的には話しているのは隣にいる香穂である。美咲はどちらかというと聞き役に徹しており、適度に返事をしながら、楽しげに会話をしている。両者、目を引く程の女性であるため、これだけでも絵になる。まるで、ファッション誌の表紙を切り取ったようである。


 二人は共に文学部の四回生である。


「それで、この間行ったのが……ん?」

「どうしましたか?」


 話をしていた香穂は背後の音に気づき、後ろを振り向く。その姿に美咲は首を傾げる。

 振り向いて見たが、何もない。どうやら角を曲がった先が騒がしいようだ。


「いや、なんか騒がしいなと思ってさ」

「ん? あ、本当ですね。何かあったのでしょうか?」


 美咲は基本的に誰に対しても敬語である。それがまた大和撫子らしくていい。どうやら隠れたファンがいるらしいのだが、隣にいる香穂が牽制しているのか、変な噂は聞かない。

 美咲と香穂は、入学以来からの仲である。

 入学早々、よくわからないサークルの男どもから話しかけられ、一人でおどおどしていたところを香穂が入り込んで助けたという出会いであった。

 

 それ以来、基本的に二人は共に行動することが多く。賑やかな性格である香穂と大人しい美咲のコンビはバランスがよくすぐに仲良くなったというわけだ。

 まあ、香穂自身も結構美人の部類にカテゴライズされるため、遠くから見ている分には絵になるのだが、近づこうものなら途端に香穂が噛み付いてくるというのだ。

 香穂は興味津々なご様子。美咲の手を取ると、


「行ってみよ!」

「え? え? ちょっと、香穂ちゃん!」


 転ばないように気をつけながら香穂に着いて行く。

 角を曲がった先には人が浮いていた。いや、よく見ると大きな階段があり、その上に立っているようだ。だが、校内にある階段とは違い、透明なのだ。いや、完全な透明というわけではなく、若干水色がかっている。

 階段の先には沢山の女子学生が集まっている。


「えっとーマジックか何かでしょうか?」

「いや~あれって魔技でしょ?」

「まぎ? えっと……魔法技術でしたっけ?」

「そうそう。まあ、私もそんなに詳しいわけじゃないんだけどさ」


 二人は文学部だからというわけでもあるのだが、元々理系要素が強い魔法技術の世界とは縁がない。

 しかし、危なくないのだろうか?


「なんというか、なんでまたあんな所にいるのでしょうか?」

「さあ? ってあれって矢倉屋天じゃん」


 二人はその階段の上にいる人物を見て会話をしている。そして、階段に立っているのは、矢倉屋天である。

 黒いタートルネックに白衣を纏い、ジーンズ姿。なんともシンプルな服装である。


「ご存知なのですか?」


 美咲の質問に香穂は頬をかく。


「いや、そこまで詳しいわけじゃないんだけどさ、確かあれでしょ? 魔法技術部のすごい人。三年生だっていうのに無茶苦茶頭がいいんだって」

「そうなんですか……知りませんでした」

「嘘でしょ? うちのクラスでも結構色んなコが言ってんじゃん」

「そ、そうでしたっけ?」


 美咲は苦笑いを浮かべる。中高と女子高だったというのもあり、あまり男性に対する興味関心がなかった。いわゆる箱入り娘のようなものだ。

 美咲は香穂の指摘に対して言い訳するかのように矢継ぎ早に話す。


「で、でも、あの人とても楽しそうです」


 透明な階段の上にいる男性の顔はとても楽しそうであった。まるで新しいおもちゃを買ってもらった子どものようである。

 あそこまで楽しそうな顔をする人をはじめて見た気がする。そう美咲は思った。


「そうかいな? よくわかんないけど……。まあいいや行こっ」


 香穂は踵を返すと天の方向とは反対側へ、つまり本来の方向へと戻り歩き出す。

 急に方向転換をした香穂を追いかけるように、慌てて美咲も着いて行く。


「まあ、確かに顔はいいけどさ、なんか軽そう」

「そんな、話したこともない人をそういう風に言うのは……」


 なぜだか、彼を庇う自分がいる。それを見て、香穂は少し驚くと、ニヤニヤと口元を歪める。


「何よ~、美咲、あんたってあーいうのがやっぱり好みなの?」

「ちちち、違います!」


 ちょっとからかっただけなのだが、美咲は顔を真っ赤にして手を振る。全く可愛いやつだ。

 こりゃあ男子が黙っていないわけだ。


「冗談よ冗談」

「全く、香穂ちゃんは……」


 そんな感じで歩いていると、足音が聞こえてきた。しかも、非常に慌てたような足音だ。


「えっ?」


 二人は同時に声を出すと振り返った。


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