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マギシ〜氷の帝王〜  作者: totoko
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一章 天の衝撃 2

 天は誰に言うわけでもなくとりあえず言っておけという気持ちで部屋へ入った。背の低いテーブルの上には、A4用紙サイズの資料が積まれており、コーラが入ったペットボトルが数本立っている。そのテーブルを囲むようにソファがコの字に置かれている。


 そこと壁の間の通路を歩く。

 すると、大きめの机が四つほど並んでおり、その上に一台ずつデスクトップパソコンが置かれている。


 高級そうなイスが並んでおり、その内一つには天と同じように白衣を来た男が背もたれに寄りかかりながら体ごと前後させて、うたた寝をしている。


 寝ている男の対面の席に座ると、ディスプレイの電源を入れる。そして、ノートや教科書を机の上に広げる。


 がさがさという物音に気がついたのか、うたた寝をしていた男は目を開きう~んとノビをすると、キーボードの上に置いていたメガネに手を取る。黒縁のセルフレームのメガネだ。あくび混じりにメガネを掛け、コキッコキッ、と首を鳴らしたあと目の前にいる天に気がついた。


「お、天。お疲れさん」


「うーす」


 天は適当な返事をして、先ほど受け取った弁当箱を広げる。天に挨拶をした寝起きの男はそのパステルカラーの弁当箱に目を見開き驚いた。


「おいおい、なんだよその弁当箱は? どう見ても君のには見えないのだが……」


「ん? あーこれか? 行きがけで女の子に貰った」


「誰に?」


「知らん」


「知らんって……あのなぁ……」


「お、辛子高菜が入っとるやん! あの子わかっとー!」


 天はフタを開けるとその中身に寝起きの男(宇ノ木京)の声を遮って、喜びの声を上げていた。卵焼きやウインナーといったベーシックなおかずの中に、小さめの鯖の塩焼きが入っており、弁当箱の全スペースの三分の二を占拠している白米の上には、辛子高菜が振りかけられている。


 自身の好物が入っており、思わず九州弁が出てしまった。

 そのマイペースな天に京はため息をついて、頭をかく。


 彼らはここ末岡研究室に所属している学生である。共に、魔法技術学部先進魔法技術学科の三回生である。そう、彼らは魔技士である。


 魔技士、そのまま読んで字の如く、魔法技術(略称「魔技」)を扱う人のことである。


 マンガやゲームにある魔法というのは、くそ長い白ひげを生やした老人が、ぶつくさぶつくさと呪文を唱え、檜やら何かの木で作られた杖をふて、超常現象を起こすものである。そのためには気の遠くなるような長年の修業を行う必要がある。しかし、そこまでして使った魔法の効果は、どんなに贔屓目に見ても割に合わないものだ。


 無論、そんなファンタジーな代物は現実には存在するわけがない。中世ヨーロッパではそんなことを実現させようと、それこそ血の滲むような努力をしていた人々がいたとかいなかったとか言われている。そんな魔法を誰でも簡単に行えるようになる技術というものが後々現れた。


 それはまるでかつて人々が憧れた魔法にそっくりで、火を出し、水を湧き上がらせ、物体を凍らせ、雷を起こし、地面を削り取る――そんな普通ではあり得ないことを、まるでカップ麺でも作るように手軽に、簡単に行うものであった。


 人々はその名称に、かつてから憧れていた「魔法」という言葉を入れ、「魔法技術」と名付け、さらに縮めて「魔技」と読んだ。


 誰でも手軽に、物理法則を歪めることを行える魔技はすぐに欧州を中心に広まっていき、その開発自由度の高さや奥深さに多くの人が魅了されていった。やがて、戦争でも「魔法技術部隊」なるものが編成される程にまで普及していくのである。もちろん兵器としての魔技だけでは無く、近年では新たなエネルギーとしての研究も始まっている。


 そんな魔技も当然日本に渡って来た。


 技術立国と呼ばれるだけあって、すぐに独自で研究開発が進められ、今や欧米諸国にも引けをとらない魔技立国としての地位を確固たるものとしてきている。


 そんな中で、政府はこの魔法技術を若い内から学ばせ、さらなる発展を目指し日本各地に魔法技術専門学校(略して技専)を設立させていったのである。また、各大学でも魔法技術の学部学科を設立し、まさに新たな学問として魔法技術が発展しているのである。


 魔法技術に必要なのは天が嵌めているリング――デバイスと自分の体その二つである。無論、開発には魔法技術を発動させるための式が必要であるのは言うまでもない。


 最近はコンピュータの発達により、魔法技術の開発にもコンピュータを用いるようになった。これにより、魔技は大きく進歩したとも言われている。


 そして、魔技の発動に必要なのは血液中に含まれる「魔量」と呼ばれるものである。非常に微量なそれをデバイスを通じて増幅させ、発動させるのだ。


 天は辛子高菜が乗った白米を頬張りながら、器用にパソコンを操作する。お世辞にもお行儀がよいとは言えない食べ方だ。


「全く……どうしてこんな奴がモテるのだろうか?」


「そら、このいけてるメンズなフェイスのお陰だろ」


「自分で言うか……」


「そういう、京、てめぇだってモテるじゃねーか!」


 箸の先を困惑する京へと向ける天。

 天もだが、京もまた同年代の男性の中では容姿は整っている方である。

 噂によると天派か京派かで派閥が出来上がっているほどでもあるらしい。


「そういう問題ではない……」


「ならどういう問題よ?」


「それは……それは……うーむ……特に問題はないな」


 腕を組み考える京だが、結論は見つからないままだ。それを見て、天は勝ち誇った顔で卵焼きを口へと運ぶ。


「ほれみろー。勝手にあいつらが着いて来ているんだから知ったこっちゃねえっての」


 彼の言うとおり、別に彼から手を出しているわけではない。無論、中には天が無意識の内に気があるような素振りを見せているのかもしれないが……。


「だが、あの中に本命の女性はいないのだろう?」

「まあな」


 そうなのだ。あれだけ囲まれていながら、特定の一人と特別な関係には至っていないのだ。それは京も同じなのだが、京は件のように真面目なスタンスであるためよくわかるのだが、天のような女たらしがそういうのは珍しいようにも思われる。

 天は弁当を平らげると手を合わせ、目を閉じる。


「ごちそうさまでした」


 こういうところは行儀がいい。

 そして、弁当を包み直すと急に何か悟ったような顔をして遠くを見つめだす。


「なんというか……心を惹かれるような女がいないんだよ……」

「意味がわからん」


 京の一言のせいで格好付かなかった。


「だーわからんのか? わからんのか? わからんのか? 要するに、ウルトラ一目惚れってのがねえんだよ!」


 天は声を荒げる。別に怒っているわけではないのだが、時たまこのように熱くなることがある。


 しかし、天の言うこともわからんでもないというのが、京の率直な感想である。恐

らく、天程に異性から好意を持たれると感覚が麻痺してしまうのだろう。いや、本当にそうなのかは定かではないが……。


「君はたまにロマンチックというか、こう……そうだな、童貞くさいことを言うよな?」

「るせーなー。いいじゃねえかよ。俺も別に誰でもいいってわけじゃねえよ」

「なるほどな」

「そういうことだ」


 ……沈黙。


 京はその沈黙を会話の終了とみなしたのか、メガネを外しキーボードの上に置く。椅子から立ち上がり、今度はソファで本格的に眠りに入った。


 彼の机の上にある大量の栄養ドリンクを見るからに、恐らく昨晩は徹夜だったのかもしれない。お疲れなのだろう。別に特別話すこともないし、そっとしておこう。


 天は隣の椅子からタオルケットを掴むと乱暴に京へと投げた。空中でふわっと広がって、ゆっくりと彼の体へかかった。京は何も言わず右腕だけ上げると、ごろんと横になった。


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