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フィスリニア戦記  作者: B・すくえあ
第1部 忌まわしき二つ名の少女
6/311

1-06 建国祭 3

「『プロトタイプ』1、『スタンダード』3、『レプリカ』4、『ディフューザ』12・・・散々だわ」

 フィリア姫は闘技場に設置された謁見席でエントリーリストを見ながら苦虫を噛み潰したような顔をした。

「何故です?よく揃ったと思いますが?」

 訝しげに尋ねるレオンに対し、フィリア姫は首を振りながら答えた。

「このうち『スタンダード』1と『レプリカ』4の5機はこちらから招待したスニーキー隊なのよ」

「それでも、『オリジナル』が3機、しかもその内の1機は『プロトタイプ』ですよ」

「彼等は全て腕利きの有名な傭兵、しかも『プロトタイプ』は傭兵最強と謳われる『シャドウクレス』よ。そんなどの国も欲しがる彼等がわざわざこんな弱小国家の庇護下に自ら入ろうとする?しかも三人も!」

「はぁ・・・」

「至急、背後関係を探らせて」

「は、はい!」

 レオンは控えていた側近に命令を伝える。

(まぁ、質の低さは覚悟してたけど、取り敢えず残りの中で組み上げるしかないわね)フィリア姫は気を取り直してマシーナの入場を待った。


 マシーナの入場は予定時刻よりやや遅れて始まった。遅れた原因は金ピカ銀ピカの二機が先頭に無理矢理割り込んできたせいであった。

「レオン!あの金バカと銀バカにはさっきの傭兵をブチ当ててやんなさい!傭兵連中にはギッタギタにして構わないと伝えて!」

 フィリア姫の剣幕にレオンは苦笑いするしかなかった。






「姫を暗殺?!」

 アルベルトは思わず聞き返した。事が事だけに当然小声である。


 ミリーはマシーナの入場が始まると、面白スポットが二つありますと言って語り始めた。一つはお尋ね者のスニーキー隊が何故かいること。そしてもう一つ、傭兵三人を指差しながら語り出したのが、姫の暗殺話であった。


 三人の傭兵のうち、ゼート=バランとガイル=ゴーンは共に『スタンダード』である『バリスタン』に乗っている。マシーナ騎士としての腕は確かで一流と評判も高い。二人で組む事が多いが、金さえよければ汚い仕事も平気で行うという噂もある。


 もう一人の傭兵、シオン=サーサは20代の女性であり、漆黒の長く美しい髪に黒いパイロットスーツが印象的である。性格は冷徹かつ無慈悲であり任務を確実に遂行するとの評判である。そんな彼女が駆る『プロトタイプ』の『シャドウクレス』は『漆黒の淑女』の二つ名が示す通り全身黒色の女性型マシーナであり、サークレットを着けた頭、肩まであるストレートヘア、膝上まであるスカートという外見であった。なお、髪とスカートに見えるのは防御用の細長いプレートが並べられたものである。左腕には黒地に灰色の三日月が描かれたラウンドシールドが固定されていた。その美しさはフェルミール王国の『ブリュンフィーダ』に、その強さはフォルデベルグ王国の『レッドゴート』に匹敵するといわれる名機である。


 そんな連中が命を狙っているとなればタダで済むハズがない。

「一体誰がそんな依頼を・・・」

「レンザリア公国ですよ」

 ミリーはあっさり答える。レンザリア公国はフィスリニア王国の南西に接する国だ。

「なら、その情報をフィリア姫に・・・」

「何故です?」

 ミリーは疑問の形でアルベルトの言葉を否定し更に続ける。その表情は軽い。

「私には関係のない事です。こんな事も自分達だけで判らないようならそれまでというだけです。それにどうせ言っても信じて貰えないばかりかあらぬ疑いをかけられるでしょうし」

 アルベルトは、この少女の本名が『ミーア=リーア』であることを思い出し、軽く相槌を打って話題を変えた。






 マシーナが一列に並んで闘技場に入場してくる。マシーナの列は姫がいる謁見席の前を通過し闘技場の外周を回って観覧席にいる人々の前を通過した後、姫の謁見席の前で整列する手順になっている。


 リークはほっとしていた。『ドドー』なんかでと思っていたが、いざ来てみれば『オリジナル』なんて少ししかいないではないか。

 マシーナの種類を余り知らないリークでもそう判断出来るには訳があった。絶対ではないが『オリジナル』かどうか簡単に見分ける方法があるのだ。それは眼すなわちカメラである。


 『レプリカ』および『ディフューザ』は顔の眼の位置にメインカメラが設置されているのが普通である。しかし『オリジナル』には眼がない。顔には歌舞伎の隈取りのように幾何学模様の5センチ幅の溝が掘ってある。顔だけではない、胴体、腕、脚、頭など全身に溝が模様のようにあるのだ。当然ただの溝ではなく、一列に無限焦点カメラがびっしりと設置されているのである。

 これは『コンパウンド・アイ』システムと呼ばれるもので、全身の数千のカメラの映像をリアルタイムで解析するシステムであり、各カメラの位置関係と映像誤差から映るもの全てを立体的に把握するのである。これがあるからこそ『バイザーモニター』が使用できるのだ。

 このシステムには、戦闘により多少カメラが使用不能になってもモニタ映像には影響がないという利点があるが、腕や脚など可動部分は体の基準線に対する位置と方向の補正を常に行う必要があり、制御が複雑なため『レプリカ』や『ディフューザ』には搭載されていない(例外として『レプリカ』の『エミュール』には搭載されている)

 因みに、リークは鳥型のマシーナを格下にみてちゃんと観察していないためその事に気付いていなかった。


 リークは3日前に城に到着した。そこで自分と同年代の若者達がやはり『ディフューザ』を駆って参加している事を知ったのである。

 しかし彼らの殆どが貴族であったため平民のリークは気後れしていたが、何人かが気さくに何かと声を掛けてくれたお陰で、今ではすっかり打ち解けていた(といっても数人、鼻持ちならない奴もいたが)。

 中でも特に仲良くなった二人がいた。クリム=ルテールとジョン=フォスターである。二人とも騎士の家柄の子息だったが、騎士としての職がない今は平民以下の存在だよと自嘲気味に笑っていた。


 確かに、第一世代(ファースト)来訪の前後で戦闘の有り様は変わっていた。来訪前は剣と槍と弓による戦いが全てであり騎士といえば戦闘の花形であり力の象徴であった。それが来訪後は銃の割合が増え騎士の優位性がなくなってきたのである。銃をものともしない屈強な騎士もいるにはいるが極僅かであり、大半の騎士は銃の前になす術がなかったのだ。そのため、騎士を一人雇う金で銃を年10丁買った方がよいということで、騎士が次々と解雇の憂き目にあったのである。


 クリムとジョンの家もそうやって職を失っていたが、何代も続いた騎士の家柄であるため、騎士とはどうあるべきか教育は徹底して行われ、あくまでも騎士である誇りを保ちたいがゆえに、現在の花形であるマシーナ騎士を子供に目指させたのだ。

 そんな三人は武闘会の前に誓いあった。頑張って揃って近衛騎士になろう、なれた者はなれなかった者を取り立ててもらえるよう努力しよう、と。


 リークはそんな事を思い出しながら前を歩く二人のマシーナを見つめている。二人のマシーナは『ディフューザ』の『ウォーダン』という機種だった。汎用性を重視した『ドドー』に対し、『ウォーダン』は騎士としての使用を目的とした機体だった。いかにも騎士といった外見であるが、使う道具を、剣、槍、盾に特化しているため銃を扱う事が出来なかった。

 リークの目から観ても、二人はマシーナをキチンと扱えている方だ。きっと普段から真面目に修練していたのだろう。列の後ろの連中は歩くのもやっと、というレベルであり戦えるのか甚だ疑問である。

 リークはそんな事を考えつつ、ふと心配になった。自分としてはちゃんと動かしているつもりだが、周りから観たらどうなのだろう、と。






「何だ?あのマシーナは?」

 フィリア姫は小さく独り言を漏らした。そして椅子から少し身を乗り出し、眉間にシワを寄せて目を細め、一台のマシーナを凝視する。

 手元のリストによれば、あのカーキ色のマシーナは『シューティングスター』と申請があった『ドドー』・・・のはずだった。しかし、フィリア姫はその行進の様子に違和感を感じていた。あれがドドー? その違和感は例えるなら歯車はピッタリ嵌まっているのにスムーズに回せない、そんな感触なのだ。レオンを始めとして廻りの連中は何も感じていないようである。

(誰か他に気付いてくれていないのかしら)

 フィリア姫はそんな事を思いながら、ふと自分を見ていたあの二人の事を思い出していた。






 フィリア姫の予想は的中していた。

「すみません。面白スポットを一つ見落としていたようです」

 ミリーが『シューティングスター』を指差して謝った。

「外見は『ドドー』のようだが何なんだ?あのマシーナは」

 アルベルトも気が付いて声を上げる。

「『ドドー』っぽい動きではありますけど・・・これもこの国の悪戯の一つでしょうか?」

「解らんな。取り敢えず後で直接触れてみるか。パイロットが触らせてくれたら、だけどな」






 マシーナは、闘技場を一周廻って、姫の謁見席の前に整列した。摂政閣下が開会の挨拶を高らかに行い、武闘会が始まったのてある。今は各マシーナが闘技場内に散らばり動作確認をしている最中だ。


 フィリア姫は謁見席から降りて、レオンと二人で観覧席の周りをゆっくり廻り始めたところだった。

(観客は一旦散ったみたいね)

 開会のパレードと式典の時には満杯だった観覧席が今は閑散としている。武闘会は祭りの間、時間をかけて行う予定のため、観客もお目当てのマシーナ以外の時間は他の出し物を楽しむつもりなのだ。

 歩いている最中にも摂政閣下にはよく声が掛かる。レオンがその都度相手をする間、フィリア姫は所在なさげに立っている・・・ように見えたが、フィリア姫の眼はあの二人を必死に探していた。


 フィリア姫が例の二人、アルベルトとミリーを見つけたのは観覧席を3分の1ほど進んだ時だった。二人が観客席の最後部の柵にもたれ掛かっているのは接触するのに都合がいい。

 フィリア姫は二人の後ろまで歩みを進めた所で静かに止まる。レオンも合わせて止まろうとしたが、フィリア姫が手であっちへ行けと合図したため、仕方なくそのまま歩く。しかし、あまり離れる訳もいかずどうしたものかとレオンが考えていると都合よい距離でボルトが話しかけてきたので腰を据えて話しをする事にした。理由を知らないボルトは大喜びである。

 さてどうしたものかとフィリア姫はきっかけを探すために、二人の話に耳を傾けた。どうやらスニーキー隊の事をちょうど話しているようだ。






「ありゃ~、マズいですね」

 そう言いながら、ミリーはアルベルトも取りやすいようにと右手に抱えた2つ目のポコンのバケツからポコンを摘まんで口に放り込む。

「何がマズい?」

 と、ミリーのバケツからポコンを摘み口に放り込みながら尋ねるアルベルト。

「『オースティレン』の動きが時々おかしいんですよ。制御コンピューターがいかれかけてるのかも」

 と、ポコンを摘まんでポリポリ。

「『オースティレン』だけか?『エミュール』は?」

 と、ポリポリ。

「『エミュール』はそんな事なさそうですが、如何せん暫く整備できていませんからね、スニーキー隊は。どんな不具合を他に抱えているか」

 と、ポリポリ。

「その名は出さんで欲しいんだが」

 と、ポリポリ。

「えっ?!」

 と驚くアルベルトとミリーを尻目に二人の間から顔を出しバケツに手を伸ばしているのは・・・フィリア姫であった。


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