特別に憧れる平凡
「七戸!!!81点だ」
数学のテストが81点。悪くもなければ良くさえない。
「七戸!!!1m20cmだ」
高飛びが1m20cm。悪くもなければ良くさえない。
僕は【七戸 一希】
実に平凡な人間。良くはないけれど悪くもない。
そんな毎日を生きている僕だ。
でも僕は【特別】に憧れている。
ぃゃ正確には僕が憧れているのが【特別】と呼ぶものかどうかはわからない。
ただ部活でも活躍できて、勉強も出来て、
そう。目立つ存在になりたい。
そして今僕のクラスでその立場にいるのが
【阿井 龍美】くんだ。
彼は部活でとても優れている。
彼は部活の水泳では一年生で地方の大会にでられる。
普通の一年生で地方の大会はなかなか出られない。
そう。彼はすごい。特別と呼ぶべき存在なのだ。
「タツミ君!すごいじゃん!!!」
「べつに……カズキも来年いけるっしょ?」
「僕なんかムリだと思うよ?」
「んなことないから」
「(笑)」
僕はタツミ君の言葉がいやみに思えなかったから微笑んだ。
「ねぇタツミ君!」
「ん?」
「今日も練習行くんでしょ?」
「ううん行かないよ!今日疲れたし」
僕は最初「え?」って思った。
地方の大会に出られるのにどうして練習しないのかな?と思った。
でも……
「そっか!まぁ毎日練習してるんだったらいいよね」
そう言い返した。
そしたら思いもよらない言葉が返ってきた。
「毎日練習?そんなのしてないよ」
《そんなのしてないよ》
《そんなの》
こんな言葉を、選手が発していいのだろうか……と思った。
結局大会でのタツミくんの結果は良くなかった。
練習していればもっといったはずなのに……
なぜだろう。タツミ君には【才能】があるはずなのに……
どうしてそれを活かさないのだろう。
練習を積めば人気者になれるのに……
僕はタツミ君に憧れ続けた。
だけれど彼は自分から上へ行こうとはしなかった。
彼は部活もやめた。
僕の憧れではなくなった。
僕から離れていった。
そんなある日、僕はタツミ君と先生の話をきいた……
「タツミ。今度の大きな水泳大会があるんだけど、野乃志中学の一年代表でオマエにでてほしいんだ。」
「ヤです。」
え……なんで?僕はそう思った。
「え…?」
「でたくありません」
「なんでだ?オマエは水泳で優れている。でてみるだけでてたらどうだ?」
「そういうの嫌なんです。優れてるだとかなんだとか!普通に生活したいんです。平凡な生活。僕の代わりなんていくらでもいます。その人に頼んでください。失礼します」
タツミ君はこう叫んでいた。
タツミ君の胸の内を聞いた。
才能は時に人を傷つけることさえある。
才能がない者は才能がある者をうらやましがる。
だけれどそれは才能があるものにとっては迷惑なのだ。
「才能を捨てたい気持ちになんて…なるのかな」
僕もタツミ君みたいになったらあんなこと…思うのかな?
とぼとぼと考えながら家に帰っていた。街中を通りながら……
すると…
あるおじさんに。ぃゃお兄さんに、一枚の名刺をわたされた。
……僕が良く知っている芸能事務所の名前が書いてあった。
「ねぇ…キミさぁここの事務所はいってみない?」
そう声をかけられた。
スカウトされた……
「え……」
「あっお母さんと相談してからでいいよ!今度ここに電話してみて」
そういい名刺の番号に指を差していた。
=======1年後========
僕はテレビにでていた。
お母さんに相談したら母は急いで僕を事務所に入れた。
僕は学校でも目立つ存在になった。
昔のタツミ君のような特別という存在になった。
芸能人としての活動もなれたころ…学校では恐ろしいことが巻き起こっていた……
それは突然だった。
芸能界になれて突然のこと……
久しぶりに学校へ行くと……
僕に対する……
「死ねば?カズキなんて」
「だめだよーーー死んじゃ!こいつには沢山のファンの方がいらっしゃるから」
「そっかーーーでもなぁ死んでほしいなーーー」
「それサンセーー!」
そう。イジメを受けることになった。
理由はわからない。
目立つ存在になったからだろうか……
なんでだろう……
そして明くる日もイジメはつづいた。
「ねぇ……カズキくんってさぁ…テレビで調子にのりすぎなんだってよ
アタシはキモイから見ないけど・・・めちゃくちゃ調子に乗ってるらしいよ」
そういう女子の会話が聞こえたり・・・
教科書に生ゴミをはさまれたり
セミと一緒にダンボールに閉じ込められたり。
イジメといえば定番の教科書のラクガキ、机にラクガキもされた。
そんなイジメがつづいた。
ある日のこと
「七戸〜ちょっとこっちこいよー」
一人のイジメッコに呼ばれた。
【松桐 龍太】だ
僕はリュウタの元へ向かった。すると・・・そこに数人の男子がいた。
ペンキを持って。
「よッ!カズキ!」
「オマエテレビにでんだろ?その髪の色だせぇぞ!」
「だから!真っ黒はダサいって!」
「だから・・・・」
《これで染めろ!!!!》
その言葉とともに僕にペンキが飛んできた。
赤・黄・緑のペンキだった
僕の髪は赤・黄・緑になった。
「このほうがいいって(笑)」
「なんかでも失敗だな(笑)」
「確かに、モットきもくなった(笑)」
「まぁいんじゃね?どうせカズキだし」
「だな」
笑い声とともに男子達は消えた。
僕はペンキが乾かないかが心配でとにかく早くトイレにペンキのついた髪の毛を洗いにいった。
すると―――
「あーれーこのトイレペンキくさいケドー」
「あっおめぇか!クセェの!」
と言いながらさっきの男子達が来た。
そして
「だめだろトイレペンキ臭くしちゃ!」といいながら
髪を洗う僕の髪の毛を引っ張り上げて・・・
顔にラクガキをはじめた。
なんて書いたのかわからない。
僕は鏡をみると・・・
「はぁ〜い僕はテレビに出てる大スター超カッコイイ俺をみてぇ!2-4にいるよ〜」
と書かれていた・・・・
急いで消した。
爪をたててこすらないと消えなかった。
顔は傷だらけになった……
『特別になんか、ならなければよかった。特別は辛かった。僕は・・・死にたい』
*====*五ヵ月後*====*
僕はこの日もトボトボと帰宅していた。
すると―――
「よっ!」
そこにいたのはタツミ君だった。
タツミ君とはクラスが違うためタツミ君からはイジメにあってはいない。
「タツミくん・・・」
「どうした?」
「しってんでしょ?」
知ってんでしょ?その言葉は
『いじめのこと知ってんでしょ』という意味をこめて言った。
「あぁまぁな。でも仕事は楽しんでんだろ?」
「仕事・・・・楽しんでないよ。。。っていうより・・・楽しめない。」
「え・・・どういうことだ?」
「仕事ないから。いま」
「そう・・・なのか」
「まぁね・・・」
「なぁ・・・」
タツミくんのその言葉が……
僕を変えてくれることになった……
「なぁ、俺がなんとかしようか?」
「え……」
「オマエさぁ偉いよな!」
「偉い?」
「あぁ!偉い!!!俺は・・・ただ特別扱いされるのが嫌で水泳をやめた。
なのにオマエは、イジメまで受けてるのに…イジメの原因を捨てようとしない。
きっと芸能人を辞めればイジメはなくなると思うんだけどな!」
「だって……」
「だって僕・・・イマの仕事好きだから。楽しくはないけど…
舞台の上で新しい自分がうまれる。それが・・・好きなんだ」
「そっか!んじゃあヤッパリ俺がイジメをなんとかしてやるよ!!!」
「ねぇ……そのなんとかって…?」
「これで絶対イジメはなくなる!」
======中学卒業後======
「ねぇタツミくん…なんで……僕のために」
僕は墓にいた。
タツミくんの墓の前に・・・
そう、あの日・・・
タツミくんは死んだ。
僕のタメに・・・死んだ。
自殺というかたちで…
彼は自ら命を絶った。僕を助けるためだけに。
タツミくんの死で学校は大騒ぎになり確かにイジメはなくなった。
というより、ミンナはイジメのことなど忘れたのだろう。
イジメがなくなり、僕はとてつもなく楽になった。
だけれど……
僕はタツミくんの墓の前で目が潤んでた。