ジャンヌダルクの自転車の後輪がパンク
私は、ジャンヌダルク。かつては神の声を背オルレアンを駆けた私も、今は転生して、十字まもりと言う1人の日本人として根暗な日々を過ごしている。
しかし、今日はこうして太陽の光を浴びようと、いや、正確には金山のBL系同人誌専門店「オレンジブックス」に行くために私は外出した。昔は足早く疾走する毛並み艶やかな馬だった私の遠距離移動手段は、赤い変速機能付きの自転車に変わった。しかし、かつて戦場で運命を共にしたあの雄馬のことを忘れまいと、自転車には彼と同じ「ハインベルト」という名前を付けたのだった。
その、ハインベルトが今危機的状況に陥ってしまった。得体も知れぬ路上の罠を踏みつけた結果、後輪を損傷してしまったのだ。おかげで、彼の動きは鈍くなり、私の動きも制約される。戦場であれば瞬く間に無数ね槍の餌食になるか、或いはかつての私のように捕らえられて幽閉されるのは必死であろう。かりそめである可能性があるとはいえ平和な世の中でよかったと思う。そして、自転車は足を怪我した馬とは違い修復すれば基本的に死ぬことはない。いやいや、そもそも自転車には命がないがな! と中にはツッこみたくなる者はいそうだか、それは間違いである。物にも魂はあるのだ。フラガラックと言う剣に命が宿るように。
だから、大切にしなくてはいけない……もっとも、このように自転車を破損している人間にいう資格はないかもしれないが。
それにしても、どうしたものだろう? 何せ、私は自転車に乗り始めてまだ日が浅い。パンクもはじめてだし、直し方もわからない。しかも、位置的には自宅と金山の中間くらいの微妙な位置だ。進むも退くも同じくらい距離があり、その間を自転車を引いて歩かねばならない。無理矢理乗ることも可能ではあるが、前述の通り倫理的に許されないことであるし、自転車にさらなるダメージを与えるのは確実だ。
私はやむを得ず、重篤な罪の十字架の如く重い自転車を引き、満身創痍で歩き続ける。救済の使者……自転車屋さんを求めて。
ジル=ド=レイみたいに錬金術でも使えればと、しかしそれは神に対する背徳行為ではないかと、ぼんやりした回らない頭で考える私の横で、鉄の車輪は秋空の下、カタカタカタと歪な音を鳴らして回り続けるのだった。
(筆者談)自転車にずっと乗ってるとパンクしたときすぐわかるようになりますよね〜ゴトンゴトンと音がしだしたら大体は……