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30のお題 01.星屑

作者: rekimaru

01.星屑



 悩める者は空を見よ。

 大昔からの格言である。

 見上げる空の広大さを思い、自身の悩みや出来事を瑣末な事と吹っ切り思い直してさらに躍進する、という悟った人種も世間にはいるようだ。

 今、自分が見上げるのは青空でなく夜空だがこれでも空には違いない。そもそもこの格言がどちらの空を指したものかもハッキリしてない訳なのだし。

 静かな夜だった。背後からパチパチ爆ぜる焚き火の音と揺れる橙色の熱気が暖かく背中を包みこむ。時おり散る火花は煙と共にゆらゆらと天に登り、それを辿って見上げた先の星々に混ざり星屑となる。

 辺りの空気は凛と澄んで中空までも曇り無く、今夜の星空は一段と綺麗だった。

 無心に夜空を堪能する。

 ただひたすらに、必死に夜空を堪能……する。

 だがしかし。

 しかし、この美しい夜空に混ざって、一つの不協和音が聞こえる。

 さっきから気になって気になって気になって仕方がない。

 あの雑音ではせっかくの星空も台無しだった。

 思わず大きな溜息が漏れる。

 そもそも自分とて好き好んで空を眺めている訳では全くない。あの雑音のせいで旅が遅れて次の街に辿り着けず、その結果こんな草叢で野宿するハメに陥っているだけなのだから。

 うんざりした気分で雑音の音源を横目に睨んだ。焚き火を挟んだ反対側で大の字で眠りこけ高いびきで雑音を作り出している大男。

 やはりダメだ。自分はどうにも格言のようには悟れない。いくら壮大な空を見ようが美しい星々を見ようが、このムカつきはいっこうに収まりそうもない。 

 響いてくる雑音が一段と音量を上げだした。どうにも神経を逆なでされるが、だからといって男に起きられたら起きられたでこのささやかな静寂が破られることになる。なにせこの男ときたら大柄な体躯とあいまってデカいわ口が減らないわ喧しいわ。それに比べればこんな高いびきなど可愛いらしいものだろう。

 忌々しい思いで左腕に巻かれた新しい包帯に触れる。これを巻いたのはこの男だが原因をつくったのもこの男だ。

 ああ疲れた。無駄な一日だった。

 これでも自分は忙しいのだ、厄介事はお断りなのに。

「ああクソ、ハラ減ったなぁ……なんか食いモン持ってねぇ、兄ちゃん?」

 イラついた思考の中に、急に野太い声が割り込んでくる。

 橙色の炎の向こう側、むっくり起き上がる大きな影。あのまま永遠に眠り続けていればいいものを、人の期待に反して大男があくび混じりに大きな伸びをする。

「あーぁ、ハラが減って良く眠れねぇぜ。おい、兄ちゃん、食いモン――」

「たとえ持っていたとしても、誰が貴様に食わすか」

 不機嫌全開で遮るように返答すると、男は眠たそうな様子から一変して嫌な笑い顔をこちらに向けてきた。

「あれれ? 怪我させたことまだ怒ってんのかぁ? けど、そりゃお互い様だろ。俺だってテメェに斬られた右足が相当痛ぇんだぜ?」

 男が動かした片足には白い包帯。確かにあれは自分がやったものだが、まぁアレだ。別にざっくりいった訳ではない、この男ならカスリ傷程度といったところだろう。

 この男の言うように怪我に関してはお互い様だった。果し合いが過ぎた挙句、今夜の宿に泊まりそこねた事もまぁお互い様といえばお互い様だった。

 けれど自分は、それらの事に怒っている訳ではなく、それに至るまでの過程に憤っているのだ。

「貴様の傷はトロル並にすぐ塞がるんじゃないのか。見るからに全身筋肉だしな」

 出来ることなら、今すぐこの男に消えて欲しいと思う。何の話も聞かなかった何も見なかった事にして。

「いやいや俺ァとりあえず普通の人間だから。剣で斬られりゃ普通に怪我すっから。化け物呼ばわりしないでくんね? 傷ついちゃうだろ、俺ぁこれでも心が繊細なんだよ」

「笑わすな、繊細に失礼だろう。ウドの大木の分際で」

「ったく、わからず屋だな、兄ちゃんよ?」

 鋭く視線を絡めたまま、二人はゆっくり立ち上がる。

 男が起きれば当然ながら破られる静寂。まぁそのほうが自分もスッキリできるのも事実。そう考えて口の端をにんまりと吊り上げる。

「昼間の……ケンカの続きでも、するか?」

「おうよ。上等だぜ。俺は足をやられてて多少不利だけどな。そんくらいはハンデにしといてやらァ」

 凶悪に細められた相手の瞳が、焚き火の橙色にギラギラ反射している。男は重心を落とし両手の拳を顔の前にかざして身構えた。

「武器ナシで、素手で勝負といこうや。また刃物で怪我したくねぇしな」

「素手……だと?」

 そりゃ自分とて武器無しでも多少は戦える、が、この相手は筋骨逞しい大男。しかもただのウドの大木でないことは昼間の勝負で良く分かっている。

 少し躊躇していたら、男はニタリと緩く笑った。

「んな難しい顔すんじゃねぇよ。なんつーの? 拳で語ろうぜ的な? いわゆる、微笑ましい兄弟喧嘩ってヤツだろ?」

 しれっと漏らした奴の言葉で、今まで比較的冷静に対処していたはずの頭にぐわぁっと血液が集中する。

「だああああぁぁぁ黙れェェぇ!! 兄弟ゲンカ言うなぁぁぁ!!」

 憤った勢いで身体が前に出て、気がつけば男を渾身で殴りつけていた。相手は油断していたらしくモロにアッパーが決まり、大柄な身体が気持ちイイほど吹っ飛んでいく。

 ちょっと小気味良くて笑いが込み上げてくるが、そこは我慢した。

「ッ……。弟とほざくな、ほぼ初対面だろ、が、ッぷ……。」

 砂煙を上げて無様に倒れ込んだ姿に、必死で笑いを堪え肩を震わせていると、獣のような唸り声が聞こえてきた。

 顎を押さえながら男の顔が徐々に上がり、凄まじい形相がこちらを睨む。

「てンめぇぇ、不意打ちとは……卑怯だろうがァァ!!」

 がばっと起き上がり、男が猛獣の勢いで襲いかかってくる。二足歩行の……ゴリラかグリズリー並の迫力だ。

「ぅげッ!?」

 一時は気分が良かったものの、素手の勝負となれば体格差で圧倒的にこちらが不利だ。たとえ片足のハンディをつけたとしても(というかこちらも片腕を負傷しているのだが)どう考えても不利だ。

 まともに相手して怪我をしたくない、逃げるが勝ちか? 

 攻撃を横に避け思わず走り出しながらチラリと背後を振り返れば、両手を振り上げ掴みかかろうとしてくるゴリラの姿が。

 うん、逃げるが勝ちだ。

 そう考えて方向転換した視線の先には、今までそこにあったはずの星々が消えていた。何かの形に炭を流したように前面が黒く塗りつぶされている。

 正確には星を遮って前方を何か巨大な影が立ちふさがっているのだ。ゼイゼイと荒い息遣いと地を這うような呻き声も響いてきた。

 今まで騒いでいた二人は同時に動きを止めた。

 チラチラと揺れる焚き火の炎と星明かりが巨大な影を微かに照らし出す。

「……おい、ゴリラ」

「誰がゴリラだ、ゴルァ!」

「いやゴリラじゃない、トロルだ」

 微かな光が照らした先にはとんでもない怪物がいた。二本足で腕が異様に長く青黒くヌメった肌には不気味な光沢がある。

「おう、見えてるぜぃ」

 弟と自称するこの大男の、優に三倍はある大物だ。通常、凶暴なトロルは手練たハンター数人で狩るのが定石だが。

「ヤバいな」

「逃げても追いつかれちまう。どうするよ、兄ちゃん?」

「どうするも何も、倒すしかないだろう」

「クククッ、だよなぁ?」

 自称弟は少し楽しそうに応えると、ごつい武器を拾い上げその片方をこちらに投げて寄こした。それを受け取り大剣のさやをサラリと抜き放てば、星の輝きを映したような研ぎ澄まされた刃が現れる。

「行くぞ」

 声をかけると、自称弟はニヤリと笑って大剣をかかげた。そうして良く知らない者同士の二人は、雄たけびを上げ共に獲物へと走り出す。

 何の因果か、星降る夜の摩訶不思議。

いきなりトロルが現れる変な世界ですんません。

「」以外の一人称書き厳禁で縛りを入れました。しかし、視点の主は名無しだし単に「男」とも「彼」とも表現できずかなり苦しくて、凄い妙な文章になりました;

ハンターって、彼らは何を狩ってるのでしょう?どういう職業なのでしょう??きっと傭兵的な…いやMH的なアレ?ってことで、苦し紛れな職業ですんません。

星屑?→野外?→焚き火?→狩人?→MH?……そんな感じの思考経路でした;


あるお方から練習にお題を書けとアドバイス(命令?)を頂きまして、お借りしてきました。ワタシお題とかなかなかどうして苦手です。どうしよう自信ありません。どこまでいけるか不明ですが、が、頑張る。頑張ろう。


サイト名: Dream of Butterfly

URL:http://hatune.finito.fc2.com/x-kotyou-enter.html

↑↑こちらからお借りしました。ありがとうございます。


モノ書きさんに30のお題

1、星屑 2、完全犯罪 3、花に嵐 4、事後承諾 5、返り討ち 6、ヒステリー 7、灰色の街 8、魅力的な選択肢 9、+α 10、言葉の綾 11、etc 12、天使か悪魔 13、時効 14、きれい事 15、チェックメイト 16、秘密 17、紳士の条件 18、夜想曲 19、寝空言 20、non title 21、宣戦布告 22、君に幸あれ 23、不可抗力 24、レクイエム 25、螺旋階段 26、99.9% 27、惚れた弱み 28、禁断の果実 29、夢とか希望とか 30、願わくば

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