逃れられない苦しみ
『ぼくはいじめられてます。たすけてください』
僕は白紙に何回も、何回も何回も何回もなんかいもナンカイモ……同じ言葉を書き続けた。
でも、それを誰にも渡すことができない。
いつもいつもお父さんが邪魔をする。
「こんなものを書くのはよせ。お前は俺から逃げられない」
お父さんは僕が嫌いみたいだ。
最初は顔を殴られた。
一週間前はお腹を蹴られた。
五日前は首を掴まれた。
四日前は首を絞められた。
一昨日はタバコを押し付けられた。
昨日は足をなくした。
今日は左腕をなくした。
痛いよ……助けてよ……。
明日はどうするつもりなの?
お父さんは企み笑いで僕に微笑む。
そして右手を掴まれて、鉛筆を落とした。
――明日で、僕は何も持てない体。
どうして殺さないの?
「たすけて」
ぐったり倒れたお母さんは返事をしてくれない。
けれどお母さんは優しいってことは知っている。
ほら、今だって虫さんたちがお母さんを包んでる。
そうだった。悪いのはお父さんだ。
神様だって納得するはずさ。
きっと僕を救ってくれるのは神様に違いない。
十年生きてて僕は不幸だった。
だったらもう一度生まれ変わってもいいよね。
僕は幸せが欲しいんだ。
僕の肉体は地面へ潰れた。
これでいいんだ。
次に起きれば僕は幸せ者なはずさ。
神様、生まれ変わったら、僕を世界で、一番愛してくれる、家族の元に――――――
――――
「生まれました! 元気な男の子です」
ああ、暖かい。
「あなた……」
あ、この声はお母さんかな。
暖かい、というよりは暑いや。
こんなに暑くしてくれる人はだれなのかな?
そうか。この暑さは、あの人か。
「お前は――」
ああ、そうか。
この人は幸せだったのか。
「俺から逃げられないって言ったよな?」
少し鬱になると、こうなるらしい。
皆さんもお気を付けて