そのいち-初会話
L字型に並んだ古びた1号館ときれいな2号館の細い隙間。
そこを埋めるように伸びる小さな螺旋階段を四階分のぼりきる。
目の前の錆び付いた扉を全開にした。
すると、その小さな屋上には先客がいた。
あぐらをかいてど真ん中でカメラを構えている。
一眼レフのレンズは静かに前後する。
あの急な階段を登ってこんな狭い屋上に来る物好きが、自分以外にもいたなんて。
物好きは天然パーマのせいか、ホワホワした頭を風になびかせながら、ずっと一眼レフを覗きこんでいる。
・・どうしよう。
私のいつも特等席は物好きが今座っている場所だ。
しかし端っこで寝転ぶのは好きではない。
そんなことを考えていると物好きがこちらに気付いたようで、一眼レフを膝に置きくるりと顔を私に向けた。
無気力なぼーっとした目と真一文字に結ばれた口はただ私を見ていた。
数秒して物好きはカメラに意識を戻した。
-まぁ悪い人じゃなさそうだし、後ろにお邪魔するか。
私はレンズを覗きこんだままの物好きに近づいた。
そして手を伸ばして届くか届かないかの距離でその後ろに寝転がった。
物好きの背中は動かない。
よかった気にしてないみたいだ。
私はほっとしていつものように手を頭の下に組み、まぶたを閉じた。
--カシャッ-
目を開けるとレンズが私を見ていた。
物好きが顔からカメラを下げ、私の目を見た。
「・・・。」
「・・・。」
表情が変わらないので感情が読み取れない。。
私は率直に聞いた。
「何撮ってんですか。」
「キレイだったから。」
間髪入れないもの好きの答えになっていない返事に、私は赤面してしまった。
顔が赤くなるなんて何年ぶりだろうか。。。
-つづく-