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限界課金厨、推しのいる世界で「石」がない!  作者: 沼口ちるの


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第9話 廃棄物置き場の聖母

「……あ、が……っ」


喉の奥から、乾いた喘鳴が漏れる。腕の傷口からマリアンヌの基盤へと流し込んだのは、俺の「生命(HP)」そのものだ。 視界はセピア色に染まり、輪郭が二重三重にぶれる。ゲームの警告アラートが、頭蓋骨の内側で鳴り止まない。


【 警告:瀕死状態。これ以上の供給はショック死を招きます 】


「……うるせぇ。……まだだ……っ」


俺は震える手で、マリアンヌの冷たい頬をなでた。その瞬間、彼女の胸の奥で、カチリと時計の針が動くような音がした。


【 緊急再起動シークエンス:フェーズ1完了 】 【 プレイヤーの『生存本能』を燃料に、一時的な意識の浮上を確認 】


「……マスター……。……システム、致命的な欠損。……私は、死んだ……はず……」


「……死なせない。俺が……お前を……引いたんだ。完凸させるまでは、勝手にログアウト(死ぬ)なんて許さねぇぞ」


俺は意識を繋ぎ止めるために自分の唇を噛み切った。鉄の味が口内に広がり、少しだけ意識がはっきりする。マリアンヌは、俺の血で汚れた腕を、信じられないものを見るような目で見つめた。


「……非効率な、行為……。……このような……ガラクタに……。……無意味……です……」


「……意味なら、これから、俺が作ってやる」


その時、廃棄物置き場の入り口から、下卑た笑い声が響いた。ルミナがギルドへ向かってから、わずか数十分。最悪のタイミングで、ハイエナたちが現れた。


「おいおい、見ろよ。やっぱりここに隠れてやがった。あの女の連れはいねぇな」 「その女……よく見りゃ上玉じゃねぇか。壊れてるみたいだが、バラして売れば結構な値になるだろ?」


現れたのは、街のゴロツキ三人衆。手には錆びたナイフと、威嚇用の鉄パイプ。リヒターのような冒険者なら一睨みで逃げ出すような小悪党。だが、今の俺にとっては、死神と同じ絶望そのものだ。


「……触るな。……そいつは、俺の……」


「あぁ? 何か言ったか、死に損ない」


先頭の男が、俺の腹を力任せに蹴り上げた。 「ごふっ……!」 胃液と血が混じったものが逆流し、俺は地面に転がった。泥と生ゴミの悪臭が、鼻を突く。指先一つ、力が入らない。


「おらよ、退け。そのガラクタ女は、俺たちが有効活用してやるからよ」


男たちがマリアンヌに手を伸ばす。その細い首を、汚れた手が掴もうとした瞬間。


「……許可……していません」


マリアンヌの瞳が、赤く、不気味に発光した。


【 外部干渉:拒絶リジェクト 】 【 残存エネルギー……0.1%。強制反撃カウンター術式……起動 】


バキリッ! という、生々しい音が響いた。 マリアンヌに触れようとした男の手首が、不自然な方向に曲がっている。彼女は、横たわったまま、ただ指先を動かしただけだった。


「……ぎ、ぎゃあぁぁぁっ! 俺の手が! 手がぁっ!」


「な、なんだこの女! 化け物か!?」


たじろぐ男たち。だが、マリアンヌの体からは、再びバチバチと火花が散り、青白い煙が上がった。「俺の血」を使い果たした。これが彼女の、限界の防衛判定だ。


「……マスター……。……限界、です……。……これ以上の……保護は……不可能……」


彼女の瞳から光が消え、再びその体は重い鉄の塊へと戻る。


「……この野郎! よくもやりやがったな!」


逆上した男たちが、鉄パイプを振り上げる。俺は、倒れたマリアンヌの上に覆い被さった。 背中に、鈍い衝撃と、骨が軋むような痛みが走る。何度も、何度も。 意識が遠のく中、俺はマリアンヌの冷たい耳元で囁いた。


「……絶対……直してやるからな……。……待ってろ……」


泥水を啜り、血を流し、プライドを粉々に砕かれても。俺は、この「ハズレ」と呼ばれた女神を、最強の「当たり」へと変えてやる。 その執念だけが、俺を死の淵から繋ぎ止めていた。

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