第6話 仕様の穴を抉り出せ
第6話の添削案を作成しました。 これまでの「溜め(絶望)」が、この「仕様ハック」によって一気に開放される重要な回です。
主人公の思考をより「冷酷なゲーマー」に寄せ、勝利の瞬間を「ヒロイック」ではなく「執念の結末」として描きました。
【添削案】第6話:仕様の穴を抉り出せ
「……クソ……、……見てろよ」
リヒターに投げ捨てられた路地裏で、俺は鈍く光る『古びた鉄の包丁』を拾い上げた。 ルミナは幸い意識を取り戻しつつあるが、その顔は苦痛に歪んでいる。
今のままじゃ、次も同じ結果だ。リヒターの言う通り、俺はただの無能。だが、それは「この世界の住人」として戦おうとするからだ。俺は、この世界の「運営」が書いたコード(ルール)を知っている。
「ルミナ、動けるか?」
「……う、ん。ごめんね、指揮官。私が弱いせいで……」
「違う。俺がやり方を間違えていただけだ。『正攻法』なんて、今の俺たちには贅沢すぎるんだよ」
俺は空中に浮かぶ半透明のウィンドウを、狂ったようにスワイプした。狙うのは、誰もが見向きもしない【ヘルプ】の項目、その最下層にある、膨大なテキストデータの海だ。
(このゲーム『ヴァルリユ』には、古参の廃課金兵だけが知っている隠し仕様があったはずだ……)
最新のSSRキャラや聖剣で殴り倒すことに慣れすぎて忘れていた。だが、初期の攻略スレの片隅には、確かに書いてあった。 「低レアリティの消費アイテムを特定の順番で組み合わせると、演算の隙間を突いた『挙動』が発生する」という記述が。
俺はギルドの報酬で手に入れた残り少ない端金を、ショップの【消耗品】へと叩き込んだ。 購入したのは、最も安価な『腐りかけの薬草』と、ただの『香辛料(胡椒)』。そして、さっき引いたハズレアイテム『古びた鉄の包丁』だ。
「指揮官? そんなゴミばかり集めて、どうするの……?」
「ルミナ、この世界の『物理演算』は、ゲームのロジックに基づいている。なら、攻撃力が低くても、相手の防御力を『無視』する方法がある。……仕様だよ、ルミナ」
俺はドロドロに溶けた薬草の汁を包丁の刃に塗りつけ、その上から胡椒を大量に振りかけた。ひどい刺激臭が鼻を刺すが、俺の視界には「特殊なアイコン」が薄く点滅し始めた。
【 隠し合成:発酵した麻痺毒(劣化版) 】 【 物理判定:極小 / 状態異常付与:極大 】
「ルミナ、囮を頼めるか。一瞬でいい、リーダーの足元に隙を作ってくれ」
「……わかった。指揮官を信じるよ!」
俺たちは再び、先ほどのゴブリンリーダーがいた広場へと戻った。
「ギギャアァッ!」
ルミナがなまくらの剣を盾に、決死の突撃を仕掛ける。リーダーの棍棒が彼女を叩き潰そうと振り下ろされた瞬間、俺は泥の中を這うようにして、その足元へ滑り込んだ。
リヒターなら、正面から首を撥ねるだろう。だが、俺は違う。 俺は、この世界の『当たり判定の穴』……関節の隙間だけに設定された、防御力0の極小ピクセルを狙う。
「……ここだッ!」
『古びた鉄の包丁』を、リーダーの足首の腱に突き立てた。 攻撃力は1。だが、塗りたくった『麻痺毒』の判定が、演算の隙間を縫ってリーダーの全身を駆け巡る。
「ギ、ギギッ……!?」
巨体が硬直する。フレーム単位の攻防を制した、わずか3秒間のフリーズ状態。 だが、現実の3秒は、命を刈り取るには十分すぎる時間だ。
俺はリーダーの背中に駆け上がり、耳の穴から脳天へ向けて、包丁を全力で突き刺した。 「死ね。……俺の10連分の養分になれ」
ドサリ、とリーダーが崩れ落ちる。
「はぁ、はぁ……、……倒した。倒したぞ、ルミナ!」
「すごい……! 本当に、あの包丁一本で……!」
ルミナが呆然と立ち尽くしている。英雄のような華々しさも、戦士のような誇りもない。泥と糞にまみれ、バグを突いて怪物を屠った俺の姿は、彼女の目にはどう映っているだろうか。
その時、視界にファンファーレのような通知が飛んできた。
【 隠し実績:ジャイアント・キリング(低レアリティ)を達成 】 【 報酬:魔法石 1000個 】
「……1000個。……ふ、ふふ、あはははは!!」
俺は血まみれの顔で、下品な笑みを浮かべた。 正攻法? 冒険者の矜持? 知ったことか。俺は『指揮官』だ。 ドブ板の裏だろうが、運営の喉元だろうが、そこにある『石』を全部剥ぎ取ってやる。
俺の震える指先は、すでに次なる「ガチャ」のボタンへと吸い寄せられていた。




