第21話 不釣り合いな軍団
スクラップガムの巨体が沈黙し、処理場に静寂が戻る。 マリアンヌの新しい「鉄屑の右腕」からは、初期装備の呪いとURの出力が混ざり合った、どす黒い熱気が立ち上っていた。
「……マスター。戦闘終了。……私の出力、安定。セシル、セレスティアの両名のレベルアップを確認しました」
マリアンヌの報告通り、俺以外のメンバーの周囲には、経験値獲得による淡い光の粒が舞っていた。
【 氷魔剣士セシル:Lv.24 】 【 聖女セレスティア:Lv.22 】 【 ルミナ:Lv.15 】 【 指揮官:Lv.1(成長放棄・固定) 】
「……ふふ、マスター。あなた一人だけが、まるで時が止まったかのようですね。魂を切り売りし、中身がスカスカになったレベル1の指揮官……。これほど滑稽で、これほど頼もしい姿もありませんよ」
ファウストが俺の「売った経験値」をフラスコに詰めながら、下品に笑う。 俺の体は相変わらず重く、少し動くだけで息が切れる。だが、それでいい。この世界の「指揮官システム」には、指揮官とユニットのレベル差が開くほど、逆説的に『絆』の倍率がクリティカルに跳ね上がるという、やり込み勢専用の隠し仕様があるからだ。
「――そこまでだ。ゴミ拾いのネズミ共」
処理場の入り口。逆光の中に、あの銀色の甲冑が立っていた。 冒険者リヒター。だが、前回の「ゴミを見るような目」ではない。その手には大剣が握られ、本気の殺気が処理場の空気を凍らせている。
「地下から異常な魔力反応、そして古代兵器の起動……。何をしているかと思えば、あの時の浮浪者が化け物を従えているとはな」
「リヒター……。……助けてもらった礼を言うには、少し状況が悪そうだな」
俺はフラつく足で、マリアンヌの前に出た。HPは初期値。リヒターが本気で踏み込めば、俺の首は一瞬で飛ぶだろう。
「その女……マリアンヌと言ったか。それは王国の禁忌に触れる遺物だ。そして貴様が連れている聖女も、教会が血眼で探している『逃亡者』。……これ以上は、騎士の矜持にかけて見過ごせん」
リヒターが大剣を構え、地面を蹴った。 速い。レベル1の動体視力では、もはや残像すら追えない。だが、俺は「目」で追っているのではない。「記憶」で追っている。
「セシル! 右から二番目の柱に氷を張れ! マリアンヌ、その氷を右腕で叩き割って破片を散らせ!」
「なっ……!?」
リヒターの必殺の一撃が届く寸前、俺の「予知」に近い指示が飛ぶ。 セシルが即座に反応し、マリアンヌの鉄の腕が氷を砕く。散らばった鋭利な氷の礫が、リヒターの「最適化された移動軌道」を物理的に遮断した。
「……貴様、なぜ私の動きを……! まるで、私が次に何を放つかを知っているような……」
「……当たり前だ。お前は『勇者候補』という名の、最もテンプレな最強ビルドだからな。お前が次にどのスキルを使い、どのタイミングで息を吐くか……その『モーションの予備動作』の全てを、俺は数万回も画面越しに見てきたんだよ」
俺は、鼻から流れる血を拭いもせず、不敵に笑った。 レベル1。ステータスは最底辺。だが、俺の頭の中には、この世界の全ての「正解」がデータベースとして詰まっている。
「さあ、始めようか、リヒター。……レベル差が、実力差じゃないってことを教えてやる」




