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限界課金厨、推しのいる世界で「石」がない!  作者: 沼口ちるの


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第20話 ゴミの王が遺した「遺産」

地下水道の最深部、王都のあらゆる廃液が流れ込む「最終処理場」に俺たちは辿り着いた。 そこは、かつてゲームのオープニングで、プレイヤーがマリアンヌに連れられて最初に降り立つはずだった「約束の場所」のなれの果てだ。


巨大な鉄格子の向こう側。山のように積まれた錆びた武具の頂点に、それはあった。


「……あれか」


俺の視線の先、ヘドロに半分埋もれているのは、ボロボロの布に包まれた一本の剣。かつて全プレイヤーがチュートリアルで装備し、レベル10になれば即座に店売りされる運命の武器。


【 カテゴリー:初期装備(廃棄済み) 】 【 名称:はじまりの鉄剣(真名:不変の誓い) 】


「……マスター。あれは、ただの鈍なまくらです。魔力の伝導率も最低、強度は石ころ以下。あんなものを求めて、ここまで命を懸けたのですか?」 ファウストが心底理解不能だという顔で、フラスコを揺らす。


「黙ってろ。……セシル、あそこまで道を作れ」


「承知した。だが、番人が黙ってはいないようだぞ」


ヘドロの山が盛り上がり、巨大な鉄屑の塊が姿を現した。 かつてのチュートリアル・ボス『廃棄物回収機・スクラップガム』。不法投棄された武具を取り込んで肥大化したそれは、レベル1の俺にとっては、掠っただけで即死する「絶望の壁」だ。


「ギギギ……廃棄……対象……検知……」


「……マリアンヌ、ちょっと待ってろよ。今、お前の『右腕』を拾ってきてやる」


俺は背中のマリアンヌをルミナに預け、レベル1の体で泥の中を駆け出した。 ガーディアンが巨大な鉄の腕を振り下ろす。衝撃で汚水が津波のように襲いかかるが、俺の目は、敵のモーションの僅かな隙間に固定されていた。


「セシル、正面から受けるな! 右足の付け根にある『テクスチャの隙間』に剣を突っ込め! 判定をバグらせるんだ!」


「くっ……ここか!」


セシルの魔剣が、スクラップガムの繋ぎ目に吸い込まれる。本来ならダメージが通らないはずの重装甲だが、システムの穴を突いた攻撃は「内部ダメージ」として敵の演算を狂わせた。


敵が怯んだ隙に、俺はガラクタの山を登り、その『初期装備』を掴み取った。手に持った瞬間、頭の中に警告音が鳴り響く。


【 警告:この装備は、マリアンヌ(UR)との『同時装備』により隠しパッチが適用されます 】 【 仕様変更:装備者のレベルを『1』に固定する代わりに、ユニットの『初期化(消滅)』を拒絶する 】


「……これだ。これこそが、運営が消し忘れた唯一の救済策バグだ!」


俺は引き抜いたボロボロの剣を、マリアンヌの欠損した右腕の接合部へ、くさびのように叩き込んだ。 「ぐ……あ……ぁ……ッ!!」


マリアンヌの体が大きく跳ねる。 【 連結完了:はじまりの鉄剣 ⇔ マリアンヌ 】 【 欠損補完:周辺の鉄屑を触媒として、消滅エネルギーを『右腕』へ再構成します 】


ヘドロの中に沈んでいた鉄屑が、磁石に吸い寄せられるように彼女の肩へと凝集していく。 美しき白磁の左腕とは対照的な、黒錆とオイルに塗れた、あまりにも巨大で無骨な「鋼の右腕」。


「……マスター。……再起動。限定解除アンロック――いいえ、強制執行を確認」


マリアンヌが静かに立ち上がる。瞳に宿るのは、俺の怒りと同期した、燃えるような黄金の輝き。


「……ふ、ふふ……。初期装備を『鍵』にして、消滅タイマーを『出力』へ変換したというのですか? マスター、あなたは本当に……システムへの反逆者だ」


ファウストが震えながら歓喜の声を上げる。


「マリアンヌ。自爆スキルじゃない。……その『ゴミ』で、あいつを粉砕しろ」


「了解。――『はじまりの断罪』、執行します」


彼女が鉄の右腕を振り抜いた瞬間、巨大なガーディアンの胴体が、紙細工のように真っ二つに引き裂かれた。 経験値は入らない。レベルも1のままだ。 だが、俺たちは、ゴミ捨て場の中で「世界の仕様」を殴り飛ばす最強の鉄拳を手に入れたのだ。



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