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限界課金厨、推しのいる世界で「石」がない!  作者: 沼口ちるの


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第19話 レベル1の暴君

「……はは、……そうだな。俺が強くなる必要なんてねぇ。……素材さえ揃えば、勝てるんだからよ」


ヘドロの混じった汚水を吐き出し、俺は立ち上がった。 ファウストにレベルアップの権利をすべて売り渡したせいで、俺の体は鉛のように重い。だが、その代償として、マリアンヌの消滅タイマーは『00:01』で完全にフリーズしている。


「……マスター。……機能不全。……戦闘継続、不可……」


物言わぬ人形のようになったマリアンヌを、俺は力ずくで背負い、革ベルトで自分の体に固定した。右腕を失った彼女の体温は、氷のように冷たい。


「セシル、セレスティア。……前を見ろ。俺に経験値は入らない。敵を倒して得られる全ての『因果』は、マリアンヌを繋ぎ止めるための燃料としてファウストに流れる仕様だ。……最短ルートで、あいつを直すための『素材』だけを狩り獲るぞ」


地下水道の奥、闇の中から、バグで肥大化した巨大な「汚水ネズミ」の群れが迫る。 本来なら倒せばレベルが上がるはずの敵。だが、俺のシステムログには無情な通知が並ぶ。


【 獲得経験値:0(すべて代償として消費されました) 】 【 獲得アイテム:汚水ネズミの鋭牙 ×3 】


「……了解だ。貴殿がレベル1のまま地獄を歩むというのなら、私はその足元の障害を斬り裂くのみ」


セシルが魔剣を構える。経験値が入らない戦い。それは、ただの「リソースの奪い合い」だ。 俺は背中に重いマリアンヌを背負ったまま、戦場を俯瞰した。敵の動き、攻撃範囲、地形の当たり判定。レベル1の俺には、かすり傷一つが致命傷になる。だが、俺には「知っている(メタ知識)」というチートがあった。


「セシル、右足の歩幅を三寸下げろ。そこはポリゴンが欠けてて、敵の攻撃が当たらない『安全地帯セーフスポット』だ!」


「なっ……!? ……本当か。……確かに、攻撃が空を切る!」


バグだらけの地下水道は、俺のような廃人ゲーマーにとっては宝の山だ。システムの不備を突き、敵をハメ殺し、最低限の消耗で素材を剥ぎ取っていく。


「ふふ……。成長という未来を完全に捨て、今この瞬間の『素材』だけを求める。マスター、あなたは本当に、反吐が出るほど素晴らしいギャンブラーだ」


ファウストが、俺が受け取るはずだった「経験値」をフラスコに回収し、それをマリアンヌの消滅を抑えるための黒い煙へと変換していく。 レベルは上がらない。ステータスも初期値のまま。だが、俺の手元には、没データの『コア』をマリアンヌに定着させるための「ジャンクパーツ」が着実に積み上がっていった。


「マリアンヌ。……聞こえるか。お前を最強のURに戻すまでは、俺は『レベル1の暴君』で十分だ」

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