第16話 欠陥だらけの最終兵器
「――システム、再起動。全回路、正常……いいえ、限定動作を確認」
碧色の光が収まり、マリアンヌがゆっくりとその上体を起こした。 セレスティアの祈りとファウストの禁忌。その全てを注ぎ込み、俺たちはついに「運命」を書き換えた――はずだった。
「……マリアンヌ」
「……はい、マスター。個体名マリアンヌ、戦線に復帰しました。……ですが、深刻なエラーが残存しています。『神の心臓』未装着による、強制的な機能制限を確認」
彼女が立ち上がると、足元の石畳がバチリと火花を散らした。俺は慌てて彼女のウィンドウを開く。そこには、目を疑うような記述が並んでいた。
【 ユニット:マリアンヌ(UR / 欠陥状態) 】 【 出力:『コア』不在により、最大値の5%に固定 】 【 特記事項:魂の器が不安定です。残り稼働時間:600秒 】 【 備考:このユニットはイベント終了後に消滅するようにプログラムされています 】
「……は? 5パーセント……? それに、10分で消滅だと!?」
俺は絶叫した。URというレアリティ、そしてあれほどの苦労。期待していたのは、戦場を薙ぎ払う「破壊の女神」の再来だった。だが、目の前にいるのは、攻撃力も防御力もルミナと大差ない、文字通りの「使い捨て(チュートリアル)データ」だ。
「ふふ……これは傑作ですね。マスター、あなたが命を削って直したのは、エンジンを抜かれたレーシングカーだ。一度走らせれば、二度と動かない」 ファウストが嘲笑う。
「……マスター。不当な評価は、演算の妨げになります。私は、あなたのコマンドを待っています。……現時点での最適解を提示します。――『自爆』により、マスターの退路を確保しますか?」
マリアンヌが無表情に、胸の起爆スイッチに指をかけた。
「やめろッ! 死ぬために直したんじゃねぇ!」
俺は彼女の腕を掴み、力任せに引き寄せた。出力5%? 稼働10分? そんなことは百も承知だ。
「……マリアンヌ。お前に、新しいコマンドを上書きする。……セシル、冷気で彼女のオーバーヒートを抑えろ! セレスティア、彼女の回路に強制的に魔力を流し込んで、カウントダウンを遅らせろ!」
「マスター、無理やり負荷をかければ、彼女の器が焼き切れますよ?」
「焼き切れる前に、俺が『本物の心臓』を奪い取ってやる! 行くぞ……ゴミ捨て場の反乱だ!」
その時、拠点のハッチを激しく叩く音が響いた。
「開けろ! この辺りに『正体不明の魔力反応』を検知した。王都守備隊の検問だ!」
「……来やがったか。ちょうどいい、マリアンヌの『試運転』の相手になってもらう」
俺は、弱体化したマリアンヌをあえて先頭に立たせた。 「マリアンヌ、スキル『自己犠牲の盾(自爆)』を強制変更する。……ダメージ判定を反転させ、**『爆発的な瞬発移動』**として使え! 命を捨てるな、距離を詰めろ!」
「了解。……指示を理解しました。……いきます」
俺たちは再び地獄を走り抜ける。不完全な女神の背中に、自分自身の残りのHPを全て懸けて。




