第15話 祈りは届かず、奇跡は届く
「……こいッ、虹……! 虹を見せろッ!」
視界が血で霞む。九千個の石を注ぎ込んだ、魂の三十連。 一回目、二回目と、画面にはRの鉄屑とSRの消耗品が並び、俺の心臓をじりじり削っていく。そして、最後の十連。召喚の螺旋が、天を衝くような眩い黄金の光に包まれた。
「……あ」
その光の中から、静かに歩み寄る人影。長い金髪をなびかせ、純白の法衣を纏った、清廉潔白を絵に描いたような美女。かつて、俺がサービス終了の間際に天井まで追った、あの『聖女セレスティア』だった。
【 SSR:聖女セレスティア 】 【 職能:至高の治癒、および魔力浄化 】
「……天の導きにより、参上いたしました。迷える子羊よ、その傷を癒しましょう」
鈴の鳴るような慈愛に満ちた声。俺は思わず、その神々しさに涙が出そうになった。……が。
「……法衣……? なんでフル装備の法衣なんだよッ!」
俺は血を吐きながら叫んだ。 「違うだろッ! 俺が最後に見た彼女は、眩しい太陽の下、際どい紐で繋がれた『水着姿(夏の限定復刻)』だったはずだ! なんで首元までがっちりガードされた『通常版』が出てくるんだよッ!」
「えっ……? 指揮官、何を……。この方はとても立派な法衣を……」 ルミナが困惑して俺を見る。
「マスター、贅沢を言うものではありません。この高純度の魔力……彼女がいれば、私の錬金術の変換効率は十倍以上に跳ね上がりますよ。文字通り、黄金の卵を産む鶏です」 ファウストが、獲物を見るような粘ついた視線でセレスティアを値踏みする。
「……指揮官。その『水着』という礼装が何かは存じませんが、今のあなたに必要なのは、煩悩ではなく治療だと思われます」 セシルが軽蔑すら通り越した、氷のような溜息をついた。
当のセレスティアは、俺の不敬極まる叫びを「重傷による譫言」と判断したらしい。彼女がそっと俺の傷口に手を触れると、柔らかな光が溢れ、これまでどんな薬草も効かなかった激痛が、嘘のように消えていった。
【 状態異常:瀕死を解除。HPが大幅に回復しました 】 【 永続デバフ:最大HP減少を『加護』により一時停止 】
「……くっ、通常版の回復性能、えげつねぇな……。これだから恒常SSRは侮れない……」
俺は失われた「夏の思い出」を泥と一緒に飲み込んだ。だが、嘆いている暇はない。彼女が放つ魔力は、機械の基盤に優しく浸透し、飢えを訴えていたマリアンヌの回路を安定させていく。
【 マリアンヌ:再起動率 95% 】 【 警告:物理パーツ『神の心臓』が未装着です。現在の構成では起動後600秒で全機能が永久停止します 】
「……あと少しだ。あと少しで、マリアンヌが『武器』として完成する」
水着じゃなかった落胆はある。だが、セレスティアという「最高峰のヒーラー」を盤面に置いたことで、俺たちの泥臭い生存戦略は、ようやく「反撃」の段階へとシフトした。
「セレスティア、悪いが休ませてはやれないぞ。……次は、マリアンヌの『心臓』を奪いに行く」
俺は立ち上がり、手入れの行き届いた自分の右腕を握りしめた。 聖女の光と、氷の騎士、そして呪われた錬金術師。どん底のパーティーに、ついにピースが揃い始めた。




