第14話 全ロス寸前のボーナスステージ
地下シェルターの空気は淀み、カビと鉄錆の匂いが肺を焼く。 マリアンヌの生命維持には成功したが、俺たちのリソースは完全に枯渇していた。セシルの魔力は残り数パーセント。ルミナの胃袋は限界。そして俺は、最大HPを削りすぎた影響で、立っているだけで意識が遠のく始末だ。
「……マスター。このままでは、明日を待たずに我々は機能停止(全ロス)します」 セシルが壁に寄りかかり、力なく告げる。
「ふふ、いいですね。極限の飢餓、絶望的なリソース不足……。まさに最高の『触媒』が揃っていますよ」 ファウストが冷酷に笑う。その視線の先にあるのは、シェルターの最深部に鎮座する「開かずのハッチ」だ。
ここは、かつてのゲーム設定では『チュートリアル後に崩壊する拠点』だった場所。本来なら二度と立ち入れないはずのエリアだが、今の俺の視界には、バグのように激しく点滅する通知が浮かんでいた。
【 隠しミッション:閉ざされた過去の清算 】 【 条件:HP10%以下の状態で、未開放の初期エリアを物理的に破壊せよ 】 【 報酬:魔法石 9,000個 】
「九千個……。これがあれば、10連がちょうど3回。逆転の『試行回数』が手に入る」
俺は、ファウストから渡された『不安定な自爆薬』を右手に握った。これをハッチの隙間にねじ込み、至近距離で起爆させる。今の俺のHPなら、爆風のかすり傷一つで「ゲームオーバー」だ。
「指揮官、ダメだよ! そんなの、死んじゃう!」 ルミナが必死に俺の腕を掴むが、俺はその手を優しく振り払った。
「ルミナ、これが……俺の知ってる、一番効率的な『リセマラ』なんだよ」
俺はハッチに自爆薬を叩きつけ、セシルの氷で守るどころか、あえて爆心部へと一歩踏み出した。 ドォォォォォン!
衝撃が脳を揺らし、肺を潰す。全身の細胞が「死」を拒絶して絶叫する中、俺の視界には「予定通り」の数字が浮かんだ。
【 警告:HP残り 1 】 【 隠しミッション達成:死の淵の突破を確認 】 【 判定:想定外の攻略手順により、報酬ランクが上昇します 】
吹き飛んだハッチの奥。そこには、王都の美辞麗句では決して語られない、剥き出しのバグと没データの残骸――『魔法石の結晶体』が、毒々しいまでの黄金色に輝いていた。
「……げほっ、……はは、……見たかよ。運営様……。お前らが捨てた『ゴミ』で、俺はもう一度、トップへ手を伸ばしてやるぜ」
俺は血に濡れた指で、空中に浮かぶ召喚画面を呼び出した。石九千個。計30回。これが、俺たちがこのゴミ溜めから這い上がるための、唯一の軍資金だ。
「セシル……、ファウスト……。準備しろ。……ここからが、本当の『編成』だ」
俺は薄れゆく意識の中で、3連続の10連召喚ボタンを叩きつけた。 祈りなんてしない。神に縋る時期はとうに過ぎた。俺はただ、俺の命と引き換えに、この不条理を粉砕するための「暴力」を求めていた。
光の奔流が、シェルターの闇を完全に消し去った。




