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限界課金厨、推しのいる世界で「石」がない!  作者: 沼口ちるの


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第13話 等価交換の味は、鉄と錆

「――さあ、覚悟はよろしいですか。出資者マスター?」


ファウストが、気味の悪い紫色の液体で満たされたフラスコを振る。彼が仲間に加わったことで、俺たちの「効率」は劇的に向上した。だが、それは楽になったという意味ではない。


「……やれ。マリアンヌが保たないんだ、四の五の言ってられるか」


俺は、セシルの氷で感覚を麻痺させていた「折れた右腕」を、ファウストの目の前に差し出した。 これから行うのは、錬金術による『苦痛の抽出』。ゴミ捨て場から拾い集めた低ランクの魔力石の欠片。それらをマリアンヌの修復に必要な『高純度魔力液』へ昇格ランクアップさせるための、文字通り命を削る触媒だ。


「よろしい。では、あなたの『痛覚』と『恐怖』を、黄金の糧としていただきます」


ファウストが呪文を唱えた瞬間、折れた腕に熱した鉄を直接流し込まれたような激痛が走った。


「が、あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


あまりの痛みに、視界が真っ白に弾ける。麻痺させていたはずの氷すら突き破る、根源的な苦痛。ゲームなら「変換中」のゲージが進むだけだ。だが現実では、自分の神経が一本ずつ引き抜かれ、溶かされていくような感覚に、胃の中のものを全て吐き出した。


「指揮官! もうやめて、お願い!」 ルミナが俺の背中を支え、泣き叫ぶ。


「……マスター。このような非道、騎士として見過ごせません。今すぐその男を斬り捨てれば、痛みは止まります。……命じてください」


セシルが、抜剣すら叶わぬ震える手で、魔剣の柄を握りしめていた。彼女の冷徹な仮面の下には、主君を救えない無力感と、禁忌への激しい嫌悪が渦巻いている。


「……断る、セシル。……手を出すな。これは、俺が払うと決めた『コスト』だ……ッ!」


俺の絞り出した拒絶に、セシルは唇を噛み締め、静かに目を伏せた。彼女にできるのは、ただ静かに、俺の流れる血がこれ以上冷えないよう、魔力で周囲の気温を調整することだけだった。


「……ふふ、素晴らしい。実に純度の高い絶望だ」


ファウストが掲げたフラスコの中で、泥のようだった液体が、澄み渡るような碧色へと変化していく。俺は地面に突っ伏し、泥を噛みながら、その光景をぼやけた瞳で見つめていた。


【 錬成完了:高純度魔力液(劣) 】 【 代償:最大HPの10%を永続的に減少 】


「はぁ、はぁ、……、……出来たか」


俺は震える手で、その碧色のボトルをマリアンヌの供給口へと流し込んだ。コト、と彼女の体の中で、小さな、しかし力強い駆動音が響く。


「……マスター。あなたは、正気ではない。だが、その狂気こそが、我らのような『外れ者』を引き寄せるのでしょう」


セシルが、俺の血で汚れた顔を布で拭う。その指先は微かに震えており、彼女の中にある「正義」が、この泥臭い生存戦略によって刻一刻と塗り替えられているのが分かった。


「……次は、何をするんだ。ファウスト」


「そうですね。次は、その汚れた『レシートのゴミ』と、あなたの『空腹感』を交換して、糧食を作りましょうか。……もっとも、食べた後は三日三晩、ひどい悪夢にうなされることになりますが」


「……上等だ。夢の中で死なないなら、いくらでも食ってやる」


俺は、もはや自分の腕の感覚が失われていることに気づきながら、薄暗い地下で狂ったように笑った。 ソシャゲ知識を武器にした、泥臭い錬金術。いつか最強の指揮官に戻るその日まで、俺は自分の全てを切り売りしてでも、この地獄を這いずり回ってやる。

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