第12話 七千の祈りと、さらなる代償
セシルの冷気で凍りついたゴロツキどもから、薄汚れた財布と使い古しのナイフを剥ぎ取る。 「……たったこれだけか」
手に入ったのは、銅貨数十枚。パンを数日分買うのが精一杯の、情けない『ドロップアイテム』だった。 SRのセシルがいれば、雑魚相手に負けることはない。だが、彼女の魔力を維持するための「食費」や、マリアンヌの修復費用を考えれば、こんな小銭は何の解決にもならない。
「マスター。私の維持効率を考えるならば、より高純度の魔力供給源、あるいは後衛からの継続的なリソース支援が必要です」
セシルが淡々と現状を分析する。彼女は強いが、燃費も最悪だ。このままでは、彼女の魔力が枯渇した瞬間に、俺たちは再び泥の中へ逆戻りだ。
「……分かってる。だから、ここで決める。『単発』の奇跡に縋る時期は終わった。ここからは『物量(期待値)』でねじ伏せるぞ」
俺は震える指で、空中をスワイプした。残りの魔法石、7,000個。 一気に20連を回すか、それとも10連ずつ慎重に行くか。……いや、迷う必要はない。廃課金兵の直感が告げている。「流れ」は今、このゴミ捨て場に来ている。
「セシル、マリアンヌを支えてろ。……世界を書き換えるぞ」
俺は【10連召喚】のボタンを二度、立て続けに叩きつけた。
視界を埋め尽くす光。 一回目、ハズレ。青、青、黄色……出たのはRの装備品や強化素材だ。 「……チッ、まだ足りないか」 だが、これでいい。ハズレが出るほど「擬似的な天井(運気)」が蓄積される仕様が、このシステムにはあったはずだ。
そして二回目、最後。 召喚の螺旋が、今まで見たこともないような『禍々しい赤』に染まった。
【 特殊召喚:強欲のカテゴリーを選択 】 【 レアリティ:SR+(リミテッド) 】 【 ユニット名:呪縛の錬金術師・ファウスト 】
光の中から現れたのは、黒いローブを纏い、顔の半分を包帯で隠した異様な男だった。 「はじめまして、マスター。……いえ、『出資者』と呼ぶべきでしょうか。私はあなたの命を削り、黄金に変える……そんなお手伝いをさせていただきますよ」
【 特殊能力:等価交換 】 (……こいつだ。初期環境で『ゲームバランスを壊した』と悪名高かった、自傷型のリソース変換ユニット!)
「マスター。この男からは、同族とは思えぬ不浄な気配を感じます。……今すぐ、塵にしておきますか?」 セシルの魔剣が、ファウストの首筋を凍らせる。
「おやおや、怖いですねぇ。脳まで凍っている騎士殿には、私の『付加価値』が理解できませんか?」
「待て、セシル。……ファウスト、お前の能力で、このゴミ捨て場のガラクタをマリアンヌの修理素材へ『変換』できるか?」
「ふふ……分かっていますね? 変換には相応の『痛み(コスト)』が伴います。さあ、まずはその折れた腕の激痛と、絶望の記憶を……『触媒』として、私に捧げてもらえますか?」
ファウストが差し出したフラスコに、俺は迷わず、血まみれの腕を突き出した。 「持っていけ。……痛みなんて、今の俺には一番安い『端金』だ。それでこの『ゴミ』が『資産』に変わるなら、安いもんだろ」
俺の血と苦痛がフラスコに吸い込まれ、黄金色の液体へと変わる。 石は空になった。だが、俺の陣容には、氷の騎士と、呪われた錬金術師が揃った。
「……さあ、始めようか。まずは、この街の『経済』からハックしてやる」
俺は血を流しながら、かつての王座に座っていた時のような不敵な笑みを浮かべた。




