第11話 氷の剣と、掃き溜めの終焉
「……来いッ!」
血と泥にまみれた視界の中で、10個の光が螺旋を描いて降り注ぐ。 青、青、黄色、青……。かつてなら見向きもしなかった「レア(R)」の輝きさえ、今の俺には救いの光に見えた。
そして、その中心で一際鋭く、凍てつくような「銀色」の光が弾ける。 虹色の最高レアではない。だが、その光には確かな殺意と、冷徹なまでの「強さ」が宿っていた。
【 SR:氷魔剣士セシル 】 【 召喚を完了しました。現界シークエンスを開始します 】
「……何だ、この冷気は!?」
鉄パイプを構えていた男たちが、思わず後ずさりした。廃棄物置き場の湿った空気が一瞬で凍りつき、立ち上る湯気が白く結晶して地面に降り注ぐ。
光の渦の中から現れたのは、藍色の軍服に身を包んだ、冷徹な瞳の女性剣士だった。 「……銀色(SR)か。全盛期の俺なら、即座に合成素材にしていたハズレ枠だ。だが、今の俺にとっては――この地獄を塗りつぶす、白銀の神に見えるぜ」
「……召喚に応じ参上した。貴殿が、私の新しい主か?」
セシルと呼ばれた彼女は、泥の中に倒れる俺を一瞥した。その瞳に、リヒターのような軽蔑はない。ただ、現状を冷静に分析する軍人のような鋭さがあった。
「セシル……。……あいつらを、掃除しろ。一ピクセルも動かすな」
「了解。障害物の排除を開始する」
彼女は抜剣すらしない。ただ、鞘に納めたままの魔剣で地面を一度叩いた。 「――『フロスト・ノヴァ』」 ゲーム上では『威力:小』の足止めスキル。だが、現実のそれは、男たちの血管内の水分ごと、存在そのものを石畳に縫い止める絶対零度の監獄だった。
「カッ……!?」
男の足元が石畳ごと凍りつき、逃げ場を失った体へ冷気の衝撃が叩きつけられる。一瞬。 たった一振りの剣風で、三人いたゴロツキは、その場に彫像のように凍りついて動かなくなった。
「……ゴミの掃除は完了した。マスター、治療を優先すべきだ」
セシルが俺の傍らに膝をつき、氷の魔力で傷口を仮止めするように冷やしていく。感覚が麻痺し、激痛が引いていく。
「……助かった。……マリアンヌは?」
「彼女の修復には、私の魔力だけでは足りない。だが、一時的な安定化は可能だ」
セシルは、藁の上に横たわるマリアンヌにも冷気による保護膜を張った。これで、彼女の崩壊はひとまず食い止められた。
俺はセシルの肩を借りて立ち上がり、凍りついた男の一人の前まで震える足で歩み寄った。そして、その胸元から金貨の袋を力任せに引きちぎった。
「おい……。……弱いやつには、外を歩く資格がないんだったな」
リヒターに投げつけられた言葉を、そのままこいつらに叩きつける。 「安心しろ、死なせはしない。……だが、こいつ(マリアンヌ)を動かすための『養分』にはなってもらう。金も、装備も、全部俺が課金(消費)してやるよ」
俺は、手に入れたばかりの「SR」の背中を見つめた。 最高レアではない。まだ最強でもない。だが、俺はこのゴミ溜めの中で、確かな「反撃の牙」を手に入れたのだ。
「セシル、こいつらが持ってる物、金目な物は全部剥ぎ取れ。靴の裏までだ。……ゴミ捨て場での生活は、今日でおしまいだ」
俺の物語は、ようやく「初期設定」を終え、本編へと動き始めた。




