第10話 廃棄場の埋蔵金
背中に振り下ろされる鉄パイプの衝撃に、意識が白濁する。 だが、その痛みすら今の俺には「リソース」に過ぎなかった。
「……ま、だだ。まだ……終わってねぇ……」
俺は泥の中に顔を埋めながら、視界の端で点滅する【周辺探索】のウィンドウを凝視していた。ここは街の廃棄物置き場――ただのゴミ捨て場だ。だが、ソシャゲの「仕様」として考えれば、ここは『低ランク素材のドロップエリア』の成れの果てだ。
(……あるはずだ。初期設定のフレーバーテキストに書かれていた、使い古しの魔導具から漏れ出した『残留魔力』が……!)
俺は殴られる衝撃を利用して、マリアンヌの下にあるガラクタの山へと指を突っ込んだ。金属片が肉を裂くが、構わない。指先が触れたのは、空になった魔力液のボトル。その底にわずかにこびりついた、乾きかけの液体だった。
「ひ、ひひっ……見つけた……。これでお前の『起動条件』が揃う……!」
【 獲得:魔力液の滓× 2 】
「おい、この野郎まだ笑ってやがるぞ! 気持ち悪い奴だ、とどめを刺せ!」
男が鉄パイプを大きく振り上げた。その瞬間、俺は集めた『滓』を、マリアンヌの基盤ではなく、自分自身の「血が流れている傷口」へと塗りつけた。
「……あ、ああぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
血管を焼けるような熱が駆け抜ける。本来、魔力液は外部から供給するもの。人体に直接取り込めば劇薬以上の毒になる。 だが、俺は知っている。かつての攻略wikiに一度だけ書き込まれた、検証班の狂った記録を。『指揮官の肉体を触媒にして不純な魔力を濾過し、ユニットへ転送する』。それは、現実の肉体という「バグの温床」があるからこそ成立する、禁断のパス(経路)だ。
【 警告:生体組織の崩壊を確認。神経系に回復不能なダメージが発生します 】
「……ダメージ? 違うな、これは『初期投資』だ。……リターンを寄越せッ!」
俺の腕から放たれた青白い閃光が、マリアンヌの心臓部へと吸い込まれていく。その光は、ゴミ捨て場の闇と、ゴロツキたちの卑俗な面を一瞬で焼き払った。
【 隠しミッション:『限界を超えし絆』の条件を達成 】 【 初回限定報酬:魔法石 10,000個 を獲得 】
一万個。かつての俺なら一分で溶かしていた端金だ。 だが、今、泥を噛み、死の淵に立つ俺にとって、これは世界を蹂躙するための『神の弾丸』だ。
「……ガチャを、回すぞ。……さあ、運営。ここからは俺のターンだ」
俺は、折れた指で空中に浮かぶ【10連召喚】のボタンを叩きつけた。 虹色なんて贅沢は言わない。この地獄を、この不条理を、一瞬で「削除」できる力を寄越せ……ッ!
召喚の光が、血に汚れた廃棄場を飲み込んでいく。その光の中心で、マリアンヌの指先が、今度ははっきりと、力強く俺の手を握り返した。




