表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
限界課金厨、推しのいる世界で「石」がない!  作者: 沼口ちるの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/24

第1話:天井のその先へ

「あと10連……これで、これで天井だ……ッ!」


薄暗いワンルームアパート。カップ麺の空容器とエナジードリンクの缶が散乱するデスクで、俺、ケンタは震える指でスマートフォンの画面をタップした。


今月分の家賃? 食費? 知ったことか。今、画面の向こうには、水着姿の『聖女セレスティア』がいる。この0.7%を掴み取れなければ、俺の夏は終わる。いや、俺という存在の半分が消滅するのだ。


「頼む……虹回転……虹演出……来いッ!!!」


祈りを込めた指先が、召喚ボタンをえぐるように押す。画面が光り輝く。確定演出の虹色だ。


「き、きたぁぁぁぁぁぁぁ!!」


脳内物質がドパドパと溢れ出す。心臓が早鐘を打つ。あぁ、この瞬間のために俺は生きている……。


ドクン。


心臓が、今まで聞いたことのない嫌な音を立てた。視界が急激に暗転する。薄れゆく意識の中で最後に見たのは、スマホの画面に表示された無慈悲な文字列だった。


『通信エラーが発生しました』 『タイトル画面に戻ります』


(ふざ……けんな……運営ェ……! 補填いし……寄こせ……ッ!)


俺の意識は、そこでプツリと途切れた。


***


「――指揮官? ……ねえ、起きてよ指揮官!」


鈴を転がすような声と、頬を突かれる感触。重いまぶたを開けると、そこには見知らぬ天井ではなく、見知らぬ美少女が顔を覗き込んでいた。


透き通るような銀髪、宝石のような碧眼。身にまとっているのは、露出度の高いファンタジーな騎士の軽鎧。


間違いない。俺が3年前に完凸し、秒単位のフレーム回避を体に叩き込んだ初期キャラ、『見習い騎士ルミナ』だ。


「ル、ルミナ……?」


「あ、やっと起きた! もう、作戦会議中に居眠りなんて余裕だね、指揮官」


彼女が腰に手を当てて怒る。その仕草、その表情の変化。最新の技術でもここまでは動かない。彼女は完全に生きていた。


俺は慌てて体を起こし、周囲を見渡した。そこは、俺が見飽きるほど見てきたゲームのホーム画面背景……王都の執務室そのものだった。


「ここは……まさか、ヴァルリユの中なのか?」


「ヴァルリユ? 何寝ぼけてるの。ここは王都アルカディアだよ」


夢じゃない。風の匂いも、椅子の硬さもリアルだ。まさか、死んでゲームの世界に転生したってことか?


だとしたら……最高じゃないか! 推しキャラが目の前にいて、会話ができる。俺が数百万つぎ込んだ愛しい嫁たちが、この世界には実在するんだ。


俺は感極まってルミナの手を握ろうとした。その時、視界の端に違和感が浮かび上がった。空中に、半透明の文字が並んでいるのだ。


【ミッション】【編成】【ショップ】……そして、【ガチャ】。


「……UIが出てる?」


俺はおそるおそる、空中の【所持アイテム】というボタンを指で突っついた。ポコン、という間の抜けた音と共に、ウィンドウが開く。


【 魔法石:0個 】 【 所持ゴールド:500 G 】


「……は?」


俺の背筋が凍りついた。死ぬ直前、俺のアカウントには天井分の石があったはずだ。それに、数年間でつぎ込んだ総額数百万に及ぶ課金資産は?


俺は震える手で【キャラ一覧】を開く。


『   NO DATA   』


「…………あ?」


空白。真っ白だ。俺が愛し、育て上げ、婚約指輪(1個2400円相当)を渡した50人の嫁たちは? 俺の最強パーティーは?


「あああああ! セレスティアアア! チャームうううう! 俺の……俺の、人生の、総資産がああああああ!!」


俺は執務室の床に突っ伏し、獣のような咆哮を上げた。絶望。これは死よりも深い絶望だ。無。すべてが無だ。資産価値ゼロ、徳俵に足がかかったどころか、スタミナ限界でコンティニュー不可の状態だ。


「指揮官!? どうしたの、急に発狂して! どこか痛いの!?」


「ルミナ……俺の、俺のデータが……死んでる……」


俺は亡者のような目で【ガチャ】のアイコンをタップした。そこには、見慣れた、しかし残酷な看板が踊っていた。


『ピックアップ召喚開催中! 新規指揮官応援キャンペーン!』 『1回召喚:魔法石 300個』


石がない。石がないと、誰も呼べない。


この世界はリアルだ。だが、俺の能力は「ゲームシステムのまま」らしい。つまり、ガチャを回してキャラを召喚しない限り、俺はルミナ以外の美少女と出会うことすらできないということか!?


「指揮官、さっきから空中の何もないところを触って……大丈夫? それより、早く出撃しよ! 今日は『ゴブリン討伐』の日だよ!」


ルミナが無邪気に俺の手を引く。ゴブリン討伐。いわゆる、デイリークエスト。


その言葉に、俺のゲーマー魂がピクリと反応した。


「……デイリーをやれば、石は貰えるのか?」


「石? 報酬のことなら、ギルドから少し支給されるけど……」


俺はガバッと顔を上げた。その瞳には、先ほどまでの絶望を燃料にした暗い炎が宿っている。


そうだ。データが消えたなら、また集めればいい。無課金なら、無課金なりの戦い方がある。


ログボ、デイリー、ウィークリー、詫び石。あらゆる手段を使って石をかき集め、俺はこの世界で再び最強のハーレムを築き上げてやる。


「行くぞルミナ! 今すぐゴブリンを根絶やしにする! リソース回収の時間だ!!」


「えっ、ちょっ、指揮官!? 急にやる気満々!? ……っていうか、顔が怖いよ!」


これは、ガチャという名の地獄に再び足を踏み入れた、一人の狂人プレイヤーの戦いの記録である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ